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13.消毒 ⭐︎

「厄介だ。可能な範囲で早急に何とかしてくれ……」


「は、はい……頑張ります……」


 ジークに背負われながら、初音は森を飛び回る。


 一緒に行きたいと騒ぐアイラだったけれど、ジークが有無を言わさず留め置いて来た。


 ぷうと頬を膨らましたアイラは、最終的に拗ねたようにクロヒョウの姿で丸くなってしまい、アワアワとする初音はジークに首根っこを掴まれて今に至る。


 身体がザワザワする変な感覚を感じたのはどうやら初音だけではなかったようだった。離れるほどに募る不快感に耐え切れず、狩りに集中できないからと引き返したとジークは言った。


「離れるほどに力も弱くなった気がするし、やはりそんな便利なものでもないな……」


「離れられないって……こと……?」


「……何かしらの制約があるのは使用がないとは思ってはいたが……」


「……色々試してみるから、少し時間をもらえるかな……」


「ーー…………あぁ」


 チラリと初音を見て、ジークはまた視線を戻す。


 足手まといではいられない。契約にどこまで効果があるのかもわからない。


 けれど少しの光明を引き寄せるべきであることくらいはわかるし、助けられた恩くらいは返したい。


 自分の居場所は自分で掴まなければいけないのだと、初音は体温の伝わるジークの服をギュッと握りしめた。






「ひとまず気持ち悪くない程度に近くにいるから、何かあれば名前を呼べ」


「……うん、ありがとう。じゃぁまた後で……」


 静かな森の中で見下ろしてくるジークに、にへりと笑って初音は答える。しかして話しの流れに沿ったはずの返答を返したはずなのに、動き出そうとしないジークに違和感を覚えて初音はその顔を伺い見た。


「……えっと……ジーク?」


「………………」


 何やら面白くなさそうな顔で初音を無言で見下ろすジークに色々な意味でドキドキする。


 日の元で見るその姿は、やはり何度見ても見惚れそうに男前だった。


 金の瞳に端正な顔。ダークグレーの長めの前髪に揺れる尻尾。均整の取れた無駄のない締まった身体。ピクリと動く耳と尻尾にまでも不思議と色気を感じる始末。


 ドキドキとする胸の一方で、すでに引き返せないあんなことやこんなことも同時に思い出してしまい、顔から火が出そうな動揺の中で初音は致し方なく心中で悟りを開く。


「…………不愉快だ」


「んぇ……っ!?」


 小さく呟いたジークの言葉を確かめる間もなく、顔を上向けさせられたと思った瞬間に左の頬にピリッとした痛みとザラっとした熱を感じる。


「えっ……えぇっ!?」


 状況が理解できずに目を白黒させる初音は、その場でカチーンと音がしそうなほどに硬直した。


「えっ!! えっ!? えぇっ!?」


「…………いちいちとうるさいヤツだな、ただの消毒だろ……」


「しっ……消毒っ!?」


 すっかりとそれどころでなくて忘れていたが、ハイエナ女にやられた左の頬の傷を舐められたのだと気づいたのは、息がかかるほど近くにある眉をひそめたジークの顔に、これまた硬直した時だった。


「しょ……消毒……っ」


 そう、動物はケガをすればそこを舐めるもので、初音に対する消毒効果があるかどうかは置いておいて、そんな対応をジークがしてくれることはきっと光栄なことのはずで。


 働かない頭で必死に言葉をリピートするだけで精一杯の初音に、顔を近づけたままジークは人型のままに近距離でくんくんと鼻を鳴らす。


「……他にキズはないか? …………まだハイエナどもの臭いがするな……」


 近距離で臭いを嗅がれ、初音は俯き加減のままに目を見開いて硬直する。


 髪、耳、口、首、肩、腕と順に嗅がれて緊張で身体が震えた。


ーーこ、これは……っ……ちょっと……っ!!


「……ここら辺か」


 ペロリと腕を舐め上げられて、ビクリと震える。そう言えば、ハイエナ男に腰回りも担がれなかっただろうかと思い出して、初音はザーっと血の気が引いた。


 そんな初音に気づいたのか、ピクリと見上げたジークの顔と、俯く初音の顔が近距離で停止する。


 互いの鼻先が触れそうな距離で、その金色の瞳に初音の姿が映り込むのがわかった。


「ぁ…………の……っ」


 緊張と照れと恥ずかしさと、急上昇する体温と吹き出す汗にまた緊張する悪循環が止められず、初音は茹で蛸のような真っ赤な顔で間近の顔を見つめるしかできない。


「……どうした……?」


「どっ……どうした……って……っ」


 純粋に? を浮かべている風のジークの怪訝な顔に、初音は頭を殴られたような衝撃と共に言葉を失う。


 動物であるなら互いの身体を舐め合うのはよく見られる行為であり、けれど今ジークは人型である上に初音は人間である訳でーー……。


「…………すっ」


「…………す?」


 うん? と言うジークの顔を見れずに目を強く瞑る。


「ステイっ!!」


「……がっ!?」


 初音はビクリと身体を硬直させて目を見開くジークの、その端正な顔を両手で覆って突っぱねる。堪えられずに無我夢中で叫んだ初音の声が、静かな森に鳴り響いたーー。






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