アリシアは、コスメ作りに難儀する。
Aile du rêveの設立が決まってから、モンタギュー公爵家の庭の一角に、アリシアが研究をするための小屋の建設が始まった。
小屋と言っても、二階建てで、二階には、アリシアが、いつでも仮眠がとれるようにベッドルームがつくられる予定だ。そして、1階には、雇われた女性達が施術の練習をするための練習部屋、キッチン、バス・トイレ、リビングと言う間取りになる。
アリシアは、元々、米ぬかを使って、化粧水や石鹸、パックなどを作ろうと思っていた。
しかし、京子さんから、「エステの方が良いと思う」と言われ、手探りでエステコースもつくってみる事にした。
米ぬかと、お米のとぎ汁を使ったコースは、コースごと、チョウとハンに技術を伝授しようと思っている。
色々とコースを作れば、二人が、米ぬかのコスメを行く先々で販売、提供したとしても、十分に採算がとれると思っていた。
エステシャンとして雇用する女性については、やる気があれば誰でも雇いたいと言いたいところだが、最低限の読み書き計算は必要と思っている。
アリシアの研究小屋と同じように、雇用する女性も、父が手をまわそうとしていたが、そこはお断りした。
父を信用していないワケではない。
むしろ、アリシアが探してきた女性より身元は確かと思う。
でも、アリシアとしては、身元が確かな女性よりも、働きたいけど、雇ってもらえない、食いつめた生活を余儀なくされる女性を雇っていきたいと思っていた。
しかしだ、スラム街から引っ張ってきたような女性をいきなり雇うのは無理だ。
そこで、アリシアが目をつけているのが、孤児院の子供達だ。
孤児院の子供達には、エステシャン以外にも、勝手にアリシアがつくる食堂の料理人の候補にもなっている。
もちろん、本人達は、やりたいとは一言も言ってないのだが・・・
アリシアは、まだ街へ行った事はない。
だから、孤児院の状況なども、今は、分からない。
しかし、もうすぐ、社交シーズンだ。
チャンスは、社交シーズンだと、アリシアは思っていた。
アリシアの両親は、帝都のタウンハウスで過ごす。
なんなら、カールは、領地にいる間にたまった外交官としての仕事も片付けなければならないだろう。
当分、領地を留守にするのだ。
社交シーズンの間ならば、アリシアが、街へ行ける隙もあるはずだ。
両親が帝都に行くまでの間、アリシアは、ひたすら良い子にして過ごすつもりでいた。
しかし、水面下では、アリシア自身が、入浴の時間を使い、お米のとぎ汁を使った美活を始めていた。
あまり濃いとぎ汁だと、お米のアレルギーをおこすと言う話もあるらしい。
そのため、長時間がっつりお米のとぎ汁を使うより、バスタブから上がる直前に、手洗にはったお米のとぎ汁に髪の毛をしばらくひたしてトリートメントをし、トリートメント後に、別の桶にお米のとぎ汁をそそぎ、顔と手を洗ってから、全身にお米のとぎ汁をかぶって、最後にグレタに、普通のお湯で流してもらってみた。
美活を始めてみたのは良いが、アリシアの髪も肌も、元々艶々なので、効果のほどは良く分からない。
何となく、髪の毛に艶が出て、何となく、肌もツルツルになっている気がしなくもない。
でも、ハッキリした効果は確認できないため、グレタとリタに、手伝ってもらう事にした。
「あなた達二人に、お願いがありますの。」
アリシアは、グレタとリタに声をかけ、アリシアが今行っているお米のとぎ汁で美活をするように伝えた。
二人は快く了承してくれ、その日から美活を始めた。
それから、数日後、いつもは落ち着いたグレタが、その日はソワソワしていた。
「グレタ、わたくしに、何かお話がございますの?」
いつもと様子が違うグレタにアリシアが声をかけた。
「お、お嬢様、大変でございます。」
「グレタ、何がございましましたの?」
アリシアは、何が大変なのか分からず、不思議そうにグレタを見上げた。
「お嬢様に、言われた通り
、お米のとぎ汁を浴びたり、洗顔をしたりしたら、何だか、肌や髪が綺麗になったのです。」
興奮した様子で、グレタが言った。
「お肌が突っ張ったり、赤くなったり、痒くなったりはしなかったかしら?」
アリシアは、ホクホクしながら、グレタの感想やお米のとぎ汁の使用感をデータとしてノートに書いていく。
書いた内容を見て、アリシアは、フムフムと、頷いてから頭をあげた。
「身体に不調が出なかったなら、良かったですわ。もし、異常があれば、すぐに使用は中止してくださいませ。」
グレタは心配そうにアリシアに聞いた。
「今後もお米のとぎ汁を使用を続けても、よろしいのでしょうか?」
アリシアは、頷いた。
「もちろんですわ。身体に赤みが出たり、湿疹が出る場合は、逆に肌荒れをおこしてしまいますので、必ず
使用を中止していただいますわ。でも、特に問題ないなら、続けてくださいませ。」
グレタは、アリシアから、お米のとぎ汁美活を続けて良いと言われ、安心した。
グレタと、アリシアの話を聞いていた、リタがおずおずと切り出した。
「お嬢様、実は、私とグレタが綺麗になったため、秘訣を教えて欲しいと、他のメイドや侍女に聞かれるのです。お話してもよろしいでしょうか?」
アリシアは、頷いた。
「モチロンよ。皆にも教えてあげて良いですわ。」
「でも、そうなると、お米のとぎ汁があっという間になくなってしまいます。」
だから、秘密にしたいと言うのが、グレタとリタの言い分だと、アリシアにも分かった。
「そうねぇ。お米の量そのものが、今は沢山ありませんものね。」
アリシアは、しばらく考えてから、続けて言った。
「次回、チョウさんと、ハンさんが来られてから、希望者には秘密をあかしてください。」
アリシアの判断に、二人もニッコリした。
当然ながら、アリシアは、リタからも、お米のとぎ汁で感じた美容効果を聞き取って、しっかりノートに書いた。
お米のとぎ汁に美容効果がありそうな事が確認できたため、次は少しでも長く使えるよう試用期間を伸ばす方法を調べたいとアリシアは、思った。
今の状態だと、翌日には嫌な匂いになる事は確認済みだ。
「それは、防腐剤を使うしかないんじゃないかしら?」
京子さんの声が聞こえた。
防腐剤とな?う~ん、とアリシアの眉間に深いシワがよった。
どうやら、防腐剤として、植物のエキスが良いらしい。
グレープフルーツの種とか、ゆずの種とか、あとは、カワラヨモギとか。
でも、どれも、すぐに、手には入らない。
アリシアは、盛大なため息をついた。
『なんて、不自由な身の上かしら。何一つ自由にできないなんて・・・』
でも、立ち止まってはいられない。
グレープフルーツやら、ゆずやらの種からエキスを抽出するには、道具がいりそうだ。
道具が必要なくても、魔法は使えないと厳しいだろう。
なれば、カワラヨモギを探そうと思うが、この国に自生しているか、アリシアは、判断がつかなかった。
植物の事なら、トムおじいさんに聞いたら、何か分かるかもしれない。
おじいさんの専門は、お花だから、カラワヨモギについては、良く知らないかもしれない。
でも、カワラヨモギを良く知らなくても、どの分野の人が詳しいかは、おじいさんも分かるかもしれない。
一縷の望みをこめてトムおじいさんに会いに行くことにした。
防腐剤作りのリサーチが始まった。
お米のとぎ汁でアリシアが作る化粧水の完成までには、長い長い道のりが続くようだ。




