スヴェチカの仕事
我=何者? の問いに、私は鐘撞きだと答える。
だって、毎日同じ時間に大きな音を鳴らすのが仕事なんだから。
私は深く息を吐いて、レーダーに映るターゲットを認識する。いつものコクピットは、レーダー以外の情報をシャットアウトするために外部モニターを切ってあり、薄暗く圧迫感が有る。明かりを落とした部屋で、モニターだけがうっすら発光してる感じ。暗い部屋で飼われてる深海魚みたいな気分。
まぁ、やることは、標的を一度撃ち落とすだけなんだから、別に良いんだけど。
「そろそろ時間だ、行けるかい、スヴェチカ?」
声はコクピットの主=特殊車両ベルアダードに搭載されたAI、ベルが音声を出す。
私は答える。
「いつもと同じ。問題ないって」
毎日、同じ時間にやっていることだもの。
「そういう油断が良くないんだよねぇ」
ベルの声を聞きながら、私は銃爪を引く。
最初に走るのは、光。本命の道を作るための、レーザー光線。それは比喩でもなんでもなく、光の速さで標的に殺到する。
でもそれで標的は砕けない。レーザーは貫通力はあっても、破砕する力はいまいち。
標的にレーザーが命中したのを確認してから、私はもう一度銃爪を引く。
「インターセプター発射」
その瞬間、耳を裂くような轟音が、ベルアダードの外から聞こえる。機体そのものを巨人に掴まれてぐらぐら揺さぶられているように、ベルアダードが揺れる。来るのがわかりきっていた衝撃に、私は目を瞑って耐える。
ベルアダード、インターセプター装備の本当の攻撃。それはレーザーで通り道を焼き払い、作り出した真空の道を走る、雷撃による攻撃だ。
自然のそれとは真逆の、天へと駆け上る龍のような雷。
この星が持つ、最強の攻撃手段。
一日に一度、正午だけ出力が弱まる、星を守るエネルギーシールド。その隙間を縫うみたいに、毎日、やってくる飛来物。その、敵からの攻撃を、ベルアダードで迎撃する。それが私の仕事だ。
なのだけれど――
「あっ」
ベルが声を上げる。
「あっ、て何」
「砕きそこねてるねこれ」
「えっ?」
私はレーダー上で、飛来物を確認する。雷撃は命中している。でも、確かに着弾地点が、僅かに中心からずれている。そのせいで、完全に飛来物を粉砕しきれず、一部が地表まで落ちてきていた。
「いやー、だから言ったのになぁ、油断は良くないってさ。結構細かく砕けてるから、落下による被害は出ないと予測するけどね。スヴェチカが乗ってからの二年間で初めてかなー。まぁ、どんまいどんまい。これくらい、スヴェチカの前任の爺さんは、よくやってたよ」
「……馬鹿にしてるでしょ?」
「そんなそんな、AIが人間様を馬鹿にするなんて、ねぇ?」
「殴るよ」
「君の手が痛いだけだよ」
その通りなので、イラッと来たけどやめておく。
「じゃあ、落ちたもの拾いに行かなきゃ駄目か……」
「ふふふ、スヴェチカの初めての残業だ」
「うんざりする」
心底、面倒くさい。