「ここ」と、転生の裏側
今回も、本編ではありません。
アリシアが住むグラティス帝国は、中央に、帝都を置く、東西に長いアメリカ合衆国のような形をしている。
元は、「日本」と同じくらいの領土しかない、小さな王国であったのだが、数百年前に現れたやり手の王様が周辺諸国を傘下に納めながら、国を大きくしていった。
傘下への納め方も、政略結婚だったり、敵国に攻められた隣国を守ると言う理由で二国まとめて手中におさめたり、色々であったが、帝国に戦争で負けた国に対しても傘下に収まるなら、戦争奴隷などとらず、帝国と同じ法律への改正させ、身分を貴族に改めさせたが、そのままの統治を認め、温情を与えた。
また、皇帝は、帝国の傘下に収まった国の文化を弾圧することはなく、旧王国の領土と差別することなく扱ったため、今の帝国は、東西の文化が混じりあい、独自の進化をとげていた。
さて、ギュンター公爵の治める領土は、旧王国の辺境伯の領土にあたる。
元々、ダンジョンを抱えていたため、領内には、ある程度の兵力を有していた。
しかし、歴代の領主達は、外交に力をいれていたため、隣国との国境沿いでいざこざなどもなく、兵がスタンピード以外で出兵したことはなかった。
それほどまでの外交手腕を持っていたため、帝国建国の際には、外交官としと暗躍したことは、言うまでもない。
その功が認められ、帝国建国の際には公爵へ陞爵された。
辺境伯でなくなった今も、ギュンター領の領主達は、外交官として、世界に名を馳せていた。
その中でも、アリシアの父、カール=フォン=ギュンターは、優秀で、交渉相手のお尻の毛までむしりつくし、部屋を出る時には交渉相手の屍が山積みになると言われている。
とは言え、愛娘アリシアの前では、娘ラブのただの親バカであったが。
もちろん、現公爵も、スタンピートに備えて、兵の訓練にも余念はない。
そして、アリシアの母親、エリザベータ=パヴロヴィチ=フォン=ギュンターは、国土の半分が人の住めない険しい山で、さらに、一年の半分が雪に閉ざされた寒い国の第二王女であった。
寒い国のため農作物はあまり育たなかったが、豊富な鉱物資源や天然石に恵まれていた。
発掘された金属や宝石は、高い技術を持つで美しく加工され、高値で取引された。
また、魔物も多く生息していたため、魔石や魔道具の研究も盛んであった。
決して大きな国ではなかったが、高い技術を誇る職人と、優秀な研究者が集まるアカデミックな国であった。
エリザベータは、幼い頃より王族としての教育をうけてきたこともあり、気高く、賢い女性へと成長した。
才色兼備のお姫様であったエリザベータは、留学中に帝国側から、皇太子妃への打診をうけだが、すでに、留学先の学校で公爵子息のカールと恋に落ちていたため、皇后ではなく、ギュンター公爵夫人となった。
ギュンター公爵夫妻は、夫婦で外国へ外交に出かけることが多く、幼いアリシアは、使用人が残る邸に一人で残されがちであった。
ちなみに、本来のアリシアは、両親不在の寂しさを紛らわせるため、使用人に手当たり次第物をぶつけ、癇癪をおこし、誰にも手のつけられないわがまま娘になるはずであった。
さらに、13歳になったアリシアは、皇太子の婚約者となるが、わがままで、性格が悪いため、皇太子から嫌われ、婚約した数年後に現れるヒロインに婚約者を奪われ、最後は二人に断罪され修道院に入れられると言うテンプレストーリーが繰り広げられるはずだった。
しかし、前世に孫までいた京子さんの記憶が、今のアリシアを、理性的に行動させていた。
そのため、どんな身分の相手にも理不尽に振る舞うこともなく、自分の気分で相手を傷つけるような、本来のアリシアとは全く違っているように見えてはいたのだが、本当のところは、分からない。
実は、京子さん、身分制度が廃止されて100年以上の時が流れた日本で生きていた。
そのため、身分差別と言う概念をそもそも持っていない。
さらに、パワハラや、カスハラなんて言うハラスメントが取りざたされる時代だったため、アリシアは、父親が雇っている使用人達がなるべく気持ちよく働ける環境を提供しなければならないと思っていた。
京子さんは、そう言う法律や常識、社会倫理を理解する理性的な女性であったが、実は過激な一面も持ち合わせていた。
まだ、京子さんが子供だった頃のこと。その相手は京子さんが大嫌いな妹さんだった。
妹さんとケンカをした京子さんは、京子さんより頭の回転が早く、口がたつ妹さんに、口で勝てず、叩いて泣かしていた。
叩かれた妹さんは盛大に泣きだし、妹を泣かした京子さんは、お母さんから、叱られた。
ケンカに負けたうえに、叱られて、イライラしていた京子さんは、妹さんの机の上に置いてあった写真を破り棄てた。
それから、京子さんと妹さんがケンカして、京子さんが妹さんを叩き、妹さんが泣き出し、京子さんがお母さんから叱られ、さらに、京子さんが妹さんの物を壊して棄てると言う悪循環は、二人が小学校を卒業するまで続いた。中学生になり、高校生になった頃には、さすがに、京子さんの妹さんへの嫌悪感も薄れて、世間一般の姉妹同士程度の仲になった。ケンカをしても、妹さんを泣かすほどの暴力的なケンカすることはなくなったのだ。
それから、大人になった京子さんから、過激な行動をとられたのは、双子の息子さんだった。
京子さんの息子さん達は、特に塾などにも、通わず誰でも知ってる名門大学に入学した。
もちろん、何もせず入学できるわけない。
二人は、京子さんからいきすぎた教育指導を受けていた。
二人が京子さんが思うほどの成績をとれなければ、布団叩き棒を鞭のようにしならせ、棒が折れるまで、いや、折れたら30センチ定規にもちかえ、京子さんは、二人が勉強している様子を監視し、時には手に持った何かで容赦なく叩いた。
世間一般的には、児童虐待と言われる所業であったが、京子さんの過激な教育のたまものか、二人とも名門大学に合格したのだ。
ある時は、テレビゲームに夢中になった息子さんが、夜更かしをした。
いつまでたっても、テレビゲームをやめる様子がない二人に業を煮やして、京子さんは、ゲームのコンセントを無理やり引っこ抜き、ゲーム機を壁に叩きつけた。
また、ある時は、遊びに行って、門限を破った息子さんが大事にしていた腕時計を目の前で踏みつけて壊した。
つまり、京子さんは、ルールや、約束を守らない人間と、一部の嫌いな人間に対しては、かなり苛烈な対応をする。
つまり、本来のアリシアと、常識を取っ払った生身の京子さんは、実は共通する部分があるのだ。
普通の転生悪役令嬢達は、悪役令嬢と転生者に、性格的な共通点はあまりない。
むしろ、悪役令嬢が過激でヤバい性格的であっても、転生者は、穏やかで性格が良く、また、フラグも折ろうと立ち回る。
だから、記憶を取り戻した段階で、悪役令嬢のフラグが折れて、後のフラグは立たなくなることもある。
それにひきかえ、いったん、スイッチが入った京子さんは、なかなか過激な行動をとる人だ。そのため、今後、成長の過程で、アリシアが過激な行動をとり、悪役令嬢と言われる日がぜったいにこないとは、言えない。知らないとは言え、アリシアは、悪役令嬢のフラグを微妙に、回収してしまったのだ。