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スヴェチカの準備


 ベルアダードから降りて、私は残業の準備をすることにする。いつもはすぐに昼食をとるんだけれど、今日はそういうわけにもいかないから、軽食を買いに行くことにする。

「こっちでインターセプター装備を外して、バッシャー装備にしておくから」

 これは、ベルアダードから降りる時にベルから言われたこと。

 インターセプター装備は、飛来物を撃ち落とすための長距離雷撃装備だ。ベルアダードの機体より長い、物干し竿みたいな砲身をしてるから、これを背負ってどこかに行くには向いていない。

 白兵戦闘システムのバッシャー装備も要らない気がするけれど、一応、何かが有るかもしれないから仕方ないかも。

 そんな事を思い返しながら、私は荒れた道路を歩く。戦争が始まって、星を自衛のためのエネルギーシールドで閉じてから、インフラの整備はだんだん滞るようになってきている。

 日常的な消費物は、食料も含めて、有機物の完全な再変換システムが出来上がっているからなんとでもなるのだけれども。

 先を見る。尖った赤い屋根に白い壁の、高さの違う平屋の民家が並んでいる。まるで赤い傘のきのこが沢山生えてるみたいな街。

 通りに人の姿は、今日も無い。この星の人間が外に出る理由、あんまないもん。

 そんな淋しい街を五分と歩かないうちに、目的地に到着する。

 そこは、こじんまりとした民家だ。

「お婆ちゃん居るー?」

 私がそう聞きながらその中に入ると、カウンターの向こうに居たお婆ちゃんが顔を上げた。お婆ちゃんの視線の先では、モニターが古いアニメを映していた。ハムスターが、籠の中で車を元気に空回りさせている。

「おやスヴェチカ、今日の昼ご飯かい」

「そうなんだけど、ちょっと違うんだクーニャお婆ちゃん」

 白髪に眼鏡のお婆ちゃんは、クーニャお婆ちゃん。

 配給された食材を調理して、簡単な料理にして出している。趣味で。

 まぁ、ここに必要な労働なんてほとんど存在しないんだからそうもなるんだけど。

 私は鐘を鳴らす――飛来物を撃ち落とした後、私は大体ここで昼食を摂る。

「だとすると、なんだね」

「ちょっと飛んできたの壊しそこねちゃってね、破片探しに行ってくる」

「スヴェチカが壊し損ねるのは珍しいね。まぁ、気にすることじゃないさ、爺さんは良くやってたもんだし。爺さんがちっちゃな女の子を次に、って言ったときは驚いたけど、いやぁスヴェチカはよくやってるねぇ」

 言ってクーニャお婆ちゃんは笑った。

 お婆ちゃんとさっきベルが言っていた通り、私の前に鐘撞きをしていたお爺ちゃん――ザハール爺さんは、良く飛来物を砕きそこねていた。

 ザハール爺さんは私に鐘撞きを交代するときに、これは必要な仕事だ、なんて言ってたっけ。

 そんなザハール爺さんも、一年前に死んだ。

「そういうわけだから、移動しながら食べられるものが良いな」

「ならサンドイッチ辺りかねぇ」

 そう言いながら、お婆ちゃんはカウンターの下からランチボックスを取り出した。

「はい、これ持ってきな」

「ありがとうねお婆ちゃん」

 言って、私はそのランチボックスを受け取る。食べたことはないけれど、お婆ちゃんならいい感じのを作ってくれてると思う。

「あんたのお陰でここは守られてるんだからねぇ。もし落ちてきたものから機械の化け物共が出てきて暴れ出したら、この星は終わりだ。まったく、あいつらめ」

 お婆ちゃんがこの話をし始めると長いし、いつも同じことしか言わない。だから私は途中でこう言う。

「うん、ありがとね。じゃ、私は仕事行ってくる」

「おっと、いってらっしゃい」

 笑顔で手を振るお婆ちゃんを背に、私はベルの元に戻る。

 敵と戦ったことなんて無いのにこういう言い方なのは、お婆ちゃんに限らずある程度歳が行った人はみんなそうだ。

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