補正するにも、限界はある(2)
アリシアは、京子さんのお陰で、推しに無様な姿をさらさずに済んだ。
そんな、京子さんの補正だが、さすがの京子さんでも補正できないものがいくつかある。
それが、アリシアの身体的能力である。
体力もそうだが、筋力も京子さんの補正ではどうにもならない。
記憶力なども、京子さんの補正はかからないが、アリシアは、もともと賢いため、補正できなくても問題ない。
そんなできる事もできない事もある、京子さんの補正。
万能ではないが、京子さんの補正でアリシアの能力が爆上がりしたのは間違いない。
京子さんに補正してもらいながらの楽チン生活は、アリシアには快適過ぎて、このままで良いのか不安になる事があるのだが・・・
アリシアは、現役騎士に見てもらいながら、いきいきと木剣を振り回すフィルと、基本に忠実に、教えられた通りに木剣を振るうジョナサンを見ていた。
驚いた事に、離れた場所から眺めていたアリシアには、思いの外、クレアの指導に熱がはいっていることが、見てとれた。
このままでは、前途有望な二人を、騎士団の人間がギュンター領の騎士団が囲い込もうとするかもしれない。
アリシアは、二人に、好きに生きて良いと約束したのだ。
騎士団員達が、二人を勧誘しないように、先に手をうつ事にした。
気が済むまで木剣を振り回した二人と、クレアがアリシアの所にやってきた。
アリシアは、二人にイニシャルを刺繍したタオルを渡した。
ちなみに、家紋を刺繍をしたタオルは、グレタがクレアに渡していた。
京子さんの補正があってもなお、アリシアに、自力での推し活は無理ならしい。
「二人とも、お疲れ様でした。」
「おお、サンキューな。」
「アリ、タオルありがとう。」
「お二人のイニシャルを刺繍しましたの。次回の護身術の時にも、持ってまいりますわ。」
汗をふいたあと、二人はアリシアが刺した刺繍をじっくりみたり、手でなでたりしてから、タオルをリタに渡した。
「木の剣を振っていらっしゃっいましたが、お二人は、クレア様から剣術を習っていらしたのかしら?」
「うん。護身術は、アリの体力がついてから、一緒にならうんだって。」
ジョナサンは、テーブルについて、フィンガーボールで手を洗いながら言った。
「初めて振ったけど剣って、おもしれーな。」
フィルはすでに手を洗い終え、スクランブルエッグとハムのサンドイッチをかぶりつきながら言った。
アリシアは、クレアが席についたのをみはからって、言った。
「あら、それじゃあ、やっぱりフィルは騎士になりたいと思いましたのね?」
フィルは今度は、ハンバーガーに手をのばしながら言った。
「うーん、まだ分かんねー。だって、初めてだったし、嫌になるかもしんねーだろ?これから先もさ、続けてみて、その後も続けたいと思ったら、騎士になるんじゃね?でも、アリ、嫌になったら辞めて良いって言ってたのに、やっぱりオレに騎士になって欲しいのか?」
「違います。でも、木剣を手にしていたフィルはとても楽しそうでしたもの。だから、騎士になりたくなったかと思ったのですわ。」
フィルは、首を横に振った。
「いや、まだ決めてない。これからまだ色々やってみてから、一番、気に入ったヤツに決めるんだ!」
アリシアは、ジョナサンに向き直った。
「ジョンはどうでしたの?」
ジョナサンは、顎に手をあてて、思考をまとめようとするように答えた。
「う~ん、初めてだったから、とても興味深かったよ。また、やってみたいと思ったけど、騎士になるのは、どうかなぁ・・・?騎士になってる僕なんて想像できないよ。」
クレアは、ジョナサンとフィルの話している内容を聞き、少しガッカリしたようだった。
「あら、じゃあ、ジョンは将来、どうなってる所なら想像できますの?」
「全然分からないけど、アリと一緒にいる所だけは、想像できるかな。」
ジョナサンは照れ笑いを浮かべながら言った。
「オレも。」
ホットドッグを手に、フィルもジョナサンに同意した。
「わたくし達の友情は、永遠ですわ。」
アリシアは、嬉しそうに手を出した。
ウィルとジョナサンは、アリシアの手に手を重ねた。
「友情は、永遠だー」
クレアは、3人の様子を見て、微笑ましそうに笑った。
「お嬢様と一緒にいたいなら、騎士は一番可能性が高いと思いますよ。ギュンター公爵家の騎士団は、二人みたいに才能ある子は、大歓迎だよ。」
おどけるように言ったクレアだったが、アリシアは、クレアを射るように見ながら言った。
「クレア様、いくらクレア様でも、わたくし、ジョンとフィルを騎士団で囲い込もうとするのは、決して容認できませんわ。わたくしは、二人が将来、なりたいモノになる手助けをすると約束いたしましたの。ギュンター家の録を食むあなた様が、わたくしを嘘つきにしないでくださいまし。」
アリシアとクレアのやり取りを見て、ジョナサンは、申し訳なさそうに、クレアに言った。
「クレアさん、その、お申し出は光栄ですが、今の僕に騎士は考えられません。」
なおも、両手に食べ物を持って、フィルもいった。
「そうだな。オレも、まだ騎士になるって、決められないや。それに、アリが言ったんだ。オレ達には、職業を選択する権利?ッてヤツがあるって。」
クレアは驚いた顔をした。
「職業選択の権利ですか?」
平民は皆、職業を選択などする余地などない。
クレアとて、騎士になりたくてなったわけではない。
騎士になる学科であれば、学校に入れたため、否応なしに騎士になったのだ。
信じられない物を見るように、クレアはアリシアを見た。
「その、お嬢様は、誰でも職業を選べると考えていらっしゃるんですか?」
アリシアは、残念そうに言った。
「わたくしには、そんな自由は、ありませんわ。今、わたくしが絹のドレスを身にまとい、皆にかしずかれて生活をしているのは、何もできない子供なのに、すでに責任があるからですわ。いずれわたくしが、領民により良い生活を与えると言う約束のもと、今のわたくしは、このように贅沢を享受しているのです。」
「その、お嬢様が言う、より良い生活が、職業を選択する権利なのですか?」
「それも、より良い生活の一部ですわ。」
アリシアは、困惑しているクレアに向かって続けて話した。
「わたくし、思いますの。子供は親のために生きるのではなく、自分の自由のために生きるべきだと。だけど、家族はいちばん最初に子供が接する社会なのです。家族の中だけで生きていたら、他は分かりませんもの。気づかないうちに、そうするのが当たり前になってしまいます。
家業を継ぐのが当たり前、そうでなければ冒険者、そうでなければ騎士と、少ない選択肢の中から、いいえ、選択の余地など、なかったかも知れませんね。ほかに選択肢がなく、ほとんどの人は、皆、嫌々、働いているかもしれません・・・。」
アリシアは、悲しそうに言った。
「クレア様、わたくし、ギュンター公爵領を領民がイキイキと幸せに暮らせる、そんな場所にしたいのですわ。だから、その、ジョンと、フィルは、わたくしの夢の第一号なのです。」
クレアは、小さな令嬢が、果てしもない夢と野望を持って、平民の子供を引き連れている事に、目眩を覚えた。
「お嬢様は、その、夢の実現のために、今後、この領をどうするおつもりですか?」
アリシアは、悪役のような悪い顔をしてニヤリと笑った。
「わたくし、無料でお勉強を教えてくれて、お昼ご飯が食べられる学校をこの領につくりますわ。そうすれば、きっと、この領の子供達の社会はもっと広がると思いますもの。」
「学校ってなんだ?」
フィルは不思議そうに聞いた。
「今は、フィルとジョンだけが、わたくしと勉強しておりますが、いずれ、ほかの平民の子達、全員が勉強するために通う場所をつくるつもりなのです。その場所が学校ですわ。」
「すげー。アリは本当にスゲーや。」
フィルは感嘆の声をあげた。
そして、ジョナサンも感心して言った。
「凄いよ、アリ!僕、アリと勉強を始めて、前よりもいろんな事がわかるようになったんだ。それが凄く嬉しい。きっと、僕みたいに、そう思う人は他にもいると思うんだ。それに、お昼ご飯がついてるのが、さらに良いよね。」
仲良し3人組は、アリシアの学校の話で盛り上がっていた。
神様の加護を授かったからお嬢様は変わったと、クレアは思っていたが、そうではなかった。
こんな、奇想天外な事をしようとする令嬢であったから、加護を授かったのだ。
クレアは感動していた。アリシアの夢が実現したら、この世界は大きき変わる。
クレアは興奮する心を抑え切れなかった。
アリシアに付き従う平民の男児達のように、このお嬢様について行こう、クレアも、そう心に決めた。




