たどり着いた、その先には・・・
アリシアは、グレタに厨房へお米を持って行かせた。
180mlの軽量カップに2杯のお米を水につけておくように、伝言をするのも忘れない。
グレタにお米を運ばせ、アリシアは、夕方の自主練用に準備していた運動着に着替える。
早く護身術を習いたくて、あれからアリシアは、体力強化のために、走れる日は夕食前に走っているのだ。
『今日は、走り終わるまで、運動着でおりましょう。』
アリシアは、そう思いながら、着替えた。
京子さんの補正のおかげで、アリシアは、一人で服を着れるようになった。
しかしながら、京子さんの助力があっても、ドレスは一人で着られない。意外と複雑に作られているのだ。
そして、残念な事に、アリシアは、脱いだドレスも片付けられない。
一度、片付けようとして、クローゼットでドレスの下敷きになってしまった。
ドレスの山から救出されたアリシアは、グレタとリタから、決して一人でクローゼットに入らないようにと、トクトクとお説教をされた。
京子さんの補正でも、アリシアのどんくささはカバーしきれないのである。
アリシアは、着替えたドレスをテーブルに載せ、グレタがやって来るのを待った。
その間に、厨房ですることを確認していく。
まず、お米を研がなくては。
研ぎ終わったら、さらにしばらく、水につけておく。
でも、今回は、先につけておくから、水につけるのは、ナシにする。
その間に、チキンライスの準備をする。
まず、玉ねぎとピーマン、ニンジンをみじん切りにして、マッシュルームも刻む。
ごはんをフライパンでたく。
お米は2合なので、お水も同じ位でよいが、後でフライパンで炒めるので、少し少なくても良いかもしれない。
お水は、340mlくらいにしよう。
「お嬢様、一人でお着替えができたのですね。」
気づくと笑顔のグレタが隣に立っていた。
「先ほどのオコメ、厨房でお水につけてもらってますよ。」
アリシアは、書きかけのノートを閉じて、立ち上がった。
「ありがとう、グレタ。さぁ、参りましょうか。」
「はい、お嬢様。」
アリシアは、片手にノートを持ち、片手はグレタの手を握り、厨房へ向かった。
厨房では、初めてみるお米を料理人達が囲んでいた。
「料理長、まだ、ケチャップはあるかしら?大量に必要ですの。」
アリシアは、お米を眺めている料理長に声をかけた。
料理長は、振り返った。
「あります。でも、のこりのスパイスが少なくなってますね。」
アリシアは、眉間にシワをよせ、フンと鼻をならした。
「どれくらい買えば、足りなくならないかしら・・・
毎回、アティクシュさんから購入するスパイスの量を増やしているのに、すぐになくなってしまいますわね。」
サムは苦笑いを浮かべた。
「旦那様も、奥様も、スパイスのきいたお菓子やお茶を好まれていらっしゃいますから。」
ケチャップは毎日必須。
クラフトコーラやクラフトジンジャーエールを砂糖代わりにお茶に入れる公爵夫妻。
最近では、スパイスを使ったスイーツも作っている。
いくらあっても足りない、と言うのが、サムの正直な感想だ。
ひとまず、残りのスパイスの量の事は置いておこう。
「それで、お嬢様、ケチャップはどれくらい必要ですか?」
「そうね。お料理に使うケチャップは、大さじ2くらいかしら。でも、出来上がったお料理にかけるから、やっぱり大量に必要ですわ。」
アリシアは、オムライスに大量のケチャップをかけている自分の姿を想像し、早くもヨダレがこぼれそうだった。
早速、京子さんの補助のもと、アリシアがザルにお米をうつし、お米を研いでみせた。
しかし、体力のないアリシアは、磨ぎ汁が透明になる前に疲れてしまった。
ザルを持ち上げられなくなったアリシアを見て、サムがかわりにお米を研いでくれた。
「料理長、軽くかき回すように研いで下さいませ。あまり力を入れると、お米の粒が壊れてしまいますの。」
アリシアの指示に従い、サムは磨ぎ汁が透明になるまでお米を研ぎ続けた。
研ぎ終わったお米をフライパンにうつし、340mlの水に浸し強火にかけ、全体が沸騰するまでかきまぜる。
沸騰したら蓋をして、弱火で10分たき、最後に中火で20秒待ってから、火をとめて10分まつ。
お米のたける匂いが広がり、アリシアのお腹が、キュルリと鳴った。
ようやく、最後の10分が経過し、サムが蓋をあけた。
スプーンを握ってまっていたアリシアは、早速、お立ち台に上がり、フライパンにスプーンを突っ込んだ。
アリシアは、スプーンに盛ったお米をクンクンと嗅いだ。
「精米みたいだけど、ちょっと米ぬかくさい」
と、京子さんの声が聞こえた。
米ぬかかぁ、と思いながらアリシアは、ハタと気づく。
そう言えば、米ぬかと言えば、お肌によ良かった気がする。
棄ててしまったが、お米のとぎ汁も、お肌がツルツルになるとか言われている気がする。
お米のとぎ汁は、樽にでも入れて残してもらおう。
そして、入浴剤かわりにアリシアの入浴に使ってもらおう、と思った。
米ぬかも欲しいから、次からは、玄米を持ってきてもらえないか交渉しよう、そう思いながら、アリシアは、お米を口に入れた。
初めて炊いたお米は、お水が少なかったのか、モチモチ具合が足りない気がする。
アリシアは小鼻にシワを寄せながら、お米を咀嚼していた。
「いかがですか、お嬢様?」
アリシアの何とも言えない表情を見て、サムは不安げに聞いた。
「お水につける時間が短かったかもしれませんわ。後、炊いた時のお水も少なかったかもしれません。」
アリシアは、反省点を述べた。
サムも、アリシアの話を聞きながら、炊き上がったお米を食べた。
「とても淡白な味ですね。」
サムの感想にアリシアは、頷いた。
「そうですの。だから、いろんな料理になりますし、いろんな料理とも相性が良いのですわ。」
サムはアリシアの言葉に、なるほどと、頷いた。
「それで、お嬢様、この、コメをどうされるんですか?」
「鳥胸肉と、切ったやさいとケチャップで、炒めて、最後にオムレツにしてくださいまし。」
「何の野菜ですか?」
「玉ねぎ半分と、ピーマン1個、ニンジン3分の1をみじん切りにしていただき、マッシュルームは刻んでくださいまし。鳥肉も、一口大に切ってくださいませ。先に、野菜を炒めていただき、次にお肉、最後にお米の順番です。お米は炊き上がった量の1/3くらいを使いますわ」
アリシアの説明をききながら、サムが手早く野菜をみじん切りにしていく。
アリシアは、サムが野菜を切り始めると同時に玉ねぎから避難した。
サムが野菜を炒め終え、お肉をフライパンに投下したため、アリシアは、サムのそばに戻った。
サムが、お米をフライパンで炒めようとしたところで、アリシアが指示をだした。
「料理長、ご飯を炒めていただき、全体的にパラパラになったら、ケチャップを大さじ2加えて、さらに炒めていただきます。ケチャップを混ぜる時は、フライパンの真ん中をあけて、空いた場所にケチャップを入れて、ケチャップを温めてからお米と混ぜてください。最後に塩コショウで味をととのえてください。それで、チキンライスは完成です。」
サムに手順を説明していると、アリシアのお腹が再びキュルリとなった。
サムはアリシアに言われた通り、チキンライスを仕上げた。
アリシアがオムライスにたどり着けるまでのカウントダウンが始まった。
「お嬢様、このチキンライス?で、オムレツを作るんですか?」
「そうですわ。食事の時なら、完成したチキンライスの半分の量に、卵2個使いますが、今は味見なので、スプーン山盛り1杯のチキンライスに卵1個でお願いしますわ。」
サムが、卵をわり、とき卵を作って、熱したフライパンにとき卵を流し混んでいく。
卵が固まってきたところで、チキンライスに卵を巻き、お皿に盛り付けた。
サムがアリシアの目の前にオムライスを置いてくれた瞬間に、アリシアは、大量のケチャップをオムライスにかけた。
目の座ったアリシアが、ニヤニヤしながら、オムライスにケチャップをぶちまけている様は、なかなかシュールだったが、誰も何も言わなかった。
なぜならば、アリシアのお腹がずっとキュルリ、キュルリとなり続けているのだ。
今のアリシアに、お行儀など、気にしている心の余裕はないだろうと、その場にいた誰もが思っていた。
『グレタ、ごめんなさい。後で、いくらでもお小言はきくから、今は許して』
心の中でグレタに謝りながら、アリシアは、オムライスを頬張った。
初めて(サムが)作ったオムライスは、やはり、色々と足りない気がした。
しかし、それでも、アリシアは、全身で感動していた。
今にも、奇声とも、雄叫びとも、歓声とも言える『ウウォ~~~』と言う、公爵令嬢とは思えない声をあげそうな自分を、拳を握りしめ、全身をプルプルさせながら抑え込み、アリシアは、初めてオムライスを食べたいと思った時からの道のりを思い返した。
あの時から、すでに数ヶ月の時がたっていた。
アリシアが、完食し、スプーンを置いたのを見て、サムが声をかけた。
「お嬢様、いかがでしたか?」
「美味しいです。でも、もっとおいしくなると思いますの。お米は、ちょっと固めだったのが、炒めて丁度よい固さになりましたわ。だけど、お肉が固いですし、味も少し薄い気がしますわ。」
アリシアの感想をきいたあと、サムは、自分用のオムライスを一口食べた。
「確かに、このままでも、そう悪くないですが、今のままだと、何と言うか、平凡ですね。」
アリシアは、サムの言葉に頷いた。
今のままでは、それなり美味しい家庭料理だ。
苦労してたどり着いたオムライスの先に、アリシアは、完璧を求めた。
アリシアは、いつか、ギュンター公爵領に、ファミレス的なお店を出そうと思っている。
公爵邸で試行錯誤して試作に試作を重ねているのは、すべて、将来、アリシアがお店のメニューにしようと思っているからだ。
こうして、オムライスも、ほかの料理や調味料と同様にアリシアの野望のため、ギュンター公爵邸の料理人達の手で、さらに美味しく改良されていくこととなった。




