お葬式のち、お友達?
アリシは、ベッドでの軟禁生活中に描いた、京子さんと旦那さんの一番ましな絵と、ブリキのバケツ、スコップを持って、庭にやって来た。
そう、今日は、延び延びになっていた京子さんと旦那さんのお葬式だ。
アリシアは、バケツに絵を入れて、小さく呟いた。
「火よ」
残念ながら、絵に火はつかず、燃えなかた。
しかし、アリシアは、諦めない。
「最初からうまくは、いきませんわよね。・・・次は、そう、キャンプファイアをイメージして、マイムマイムですわ」
アリシアはそう言と、キャンプファイアをイメージしながら、マイムマイムを踊りだした。
ごうごうと燃えるキャンプファイアをイメージして、アリシアがマイムマイムを踊り狂っていると、とうとう、その時がきた。
バケツの中の絵が燃えだしたのだ。
アリシアは、フィニッシュに向けて、さらに激しく踊り狂い、最後に「ヤー」と掛け声をあげ、『決まりましたわ』と、ニヤリとした瞬間「後ろから、火事だー」と言う子供の叫び声がきこえた。
アリシアが、あわてて、前を向いた瞬間、ひときわ高く火柱が上がり、アリシアの前髪が燃えた。
「出でよ、無酸素結界」
アリシアは、炎のまわりを囲うような空間をイメージして、無酸素の空間を作り出した。
酸素がなくなったため、急速に炎は小さくなり、すぐに消えた。
「お前、何やってんだ!?」
すごい剣幕で、近寄る男の子に、
「しばらく黙っていなさい。」
そう言ってから、アリシアは、魔法でバケツのまわりに氷の膜を張った。
短い時間であったがアリシアは、魔法のコツをつかんだ。
氷が溶けるまでの間に、穴を掘り、燃やした絵を埋めた。
そうして、アリシアは、鈴を転がすような可愛い声で、アメイジング・グレースを歌い始めた。
『京子さんと、旦那さんが、いつか再び、再会できますように。神様、今世では、もっと懸命に、真摯に生きていくことをお約束いたします。どうか、二人に恩寵をお与えください。』
そんな、願いをこめて。
「おい、もう良いか?」
そう言って、先ほどの男の子が近寄ってきて、アリシアの手や顔などを調べ始めた。
「対した怪我じゃないけど、前髪が焦げてるのと、額が少し赤くなってるから、後で水ぶくれになるかも。それから、手首も赤くなってるから・・・」
焦茶色の髪の毛に、茶色い瞳の男の子は、確認できたケガの状態をアリシアに説明してくれのた。しかし、アリシアは、彼の話の内容よりも突然現れた彼の存在に興味を持っていかれた。
アリシアが、彼を食い入るように見つめていると、視界の端に、トムおじいさんの姿が映った。
「フィル、お前、何やってるんだ。」
やって来たトムおじいさんが、男の子に声をかけた。
「あら、トムおじいさん、この子を知っていらっしゃるの?」
フィルと呼ばれた少年に手首を持たれたまま、アリシアはトムおじいさんに聞いた。
「はい、お嬢様。この子は、わしの孫です。で、フィル、お前は何をしているんじゃ?」
再び、トムおじいさんから聞かれたフィルは、アリシアの手首と、前髪を指して、言った。
「こいつ、火遊びして、火傷したみたいなんだ。たいしたことないけど、ホラ、ここと、ここ。あと、ドレスの裾も焦げてる」
孫に言われて、トムは慌てて回りを見渡した。
そう言えば、焦げ臭い臭いがしている。そして、芝生も所々、焼けた後があった。
「こりゃいかん。」
トムは急いでアリシアを抱えて、邸に向かった。
庭師の老人に抱えられて現れたアリシアを、邸の使用人達は慌ただしく迎えた。
すぐにベッドに寝かされたアリシアの額と手首を、グレタは、氷を包んだタオルで、冷やしてくれた。
コン、コン、コン
ノックの後、公爵が入ってきて、ベッドの脇に用意した椅子に座った。
「アリシア、何があったのか、教えてくれるかい?」
心配そうに、娘の頭をなでる公爵に、アリシアは再びやり過ぎてしまったことに気づいた。
「お父様ごめんなさい。わたくし、本を読んでから、魔法を使ってみたくなったのです。」
京子さんと、旦那さんのお葬式のことをふせながらも、アリシアは、できる限り正直に答えた。
「そうか。アリシア、魔法はコントロールがうまくできないと、大きな事故になるんだ。ちゃんと、先生を探すから、それまで、魔法を使うのは待ちなさい。分かったね。」
「はい。承知いたしました。」
「それからね、アリシア、これを期に、マナーや学業の先生を探そうと思うんだが、どうかな?」
『それは、確かに必要。でも、1人で授業を受けるのは・・・』
公爵から聞かれたアリシアは、そう思いながら、答えた。
「お父様、わたくしは、ギュンター公爵家の娘でございます。この家に生まれたからは、そう言う習い事や勉強が必要とは、理解しております。でも、その・・・。少し、考えさせていただいても、よろしいでしょうか。」
「そうか。ゆっくり考えなさい。」
そう言うと、公爵は、アリシアの部屋を後にした。
アリシアは、公爵の後ろ姿を見ながら、ため息をついた。
『確かに、そろそろ、わたくしも小学生になる年齢。でも、今のわたくしに、家庭教師の授業を一人で受けつづけるなんて、無理ですわ』
アリシアは、ため息をついた。
『わたくしは、一人っ子ですから、一緒に授業を受けられる妹も弟もいませんですし、お友達もおりま・・・』
アリシアは、庭にいた子供の存在を思い出した。
「ねぇ、グレタ、わたくし、トムおじいさんのお孫さんに会ったの。でも、あまりお話しする時間がなくて・・・それに、わたくしの怪我を心配してくださったのに、そのまま、庭に置いてきてしまいましたの。」
アリシアの火傷を冷やしながらグレタは優しく言った。
「そうでしたか。では、今度、お茶にご招待して、お礼を申しあげましょうか」
「ええ、そうしますわ。」
アリシアは、自分の希望が叶いそうな事に安心して、眠りについた。
さて、老庭師、トム=ベリーの孫、フィル=ベリーは、悪役令嬢、アリシアの手下であった。
父と、祖父が、ギュンター公爵家で働いていたため、ギュンター公爵令嬢の命令を断れず、アリシアの悪事に、嫌々ながらも色々と手を貸し、最後は、アリシアと一緒に断罪され、島送りとなる気の毒な人物である。
この二人が出会ったことで、アリシアの悪役令嬢化も進むのかも知れない。
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遡ること、1時間
アリシアを連れてきた老庭師のトムは雇用主である公爵と応接室にいた。
「それで、アリシアがケガをしたのか!?」
公爵は、老庭師から話を聞いて驚いた。
「そのようでございます。」
「まさか、魔法で火を出すなんて、あの子はまだ5歳だぞ。私の娘は可愛い上に天才だったとは。」
「ええ、本当に。」トムは公爵の言葉に力一杯頷いた。
「まだ先かと思っていたが、急いで家庭教師の手配をせねばな。」
公爵は、小さく呟いた。
「旦那様、それから、他にも報告したいことがございます。旦那様は、お嬢様が笑っているとこをご覧になられたことはありますかな」
老庭師の問いに、しばらく考え込んでから、公爵が答えた。
「そう言えば、見たことないな。」
公爵の記憶の中で、笑っている娘の顔は一つもなかった。
ひどく、無表情だったり、青ざめていたり、困惑していたり・・・
あの可愛い顔で笑ってくれたら、どれほど可愛いだろうと、公爵は、一人、娘が笑った顔を想像した。
公爵が、アリシアの笑顔に思いを馳せていると、トムが爆弾発言をした。
「そうでございましたか。実は、ワシは見たことがあるんです。その様子はと言えば、妖精もかくやと言う愛らしさで、たちまちお嬢様に魅了され、この領中に求婚者が列をなすでしょう。」
トムは、公爵を気の毒そうに見ながら言った。
「それほどか。」
「はい。それほどでございます。ですから、お嬢様は、マナーや、社交を学び、貴族令嬢として、どう立ち振舞うべか、知る必要がございます。」
「そちらのマナーや学業の家庭教師も、魔法の家庭教師と一緒にさがそう。」
そう言いながら、公爵は、自分が見たことのない愛娘の笑顔を、目の前の老庭師は見た事があると思うと、羨ましさと、嫉妬の入り交じった目を向けてしまうのだった。