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アリシアは、ケチャップに餓えている(3)

アリシアは、どうしても、どうしても、ケチャップを諦められなかった。

そこで、ポテトチップ、フライドポテト、ハンバーガーのレシピを厨房に届けに来たついでに、スパイスについて、確認した。

「ねえ、ディーン。わたくし、聞きたい事があるんですの。」

ディーンは、不思議に思いながら、快くアリシアに返事をした。

「何でしょう?オレに答えられることならば、何でもお答えしますよ。」

「この邸にスパイスはあるかしら?」

アリシアは、ケチャップの要とも言えるスパイスについて、質問した。

「スパイスですか?胡椒はありますが、他は使う事がありませんからね。」

ディーンは、考えながら答えた。

アリシアは、ケチャップへの道のりが遠く険しい事がわかり、いや、険しくはないかもしれないが、とにかく遠い事に気付きガックリした。

「じゃあ、その、この邸ではスパイスが手に入る事はないのかしら?」

アリシアは、ションボリした様子であったが、ケチャップが諦めきれず食い下がった。

「・・・ああそう言えば、胡椒を売りにくる商人がおりますから、他にも何かスパイスを扱っているかもしれませんよ。」

アリシアの気持ちは、少し浮上した。逸る気持ちをおさえて、ディーンに聞いた。

「その商人は、いつ来るのかしら?」

アリシアのあまりの熱心さにディーンは驚きながら答えた。

「残りの胡椒が少なくなりましたから、来週には来ると思います。」

それを聞いたアリシアが嬉しそうに笑った。

ディーンは、いや、その時厨房にいた料理人達は、皆、アリシアが笑えることに驚いた。

アリシアのごく近しい少数を除いた使用人達は、アリシアが笑う事はないと思っていたのだ。

実際、無表情が顔に縫い付けられているように、アリシアの表情が変わる事はあまりなかった。

「それでは、その方が来られたら、わたくしもお話しができるように、呼んでいただけるかしら?」

一瞬であったが、今見たアリシアの笑顔に気をとられたディーンは、慌ててアリシアに返事をした。

「モチロンでございます。」

ディーンから、良い返事がもらえたアリシアは、グレタとリタと手を繋いでスキップしながら、部屋にもどった。


ルンルン気分で、部屋に戻ったアリシアは、ケチャップに使うスパイス以外にも欲しいスパイスを書き出してみた。

そして、グレタとリタに頼んで、父親の書斎から、外国について書かれている本をあるだけ持ってきてもらった。

何冊も積まれた本をテーブルに置きながら、グレタが聞いた。

「お嬢様、外国について書かれた本で、何を調べられるんですか?」

アリシアは、さっそく、積み上げられた本の一冊を手に取った。

「今度、いらっしゃる商人さんが取り扱っているかは分かりませんが、スパイス以外にも、外国の食材を調べて、その方がご存知か聞いてみようと思いますの。」

「そうですか。」

アリシアの返事を聞きながらグレタは、張り切り過ぎたアリシアがまた倒れてしまわないかと、心配そうにアリシアを見つめた。

それに、今度来る予定の商人が、アリシアに聞かれた食材を知らず、アリシアががっかりするかもしれない。

グレタは、何事もなく商人とアリシアの面談が終了する事を願った。


本で調べたところ、アリシアが住んでいる世界にインヒーブン国と言う国がある。この国は、香辛料が豊富ならしい。

そして、インヒーブン国のもっと東側には、京子さんの国で使われていた漢字(文字)が使われている国、中韓帝国があった。

中韓帝国ならば、米、お味噌やお醤油はありそうだった。

それ以外にも、酒、味醂もあるかもしれない。

アリシアは、商人に会えるのが楽しみになってきた。


アリシアが前のめり気味に準備を整えるなか、とうとう、その日が来た。

昨晩、商人からの先ぶれが来てから、アリシアは、ずっとソワソワしていた。

朝食後、アリシアは、今か、今かと、応接室のソファに座って、商人を待ち構えていた。

コン、コン

ノックの後、リタの声が聞こえた。

「お嬢様、料理長とアティクシュ=プラデーシュ様をお連れしました。」

「入りなさい。」

アリシアが返事をした後、リタに連れられ料理長と、商人と思わしき男性が入ってきた。

浅黒く、眉毛がゲジゲジしたくっきりとした顔立ちの商人が、アリシアの目の前に立った瞬間、『逃げろ、早く逃げるんだ』と言う誰かの声が聞こえた気がした。

その瞬間、アリシアの心臓が早鐘を打ち出し、全身が強ばった。

『い、息ができない』、そう思ったその時、アリシアの喉が、ヒューと鳴った。

「まずい!お嬢様が!」

アリシアの真っ青な顔を見て、サムが叫んだ。

「お嬢様、ゆっくり息をしてください。グレタがついております。大丈夫でございますから。ゆっくり、ゆっくり吐いて、ゆっくり吸って、ゆっくりですよ。」

そう言いながら、グレタは、アリシアを抱き締めてトントンと背中を優しく叩いた。

アリシアが落ち着いた頃、グレタはアリシアに言った。

「お嬢様、具合が良くないなら、別の日に改めて来ていただきましょう。」

「ダメよ、グレタ。お忙しいのに、お二人とも、わたくしのために時間をさいてくださったのよ。」

そう言うと、アリシアは、商人の男に、驚かせてしまったことを謝った。

「お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ございませんでした。わたくしは、アリシア=フォン=ギュンターと申します。本日はお時間を取っていただきありがとうございます。料理長も、忙しいのに、立ち会ってくださって、ありがとうございます。」

「お嬢様が、また何かするなら、事前に知っておきたいですからね。ハンバーガーの時は寂しかったですよ。」

サムは、おどけてアリシアに言った。

「ごめんなさい。次からは、事前に料理の説明とレシピを持っていきますわ。」

アリシアは、表情を和らげて言った。

サムが立ち尽くす男性に声をかけた。

「あんたも座ったらどうだら?」

アリシアも、ハッとして、男性に座るよう促した。

「重ね重ね、申し訳ございません。わたくし、あまりおもてなしした事がなく、お客様にお席もすすめず、本当に失礼いたしました。どうぞ、お座り下さいませ。」

男性にソファに座るよう促した。

男性は、アリシアに一礼し、片言の言葉で挨拶をした。

「ワタシは、アティクシュ=プラデーシュとモウシマス。イゴ、オミシリオキヲ。シツレイイターシマース」

アティクシュは、そう言うと、ソファに座った。


商人のアティクシュは、朝イチでギュンター公爵邸へやって来た。

そして、いつも通り胡椒を卸して帰ろうとしたら、料理長のサムに声をかけられたのだ。

この邸に住む幼いお嬢様が自分に会いたがっているから会ってやって欲しいと。

最初、アティクシュは、どうせいつもの冷やかしだろう、と思った。

アティクシュは、インヒーブン国出身だ。

グランディス帝国では珍しい容姿のため、時々、貴族の家に行くと、アティクシュを見たいと言う、ご令嬢、ご令息がいるのだ。

しかし、サムが言うには、人見知りが激しく繊細なお嬢様だが、5歳とは思えないほど賢く、邸で働く使用人の子供や兄弟に令嬢自ら勉強をおしえているらしい。

さらに、時々、夢の中で食べた食べ物を再現して欲しいとレシピを持参するのだとか。

アティクシュは、半信半疑に、話を聞いていたが、そのお嬢様が考案したと言うハンバーガーを食べて、度肝を抜かれた。

5歳の子供が考えたとは思えないほど、美味しかったのだ。

そんなお嬢様は、アティクシュと面談できると分かって、外国の本を色々物色し、勉強していたそうだ。よほど、この面談が楽しみだったんだと思うと、アティクシュを迎えに来たメイドから言われた。

「お嬢様は、とても賢く聡明ですが、繊細で気が小さい小動物のようなところもあります。ですから、知らない人と会うと発作が出ることがあるんです。もし、お嬢様が、発作を起こされても、アティクシュ様に責任はございません。どうぞ、お気に病まれませんよう。」

そのメイドは気遣わしげな様子で言った。

いくら聡明で賢くとも、発作が出ては自由にどこにも行けないだろう、なんと難儀なことだと、アティクシュは、まだ見ぬ令嬢に同情した。

結局、お嬢様の事情により、サムも一緒に立ち会うことになった。

そして、入室してから、目の前で起こった出来事に、サムとメイドの話しは全て事実なのだと、アティクシュは理解した。


アティクシュがソファに座ったのを見て、アリシアはさっそく話しを始めた。

「アティクシュさんのお時間が勿体ないので、単刀直入に申し上げますわね。実は、わたくし、スパイスを探しておりますの。当家とは、胡椒しか取引がないと聞いております。だから、本日は準備してないかもしれませんが、もし胡椒以外もお持ちであれば、見せてくださいませんでしょうか?」

アティクシュは、アリシアの話を聞き、ひとまず自分のバッグから手持ちのスパイスを全部出して、テーブルに並べた。

「イマ、ワタシがモッテイルノ、コレダケネ」

オールスパイス、シナモン、ローリエ、クミン、コリアンダー、ターメリック、カルダモン、クローブ、山椒、レッドペッパー、ジンジャー、サフラン、メッチ、八角。

『まぁ、なんて事!!これだけあれば、ケチャップだけでなく、コーラやカレーも作れますわ』

アリシアは、声を弾ませ嬉しそうに言った。

「全部買いたいですわ。」

「コレデ、ソロイマシタ?」

「ええ、揃いましたわ。」

アリシアは、ニコりと笑って言ってから、さらに続けた。

「えっと、後、もしご存じでしたらで良いのだけど、大豆、ビーンを使った調味料や米、ライスを、目にしたことはないでしょうか?」

「チュウカンまでイケバテニハイルね。でも、ワタシはソコまでイカナイデス」

少しがっかりした様子でアリシアが聞いた。

「この国では、手に入らないでしょうか?」

アティクシュは、少し考えてから、答えた。

「テイトでミタコトアリマス。」

『帝都は、直ぐにはいけませんわね。』

アリシアは、残念な気分であったが、情報提供のお礼は伝えた。

「そうですか。帝都に行く機会があれば、探してみますわ。教えてくださって、ありがとうございます。」

アリシアはお礼を言いながら、オムライスの完成までは、まだ遠いと、悲しくなった。

すると、アティクシュが言った。

「オジョウサマ、ヨロシケレバ、ワタシがテイトでソノショウニンをミカケタラ、コチラのオヤシキをタズネルヨウ、デンゴンシマス。」

『それは良い考えですわ』と喜びかけたアリシアであったが、身元がわからない商人を邸に招き入れて良いもなのか判断がつかなかった。

「アティクシュさんの申し出は、とても嬉しいです。ありがとうございます。でも、身元がわからない方を邸にお招きして、お父様は何もおっしゃられないかしら?」

「コウシャクサマニ、オジョウサマがシカラレマスカ?」

アティクシュは、心配そうに、アリシアを見た。

「いいえ、わたくしが叱られるのは良いのです。勝手に商人を呼んだ、わたくしの責任です。父がわたくしを叱るのであれば、わたくしの行いは、過ぎたワガママだったと言う事ですわ。でも、料理長やグレタ達に迷惑をかけるのは、気が咎めます。それに、アティクシュさんとの取引にも、今後影響があるかもしれません。わたくしとしては、これからも、アティクシュさんからスパイスを購入したのいですもの。」

アリシアが、自分のワガママで使用人達が雇用主から処罰されないか心配しているのを見たアティクシュは、心配になった。

高位貴族のご令嬢が、このようにお人好しでやっていけるのかと・・・。


アティクシュに心配されているとは露知らず、アリシアは、どうすべきか悩んでいた。

しかし、グレタと料理長が言うには、ギュンター公爵家では、初めての商人の対応を執事のセバスチャンが行う、セバスチャンのお眼鏡に叶わない、怪しい商人は次から公爵邸の敷地に入れないのだそうだ。だから、アリシアは、気にしなくて良いと言う。

ならばと、もし、何かあった時の責めはアリシアが負う覚悟で、アリシアは、中韓帝国の食品を扱う商人に、邸を訪問して欲しいと、アティクシュに伝えた。

オムライスへの道のりが突然縮まったため、アリシアはご機嫌だ。

最後にアリシアは、ジャンクフードに必要な炭酸水の湧き水について聞いてみた。

「シュワシュワと、口の中で弾けるお水が湧いている場所をご存知ないでしょうか?」

「アア、ソレナラ、ドラゴンのスがアル、ヤマノドウクツにアリマス。エリクサーのゲンリョウデス。」

アリシアは、ドラゴン退治に行く自分(アリシア)とお友達を想像してみようとしたが無理であった。

と言うか、さすがのアリシアも、炭酸水のために命はかけられない。

『二酸化炭素が溶け込んだ水なら、魔法でどうにかなりますわ』

ここは、おとなしく?魔法が解禁になるまで、炭酸水は我慢することにした。

アリシアが求めるレベルの食生活は、一朝一夕にどうにかならないと思い、残念に思うアリシアであった。

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