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賞品プリンの行方(2)

かくして、アリシアのもくろみ通り、フィルは熱心にプリンのレシピを覚えてきてくれた。

制限時間いっぱいに、しっかり見直し、完璧な状態で提出されたフィルの答案をみたアリシアは、夢でもみているのかと、自分の頬をつねった。

いや、もともと、フィルには伸び代があった。

5歳にしては、賢く、要領もよかった。だから、アリシアも、実際にフィルが見せている能力よりも、実力はあると思い、フィルの能力を、常に上方修正していた。

しかし、これほどまでとは、アリシアも思っておらず、フィルの潜在能力の高さに驚かされるばかりであった。

一方のジョナサンは、織込み済みの実力を遺憾なく発揮してくれた。

レシピの完成度を競うならば、軍配はジョナサンに上がるだろう。

しかし、今回の勝負、レシピは口頭で、グレタとリタが読み上げながら、その指示に従って料理人達がプリンを作る。

『勝負の行方は最後まで分かりませんわね』

ニヤニヤしながら、アリシアは、レシピを控えていたグレタとリタに渡した。

アリシアから、レシピを渡された二人は、見て驚いた。

「ジョナサンは本当に優秀ですね。」

「フィルも凄いです。いつもある誤字が一つもありません。」

「そうでしょ。フフフ、勝敗はあなた達にかかってると言っても過言ではないわ。」

「責任、重大ですね。頑張ります。」

「私も頑張ります。」

グレタと、リタは、やる気満々な様子で厨房に向かった。


グレタとリタを見送ったアリシアは、ジョナサンとフィルが座っているテーブルに戻り、二人に向き直った。

「二人とも、この前の宿題を出して下さいまし。」

ジョナサンは、ワクワクした様子で、プリントを取り出した。

フィルは、アリシアに言われてノロノロとプリントを出した。

「それじゃあ、フィル、最後の大問以外の答えを言ってください。」

「えっ?オレが?」

「そうですわ。全て発表してください。」

フィルは呻きながら、つっかえながら、発表していく。

「えっと、主人公は、森に住む賢者のじいちゃんで、いつかは、分かんねえ。えっと、森で、研究してる。魔法とか、魔物とか、馬道具とか、医術とか。」

アリシアは、再び心の中で小躍りした。

フィルは、不平を口にしながらも、きちんと宿題を取り組んでいる。これは、僥倖だ。

アリシアは、少し心配していたのだ。

ジョナサンは学ぶ事が好きなタイプだ。だから、何でも楽しそうにだし、真面目に取り組んでくれる。

だけど、フィルは、アリシアの目から見て、お茶とお菓子に吊られて、嫌々来ているように見えた。

だから、宿題もちゃんとしてこないと思っていたのだ。それが予想に反して、ちゃんと問題を解いてきてくれた。嬉しすぎる想定外だった。

教育者としてのアリシアは、絶賛、感激中であった。

心の中で、喜びの舞を躍りながらも、アリシアは、落ち着いてジョナサンに声をかけた。

「じゃあ、ジョン、フィルの回答に何か付け足すこととか、訂正すべきことはあるかしら?」

ジョナサンは、少し考え込んでから、口を開いた。

「そうだね・・・、えっと、僕は、いつかは分からないけど、《昔々》だと思う。」

『まぁ、何てこと。ジョンは、本当に素晴らしいわ』

アリシアがそう思っていたら、フィルが声をあげた。

「え~。昔々っていつだよ!?だって、質問は《いつの話か?》だろ?」

『いつの話か?』と問われると、何年何月と事だと答えたいフィルの気持ちは、何となく分かる。

京子さんの姪っ子さんも、同じことを言っていた。

「フフフ、フィルの疑問は正しいですわ。でも、今回の正解は、ジョンですの。」

「え~、インチキじゃん」

アリシアに文句を言うフィルを諭すように、アリシアは言った。

「フィル、物語は、常に、何年何月にあったと明記されませんのよ。物語に書かれていない、《いつ》がどこの事なのかを探すのが、勉学ですわ。」

「は~、オレ、やっぱり、勉強苦手かも」

フィルはテーブルに突っ伏した。

「ええ、確かにあなたは、ジョンほど、勉強が得意でないかもしれませんわ。でも、次も同じ問題を出題されたら、今度は《昔々》と、答えられるのじゃなくて?」

「まぁ、そりゃ、うん。」

アリシアは、フィルに微笑んだ。

「それで、良いですのよ。分からない事が分かるようになる、もしくは、正しい答えを導き出すことができるようになる、それが、学びの本質だと、わたくしは思いますの。」

アリシアは、続けて言った?

「ここまでで、フィルも、ジョンも、ほかに気になることはございませんか?」

アリシアはフィルと、ジョナサンの顔を順番に見ながら確認した。

二人が頷くのを確認して、アリシアは、次に進む事にした。


「最後の問題は、ジョンから発表してくださるかしら?」

「《どうして、主人公がそうしたか?》は、賢者として研究に没頭するためで、《主人公の選択は正しかったか?》は、僕は正しいと思った。賢者と言われる人だから、静かに研究に没頭したかったんだと思うし、そうするために人里離れた森で暮らしていたんだろうからね。」 

優等生らしい答えを、ジョナサンは答えた。

「じゃあ、フィルはどうかしら?」

「オレは、《どうして、主人公がそうしたか?》は、賢者のじいちゃんがそうしたかったからだと思う。《主人公の選択は正しかったか?》じいちゃんが決めたら、それが一番良い事だったんじゃねえの?だって、賢い賢い、賢者様なんだからさ。」

『フィルは、哲学者になれそうですわ。It's my lifeって事ですわね。』

アリシアは、フィルの答えに満足して、自分の意見を話した。

「わたくしも、賢者が一人で、森に住んでいたのは、研究のためだと思いましたわ。でも、賢者の選択は間違えていると思いますわ。」

アリシアの言葉に、ジョナサンもフィルも驚いた。

「アリ、何でそう思うの?」

「わたくしは、誰かのためにこそ研究をするから、研究者は尊敬されるし、賢者と呼ばれるようにらなると、思いますの。誰の役にもたたない、誰からも必要とされない、そんな研究は、ひとりよがりの自己満足で、時間の浪費ですわ。

なのに、《森に住む賢者》は、誰かに役立ててもらいたいからではなく、自分の知識欲を満たしたいがために研究をしているように感じます。その行為は、わたくしには、とても自分勝手な行いに見えましたの。賢者と呼ばれる研究者が行うには、愚かですわ。」

アリシアのバッサリたちきるのを聞き、ジョナサンは、ハッとして小さく言った。

「・・・なるほど・・・」

「じいちゃんが勉強した事を皆に教えるかは、じいちゃんの勝手だろ?何で、それがダメなんだよ?」

「プリンですわ。」

アリシアの答えに、フィルは、ますます分からないと困惑した表情を浮かべた。

「プリンが何だよ?」

「プリンは、わたくしが夢でみた食べ物ですわ。だから、わたくしが試みるまで、誰も口にしたことはありませんでしたでしょ?」

「そりゃ、そうだな。」

それがどうした、と言う表情を浮かべたフィルに、アリシアが続けた。

「わたくしが、プリンを再現しようとしなければ、誰もプリンを食べることはできなかったのです。プリンが食べられなくても、フィルは良いと思いますか?」

「えっ・・・、それは、困る。」

「ええ、困りますわよね。でも、フィルが言う通り、わたくしがどうするか決めて良いならば、わたくしには、誰にもプリンの事を教えない、と言う選択肢もあったと言う事ですの。」

「それが分かってて、アリは、どうして僕らにプリンを教えたの?」

ジョナサンは不思議そうに聞いた。

アリシアは、ニッコリと微笑み答えた。

「わたくしが、この賢者とは違って、得た知識は、自分以外の人と共有するべきだと思っているからですわ。確かに、富を得るために知識を独占することもあるかもしれません。でも、苦労して得た知識で富を得ようとするのは、知識を得た人の苦労が正しく評価されたと言う事ですし、間違えてはいません。でも、賢者は、ただ、」

「じゃあ、アリは、何でプリンを作ったんだ?知識は金になるんだろ?」

今度は、フィルが不思議そうに聞いた。

アリシアは、得意気に答えた。

「わたくし、公爵令嬢ですのよ。お金には困っていませんの。それに、美味しい物は、皆で食べたら、もっと美味しくなるからですわ。後は、わたくし、最近、目標ができましたの。この領に住む人は、各々、好きな時に好きなだけお菓子を食べられる、ギュンター公爵領をそんな土地にしたいのです。」

「オレらが、好きな時にプリンが食べれるように、オレらにプリンを教えたのか?」

「ええ。だって、レシピがあれば、後は各家庭で好きに作れますでしょ?」

ジョナサンが、困ったように言った。

「アリ、せっかくだけど、それは難しいよ。砂糖は高級品だし、レシピがあっても読める人は限られるからね。」

『・・・わたくし、作り方が分からないから、平民が甘いものを食べられないと思い込んでましたわ。』

ジョナサンの話を聞き、アリシアは、ため息をついた。

京子さんの記憶の中に、《パンがなければ、お菓子を食べれば良いじゃない》と言ったとか、言わなかったとか言われる王妃様がいて、彼女のあまりの愚かさに平民に処刑されたと言う歴史があったのを、アリシアは、思い出した。

アリシアは、この王妃様が愚かだったのではなく、王妃様の現実と、平民の現実がかけ離れていただったと、今、思い知らされた。

何なら、自分も間違いなく、平民の現実を知らず、愚か者と言われ、処刑される日が来るのではと、身震いした。

『これは、早急に、平民がどんな生活をしているか、街へ確認に行かなければ。誰でも簡単に、甘いお菓子を食べられる世の中でなければ、健康で文化的な最低限度の生活が平民のマックスになってしまいますわ。』

アリシアは、軟禁中のこの身がうらめしかった。

「現実は、やっぱり厳しいんですのね。でも、わたくし諦めませんわ。ぜったいに、領民の皆様が毎日、甘いものを食べられる生活ができるようにいたしますわ。」

『上等ですわ。日本ほどでなくても、この公爵領の領民が、もっと便利で豊かな生活が送れるように、わたくしが、絶対に変えてやりますわ。』

こうして、アリシアと現実の戦いのゴングは鳴らされたのだった。

フィルは、アリシアの話を聞き、夢心地で言った。

「いつでも旨い物が食えるなんて、まるで、天界じゃん。」

一方のジョナサンは、アリシアを痛い子をみるような暖かい目で言った。

「いつか、そんな日がきたら、良いですね。」

「ジョン、夢は見るだけでは実現しませんのよ。実現のためには努力あるのみですわ。」

アリシアは、力強く、二人に力説した。


アリシア達が、熱く夢を語って入る間、着々と、美味しいプリンの投票がおこなわれた。

グレタとリタは、邸に働く人を相手にプリンを食べてもらい、どちらが美味しいか、投票をしてもらった。

集計後、グレタとリタがお茶の準備をして戻ってきた。

もちろん、お茶菓子はプリンだ。しかも、作ったのは料理長のサム。

アリシアが考案した粗削りなプリンを、サムが料理人の技と知識を詰め込んで作ったプリンの完成度の高さに、アリシアも目を見開いた。

フィルは、あまりの美味しさに1分足らずで完食してしまい、ジョナサンのプリンをピンはねしようとしていた。

「フィルは、自分のプリン、食べたろ?これ

は、僕のだ。」

フィルから、プリンを死守しながら、ジョナサンが文句を言った。

二人のプリンをめぐる攻防戦を見ながら、アリシアは、優雅にお茶を飲んだ。


結局、ジョナサンはプリンを守りきり、フィルはジョナサンのプリンの器が空になったのを見て、ガックリとテーブルに顔をのせた。

「何だよ。一口くらいくれても良いだろ。」

フィルは、ジョナサンに文句を言ったが、ジョナサンは涼しい顔で紅茶をすすった。


皆、お茶を飲み終わったのを見て、アリシアは、グレタに投票の結果を確認した。

「それでグレタ、結果はどうでしたの?」

「はい、お嬢様、僅差でジョナサンが勝ちました。」

「僅差ってどれくらいかしら?」

「5票です。」

フン、アリシアは、鼻を鳴らした。

「グレタとリタも食べましたの?」

「はい。」「はい。」

二人は声を揃えて答えた。

「どちらが美味しかったですの?」

「私は、甲乙つけがたく感じました。」

アリシアは、困った表情をして、リタに向き直った。

「・・・そう。リタはどうですの?」

「私も甲乙つけがたいと思いました。ただ、ジョナサンの方が少し柔らかく、フィルの方が少ししっかりした食感のように感じました。」

理由は簡単だ。ジョナサンは、アリシアのレシピに工夫をこらし、カラメルの作り方、蒸す際の火加減や蒸し方まで指定していたが、フィルはアリシアのレシピの丸写しである。

アリシアが口でしていた注意事項は当然、レシピ上になかった。そのため、若干、カラメルが苦く、若干固いプリンが出来上がった。

アリシアは、納得したように言った。

「要は、好みの問題ですわね。良いですわ。今回は二人ともに、プリンをお土産にしてもらいます。」

その瞬間、ジョナサン、フィル、二人同時に歓声をあげた。

「ヤッターーー」

「リタ、悪いですが、厨房に、お土産は二人分必要だと、伝えてくださるかしら?」

「承知いたしました。」

そう言うと、一礼してリタは部屋を後にした。

料理長サムが作ったお土産(プリン)をゲットした二人は、意気揚々と帰って行った。


ちなみに、その日の夜のデザートは、アリシアの希望通り、冷たいプリンの上に生クリームとフルーツを飾ったプリンアラモードだった。

プリンアラモードのあまりの美味しさに、感激し、興奮する両親を横目に、アリシアは、

『プリンアラモードには、やっぱり、アイスクリームも必要でしたわ』

と、一人心の中でこちていたのは、秘密である。

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