転生後の世界は、ファンタジーだった!!
次回から、ようやく、本編です
京子さんの事を思いだし、しばらく混乱していたアリシアは、意識や記憶がはっきりしてからも、数日、ベッドの上で過ごした。
いつもより情緒不安定で、はらはら泣き続けたり、眠り続けたりするアリシアを使用人や両親が心配したからだ。
心配しすぎた両親から、アリシアがもう少し大きくなるまで、重要な外交の以外の公務は、極力断ることにしたと言われ、心の健康を取り戻したアリシとしては、申し訳なさで、いっぱいになった。
こんな時でも遠慮がちなアリシアに、公爵夫妻は、ただ、ただ、親としての至らなさを詫びた。
一方のアリシアは、突然、両親から、これからは、もっと一緒にいる時間を作ると言われて、アリシアは、照れ臭く、くすぐったく、新鮮な気持ちだった。
よくよく考えれば、京子さんも両親が忙しく、あまり一緒に過ごしてもらったことがない。
文字通り、これまでの人生で、初めて両親に甘やかしてもらった気がした。
そして、アリシアになってから、初めて両親を家族と感じれた気がして、素直に嬉しかった。
ベッドのうえで、過ごすのは退屈すぎる、と言うことで、読めたらラッキーとばかりに、書斎から子供でも読めそうな本をグレタに持ってきてもらった。
渡された本の表紙を見て、アリシアは一人喜びに震えた。
『わたくし、字が読めたようですわ。』
京子さんのことを思い出す前の記憶は、もはや、はっきりしていないが、どうやらアリシアは、《公爵令嬢》として、真面目に日々の課題と向き合っていたようだ。
普通の生活ができるようになったら、アリシアは、何がどれくらいできるのか、確認しなくては、とワクワクした。
さて、グレタから渡された本には、この世界の成り立ちについてが書かれていた。
最初は、古事記を読んでるようなイメージであったが、アリシアは段々と、うんざりしてきた。
『いつまでたっても、ファンタジーから抜け出さないのはなぜ?グランティス帝国はできて数百ほどでしょ?これじゃあ、いつまでたっても、アーサー王物語?指輪物語?これは、歴史書ではないわ。』
アリシは、読んでいた本を閉じ、かたわらに控えていたグレタに聞いた。
「ねぇ、グレタ、この本には、妖精やら精霊やら神様が出てくるんだけど、正しい歴史の本なのかしら?」
「子供が読めるように簡単には書かれておりますが、史実でございますよ。」
「でも、グレタ、この本には、妖精や精霊や神様が出てくるのよ?魔法使いも出てくるし・・・」
アリシアが繰り返し言い募ると、グレタは、突然、手の平に炎を出した。
「お嬢様、魔法は誰でも使えます。」
アリシアは、初めて見た魔法に度肝を抜かれた。
『誰でもつかえるの?なら、わたくしも・・・?』
「お嬢様も魔法は使えるようになります。魔力量に左右されるますが、火をつけるくらいは、誰でもできるようになります。そして、この世界には全知全能の神を筆頭に、八百万の神がいらっしゃいますよ。それに、妖精や精霊、エルフもおります。」
グレタの真面目な顔に、アリシアは、どう反応すべきか困った。
だが、グレタが冗談を言っているようには見えないため、アリシは、黙り込み、再び本を開いた。
『八百万の神って何よ?この世界もアニミズム的な神道なのかしら?でも、ちょっと待って、妖精や精霊もいるって言ってなかった?じゃあ、ミノタウロスとか、ケンタウロスもいるのかしら?』
「ねぇ、グレタ、じゃあ、ミノタウロスやドラコンもいるのかしら?」
「そりゃ、ダンジョンがありますから、ミノタウロスはおりますよ。ドラゴンの巣は、この辺にはございませんので、私も見たことはございません。」
「???・・・おります?おりますって?ギュンターの領地にミノタウロスがおりますの?」
「もちろん、領地内をミノタウロスがウロウロしているわけではございません。でも、ギュンター領のダンジョンの魔物の一つでございます。」
アリシアは、あまりの情報量の多さに、手の平で額を覆った。
『信じられませんわ。指輪物語やアーサー王物語が現実だったとは・・・
まさかの、わたくし、ハリー・ポッターと、パーシー・ジャクソンの世界に転生してしまったのね。それは、・・・・控えめに言って、素敵だわ』
「ふふ、ウフフフ、フフフフフ」
突然、笑い始めたアリシアを、グレタは驚いた表情を浮かべたまま、見つめた。
アリシアは、笑いながら、これから、楽しく忙しい日々が始まりそうな予感がしていた。
-------
少し、時間を遡り・・・
アリシアが京子さんの記憶を思いだし、混乱していた頃。
実は、公爵夫妻が不在の間に、いつも以上、様子がおかしいアリシアを、ただ見守るとしかできず、使用人達は、ひたすら、オロオロしていた。
グレタからアリシアの様子をきき、医者を呼び、万一に備え、外交のため外国へ行っていた公爵夫妻へ、なるべく早く帰ってくるよう連絡した。
娘の様子を心配しながらも出掛けた公爵夫妻は、使用人から、アリシアの様子を聞き、公爵夫妻は、予定を変更し、あわてて帰国した。
医者から、「眠っているだけです。ただ、お嬢様は、まだ幼いので、ご両親の不在で精神的に堪えてるのかもしれません。」と言われた公爵夫妻は、知らぬ間に、娘に無理をさせていたことに気づいた。
公爵夫妻は、自分達が留守にしても、人見知りだが、娘は賢いから、大丈夫と、勝手に思い込んでいたが、しかし、娘はまだ5歳なのだ。
舌足らずではあるが、並みの大人より、筋が通った話をするため、忘れていたが、本来ならまだ保護者が必要な歳だ。
それなのに、自分達が仕事で家をあけることを伝えると、娘は、わがままを言うわけでもなく、表情のない顔で「承知いたしました。お仕事頑張ってください。道中、お気をつて下さいませ。」と淡々という。
そうして、思い当たったのは、自分達は、気遣うべき娘に、気を遣われていたこと、もしかしたら、娘は、自分達を家族と認識していないのかもしれないと、言うこと・・・
言葉遣いこそ使用人に対するソレより丁寧であったが、娘が両親である自分達へとる態度と、使用人に対する他人行儀なはずの態度は、思い返してみれば、同じであった。
娘が、自分達を家族と思っ
ていない、その事実にたどり着いた公爵夫妻は、娘の行動の意味が分かった気がした。
「いつの間にか歩けるようになってて、いつの間にか、話せるようになってて。私が産んだ娘なのに、この子の成長を全然、覚えておりませんの、私。
アリシアは、家族のいない邸の中で、心の拠り所をさがしていたのね。可哀想なことをしてしまったわ。」
力なく言った公爵夫人の瞳から、涙がこぼれた。
「あの子は、これから、私達を家族として受け入れてくれるだろうか。」
公爵は、うなだれた様子で呟いた。
「すぐには、無理かもしれません。それでも、一緒に過ごしていくうちに、家族だと、アリシアも思ってくれます。私たちは、もう、これ以上、無駄にできる時間はありませんもの。これからは、アリシアの成長を二人で見守っていきましょう。」
公爵夫妻は、眠る愛娘の寝顔を見つめた。