すべては、加護のおかけで片がつく
フィルは、リタと一緒に、眠るアリシアの傍にいた。
最初、アリシアは、血の気の引いた、真っ青な顔をしていた。
しかし、しばらくたった頃、アリシアの顔色が良くなり、ただ寝ているように見えた。
「アリ、元気になったのか?」
フィルはリタを見上げて聞いた。
「どうでしょうか?でも、いつもより、健やかに眠っているように見えます。」
リタは、アリシアの頭を優しくなでながら言った。
グレタもリタも、アリシアが血の気の引いた様子で眠り始めると、何度もアリシアが息をしているか、心臓が動いているか、一日に何度も確認する。
それほどまでに、倒れたアリシアは、《生》からかけはなれた姿であった。
しかし、今のアリシアは、普通に眠っているように見えた。
「アリ、早く起きると良いな。」
フィルは、アリシアを見つめて言った。
しかし、フィルの願いとは裏腹に、アリシアは、しばらく、眠り続けた。
夢の中で、京子さんとの邂逅を果たしたアリシアは、皆の心配をよそに、居心地のよいソコに、ちょっとばっかし長居をしてしまっていた。
マークリアが帰ったあと、グレタは眠っていたアリシアの元に戻ってきた。
リタはグレタに謝った。
「私、あの時、恐くなってしまって。本当にごめんなさい。あなた一人に恐い思いをさせてしまったわ。」
「大丈夫よ。確かに少し恐かったけど、神様は、お嬢様を大変お褒め下さって、加護と祝福を授けてくださいました。」
京子さんがきけば、加護はともかく、「それは、《祝福》と言う名前の呪いだわ」と言うであろう。
ともかく、グレタの話を聞いたリタは納得した様子で、アリシアを振り返った。
「今日のお嬢様は、いつもと違うのです。とても顔色が良ろしくて、ただ眠っているように見えます。」
グレタは眠るアリシアを見た。
「きっと、神様の加護のお陰ですわ。」
グレタは嬉しそうな笑顔を浮かべた。
実際は、京子さんが、アリシアを受け入れたお陰で、京子さん以外の人格を受け入れようとしなった身体が、アリシアを受け入れたと言うだけだ。
これからのアリシアは、幸か不幸か、マークリアの加護と祝福を授けられたことにより、真にアリシア=フォン=ギュンターとして生きていくことになる。
数日後、目覚めたアリシアは、また少し変わった。
これまで、ほとんど表面化していなか感情の起伏が、全て、そのまま表情に出るようになった。
つまり、これまでは、全力で笑おうとしなければ、動かなかった表情筋が、魔力が漏れ出すほど怒り狂わなければ動かなかった表情筋が、少しの心の機微でも動くようになったのだ。
しかし、アリシアのこの変化は、マークリアの加護のためだと、皆は勝手に納得していた。
実際は、アリシアとリンクした京子さんが、京子さんの偏見と独断により、アリシアの表情筋を動かすよう、体に命令をだしているのだが。
どうやら、真実は、そうであっても、そうでなくとも、すべては、加護のおかけで片がつくのだ。
とは言え、本当に、アリシアに加護がついているかを確認しておきたいモンタギュー公爵夫妻は、アリシアを連れて、冒険者ギルドにやって来た。
ギルドでは、冒険者のランクを鑑定するための道具があるからだ。
ランクは、魔力や加護、運動能力、武力、持っているスキルやクエスト達成によって、決められる。
しかし、15歳未満の子供は、皆、Gランクから始まる。
15歳以上の子供と、18歳以上の成人は、Fランクから始まる。
18歳以上の成人は鑑定の結果により、Eランクから始めることができる。
アリシアは、別に冒険者になるわけではないが、ギルドで鑑定してもらえば加護があるかは確認することができるのだ。
突然、領主の公爵夫妻が、娘を鑑定して欲しいと、アリシアを連れてギルドに入ってきたため、ギルドは一時騒然とした。
受付の女性からモンタギュー公爵の来訪を告げられたギルドマスターのガイ=ローランドは、最初、領主がやって来たなどと信じてなかった。
しかし、公爵を名乗るバカな輩がいるならば、当然、捕らえて、憲兵に引き渡さなければならない。
山積みの仕事を尻目に、ガイは、来客の対応をするため、応接室に入室した。
しかし、ガイの予想に反して部屋にいたのは、公爵夫妻と二人の娘らしい幼女。
ガイは、佇まいを正し、畏まって言った。
「ご領主様、その、今日はどう言ったご用向きでしょうか?」
エリザベートに抱っこされているアリシアの頭をなでながら、カールは言った。
「娘を鑑定してもらいたくてね。」
カールは、領主としてはまぁまぁの及第点、外交官としては、次期外務大臣とうたわれるほどの実力者である。
頭脳は明晰であるが、剣の腕も魔法の腕も決して褒められたものではない。
そんな男の娘の鑑定などして、いったい、何になるというのだ。
ガイは、ウンザリしながら、アリシアの鑑定の準備を始めた。
ガイは、アリシアの前に、水晶玉のような透明の玉がついた魔道具を置き言った。
「お嬢様、この鑑定玉に手を触れてください。」
アリシアは、母親を見上げた。
エリザベートが頷いたため、アリシアは、玉の上にそっと、片手をのせた。
名前/アリシア=フォン=ギュンター
種族/人間
年齢/五歳
LV/1
職業/貴族
スキル/調理G 裁縫G 工芸G 魔術E
特殊スキル/なし
備考/マークリアの寵児
アリシアの鑑定結果を見た両親は、マークリアの加護を確認し、さらに、何故か魔術がすでにEになっていることに驚いた。
アリシアを鑑定してくれたギルドマスターのガイも驚いた。
「お嬢様は、神様の加護をお持ちなんですか?!しかも、魔術がEって、すでに家庭教師でもついているんですか????」
すでに、父親のランクに勝っていそうな小さな令嬢と鑑定結果を見比べて、ガイは叫んだ。
「どうやら、娘は、家にある本を読んでから、魔法が使えるようになったようなんだ。
しかし、魔法を使って、一度、庭をもやしかけた事があってね。娘も少し火傷したり、髪がこげたりしたから、それから、魔法は禁じているよ。」
令嬢の歳で、庭を燃やすほどの炎を出せるなど、とんでもない逸材だ。
通常、独学で、5歳の子供が使える火魔法は、マッチ程度の火力があれば御の字である。
庭が燃えかけたなど、いや、火傷を追うほどの火力が出せるなど、今から、訓練すれば、宮廷魔道師でも、一流の冒険者にでも、なれるとガイは仰天した。
しかも、マークリアの加護持ちだ。
コレは、間違いなく大化けする。
ガイは高ぶる気持ちを抑えて、平静を装った。
まさか、辺境伯であった頃の血が小さな令嬢に甦ったのだ。
これは、期待するなと言う方がおかしい。
ガイは、何なら、剣も訓練次第でどうにかなるのではとすら思った。
「お嬢様には、魔法の才がおありなんでしょう。しかし、才能は時として諸刃の刃となり、お嬢様を傷つけることもございます。早めに家庭教師を探されるべきでしょう。」
「実は、家庭教師は、色々と探しているのだが、なかなか良い者が、おらんのだ」
カールがため息をつきながら言った。
「ギュンター公爵家の家庭教師ならば、なりたい者が行列をなしましょう。」
ガイは不思議そうに言った。
「娘一人ならば、そうなのだが、娘の遊び相手をしている平民の子も、一緒に教えてくれる者が良いのだ。しかし平民と聞くと、皆に断られてしまってね。」
「お嬢様の家庭教師は、必ず、貴族でなくてはなりませんか?」
「いや、そんな事はない。ただね、娘の家庭教師になりたい者の中に平民がいないのだ。」
ガイは、恐る恐るきいた。
「ならば、冒険者ならどうでしょうか?冒険者の中でもBランクやCランクならば、貴族や有力な商人などの護衛任務につく必要があるため、最低限の礼儀作法も心得ておりますし、平民出身なので、平民に教える事も厭いません。」
アリシアは、目を輝かせて、ガイの話を聞いていたが、突然、ハッとして、エリザベートに耳打ちした。
エリザベートはアリシアに頷き、ガイに聞いた。
「そのBランクやCランクの冒険者に女性はいるのかしら?」
「もちろん、おります。今度、ギュンター公爵邸へ何人か派遣いたしましょうか?」
ガイの申し出にアリシアがブンブンと、首を縦に振った。
娘の様子に、カールは苦笑しながら、ガイの申し出を受ける事にした。
アリシアは、ようやく魔法の勉強ぐ始められると、アリシアは、ホッとした。
ずっと決まらなかった家庭教師の一人が決まりそうなのを見ながら、神様の加護があれば、大抵の事が片付くのでは?と、アリシアは、心の中でそんな事を思っていた。




