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アリシアの新しいお友達は・・・?

もともと、たいした火傷でなかったうえに、グレタ達が献身的に手当てしてくれたお陰で、水ぶくれにもならず、直ぐに腫れもひいた。

しかし、またも、アリシアは、引きこもり生活を余儀なくされた。

とは言え、今回は、危ない事をした罰だ。そのため、アリシアも口答えをすることなく黙って両親に従った。

それに、トイレと入浴以外は部屋の外にも出ないよう言われたが、部屋の中では自由に過ごせたため、アリシアは、本を読んだり、京子さんがやっていたストレッチや体操をしながら、時折、フィルがお見舞いに持ってきてくれた花をスケッチして、時間を潰した。


そう、フィルは、アリシアが引きこもり生活に入ってから、お見舞いに、毎日花を持ってきてくれたのだ。

毎日、同じ時間にやって来るため、グレタにお願いして、フィルをお茶に誘ってみた。

最初のうち、フィルは遠慮して断っていたが、二週間目に入っても続くお誘いに、ようやく、招待を受けてくれた。


フィルが初めて、アリシアとお茶を飲んだ日、グレタからアリシアお嬢様と呼ぶよう言われたフィルは、「なげーわ」と呟いた。

意思の強そうな瞳を細め、眉間にシワを寄せたフィルを見たグレタはため息をつき、「ならば、アリシア様とお呼びください」と言った。

それに対し、フィルがガックリして「それでもなげーわ」と言うのがおかしくて、アリシアはクスクスと笑ってしまった。

笑うアリシアを見て、フィルはしかめていた目を見開いた。

「お前、笑えるんだな。」

火事騒動の時ですら、アリシアは、何を考えているのかわからないような無表情だったのだ。

そのアリシアが、笑っているのに、フィルは素直に驚いた。

フィルに言われて、アリシアは、自分が笑っていたことに気づいた。

「本当ですわね。あんまり二人のやり取りがおかしくて、笑ってしまいした。」

アリシアは、続けて言った。

「アリとお呼びくださいまし。」

「アリ様?」

確認するように、フィルが言うので、アリシアは、クビを横に振った。

「違いますわ。様はいりません。ただ、アリとお呼びください」

「お嬢様」

グレタは、アリシアを咎めるように声をあげた。

アリシは、グレタに向いて、穏やかに話した。

「ねぇグレタ、あなたの雇い主はだあれ?」

「旦那様である、カール様です。」

「そうですわよね。なら、フィルもお父様に雇用されているのかしら?」

「トムさんとアレックさんは、旦那様が雇用しております。」

はっきり答えないグレタにアリシアはもう一度問うた。

「グレタ、そうじゃないわ。フィルは、お父様が雇用しているの?」

「あの、それは、・・・違います。」

グレタの答えに、アリシアは満足そうに、微笑んだ。

「ならば、やはり、フィルには、アリと呼んでもらいます。」

「お嬢様、それでは皆に示しがつきません。」

グレタは、アリシアを諌めた。


アリシアは、穏やかに話し始めた。

「お父様に雇用されている人と、お父様の部下は、確かに、お父様の家族であるわたくしを『アリシア様』とか、『お嬢様』と呼ぶべきですわ。でも、お父様が雇った使用人の子供まで、わたくしを『アリシア様』とか、『お嬢様』と呼ぶ必要はないわ。だって、グレタ、子供は親を選べませんのよ。与えられた環境を教授するだけですわ。幸運なことに、わたくしは、たまたま、公爵家に生まれただけの娘ですわ。それだけの娘に、たまたま、庭師の息子だったからと、フィルが、わたくしをお嬢様やアリシア様と呼ぶ必要はなくてよ。」

と、ドヤ顔で語るアリシアを見て、フィルは我慢できず、お腹を抱えて笑い出した。

「フハハハ、は~、お前、変わってるなぁ。しかも、意外と表情も・・・、あー、おかし。」

どうやら、アリシアのドヤ顔は、フィルのツボにハマったらしい。

アリシアの無表情も、取り澄ました顔も、笑顔も、どれもフィルの目からは、自分とはあまり関わりのない『貴族の世界』に見えていた。

しかし、アリシアのドヤ顔は、幼馴染み達が、フィルへ得意気に何かを語るときの表情と良く似ていた。

飲みなれない高級なお茶や、珍しいお菓子。自分の家とは、比べ物にならない調度品の数々、フィルにとって、アリシアと過ごす時間は、あまりにも現実味がなかった。

しかし、アリシアのドヤ顔がフィルに、アリシアが生身の人間であることを教えた。

「じぁ、アリだな。俺はフィル=ベリーだ。」

「はい、フィル。よろしく、お願いいたします。」

アリシアとフィルは、改めて挨拶をした。


アリシアとフィルが一緒にお茶を飲むようになってから、しばらくたった頃、アリシアはフィルに直前に迫っている家庭教師問題を話した。

「お父様が、わたくしの家庭教師をさがしているそうです。」

貴族令嬢なら、さもありなん。と、フィルは頷いた。

「5歳なのに、大変だな」

「いいえ、本来なら、言葉が話せるようになった頃から、家庭教師がつくこともあるほどです。でも、わたくしは、その、あまり人とうまく接することができませんので、お父様も待ってくださったんだと思います。」

それは、ますます納得できる話である。

アリシアも、フィルもおしゃべりな質ではない。そのため、アリシアとお茶をすると、しばしば、会話が途切れる。

その度に、アリシアはソワソワして、お茶をのみ、お菓子を口に運んだ。

アリシアの様子を見ていたフィルは、アリシアと自分がお茶することを公爵が許している理由を、垣間見た気がした。

アリシアのこの様子では、他家のご令嬢、ご令息が集まるお茶会へは参加できないであろう。

また、家庭教師の前で、公爵令嬢として振る舞えず、失敗する姿が、フィルの頭に浮かんだ。

「フィル、図々しいお願いであることは、重々承知しておりますが、わたくしと一緒に授業を受けてくれませんか。」

フィルは、驚いて、食べていたクッキーをのどに詰まらせた。

慌てて、紅茶で、クッキーを流し込み、聞き返した。

「えっ?何だって?」

「だから、わたくしと一緒に家庭教師の先生の授業を受けてほしいのです。」

「何で、オレが・・・?」

「もちろん、フィルが一緒にいてくれたら、わたくしが心強いですし、それに、フィルのためにもなるからです。」

「オレのため?」

「そうですわ。だって、あなた、将来、何になりたいか分からないのでしょ?」

フィルは、アリシアの言葉に、一瞬つまりながら返事をした。

「それは、庭師になりたいか分からない、って言っただけで、別に、なりたいモノがないのと、違うだろ」

そう言う、フィルの目を見つめて、アリシアは言った。

「いいえ、違わないですわ。わたくしは、あなたに、『あなたも、将来、庭師になりますの?』とききましたわ。すると、フィル、あなたは『さぁな。先のことは分かんねー。まぁ、父ちゃんも、じぃちゃんも庭師だからな、多分、庭師になるんじゃね』と、言いましたわ。それも、あまり、気の進まないご様子で・・・」

「それは、だって、そう言うものだろ」

フィルは、決まり悪そうにティーカップに手をのばした。

いつも跳ねているフィルの固そうな髪の毛も、心なしか大人しくなった気がした。


アリシアは、続けて言った。

「職業選択の自由は、平民に与えられた権利ですわ。だから、わたくしは、フィルがなりたいなら、庭師になるべきだと思います。」

アリシアは、お茶を一口飲んで、微笑んだ。

「そうすれば、これからも、こうして、一緒にお茶が飲めますもの。でも、フィル、あなたが庭師になることに迷いがあるなら、本当にやりたいことを探すべきだわ。」

フィルは、不思議そうに、アリシアを見た。

「それが、家庭教師の授業と、どう繋がるんだ?」

「例えば、将来、フィルが大きくなった時にお医者様になりたくなっても、その時に1から勉強するのは大変だわ。だけど、今のうちから勉強をしていたら、必要になった専門的なことだけ、その時、勉強すればよいでしょう。それに、わたくしとマナーを学べば、将来、フィルが商人になった時、貴族の邸に出入りしても苦労しませんわ。」

フィルは、大人になった自分が、医者になってる気も商人になっている気もしなかった。でも、アリシアの謂わんとすることは理解できた。

フィルは、のこりのクッキーを口に入れ、お茶を飲み干してから答えた。

「分かった。アリと一緒に授業を受けてやるよ。」

アリシアは、フィルの言葉に、全身から力が抜けた。

フィルに断られるかもしれないと思った、アリシアは全身に力が入っていたのだ。

アリシアは、嬉しそうに言った。

「フィルも一緒に授業を受けると、お父様に伝えますわ。」

そう言うアリシアに、考え込んでいたフィンが反応した。

「それなんだけど、もう一人一緒に受けられねぇかな?もう、一人、オレらと歳の近いヤツがいるんだ。」

アリシアは驚いた。渡りに船である。すぐに、控えていたグレタに訊いた。

「まぁ、何をしている方ですの?グレタ、誰かわかりますか?」

グレタは、首をひねりながら、答えた。

「お嬢様と歳の近い方に思い当たる方はおりませんが・・・」

「あぁ、姉ちゃんは、知んねーかもしんないな。ジョナサン=ベリムって言って、オレらより3歳上だ。オレはジョン兄って呼んでんだ。」

グレタは、誰か、思い当たった。

「ジョシュアさんの弟さんでしたか。」

「グレタ、ジョシュアと言うのは、だあれ?」

「馬屋の馬丁でございます。たしか、15歳でしたでしょうか。」

グレタの言葉に、フィルに頷いた。

「そう、正解。で、ジョン兄はさ、将来、動物をみる医者になって、動物の研究がしたいんだって、言っててさ。だからさ、オレらと一緒に勉強できたらどうかと思って・・・」

フィルの話を聞き、アリシアは、手を叩いて喜んだ。

「まぁ、それは良いですわ。明日、さっそく、ジョナサンを連れてきてください。」

「ああ、この後、ジョン兄の所に行って、伝えとく。」

そう言うと、フィルは、席を立った。


さて、ジョナサン=ベリムも、悪役令嬢アリシアの手下である。

フィルと同じように、兄が公爵邸の馬丁として働いていたため、断れず、アリシアの悪事に加担した。

しかし、フィルと違い、ジョナサンは優秀だった。

その頭脳が災いして、アリシアの参謀として断罪されたため、島流しではなく、一人処刑された。


そうして、アリシアは、知らず知らずのうちに、悪役令嬢のフラグをさらに回収した。

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