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ここから始まる、アリシアの○○令嬢な、日々

翌日、アリシアは、上機嫌でフィルとジョナサンがやって来るのを待った。

父親の公爵からは、ジョナサンとフィルが一緒に授業を受ける許可を貰えたのだ。

そして、アリシアは、フィルとジョナサンが一緒に授業を受けるにあたり、一番重要なことも、父親にしっかり伝えることができた。

平民の二人にも、分け隔てなく教育を施してくれる公平な先生を探してほしい、と言う事を。


かくして、テンションマックスのアリシアのところに、フィルと、ジョナサンはやって来た。

フィルは、慣れたもので、部屋に入れば、とっとと椅子に座り、運ばれてきたお菓子を食べ始めた。

一方のジョナサンは、緊張し過ぎて、ドアの前から動けないでいた。

『わたくしったら、初めてのお家に来たジョナサンがいるのに、フィルが一緒だからと、出迎えもせず、何て不親切だったのかしら』

アリシアは、慌ててジョナサンに近寄った。

「ごめんなさい。わたくし、お茶会に参加したことなくて。初めて来たのあなたを、ホストのわたくしが案内するべきでしたわ。」

申し訳なさそうに、そう言うアリシアに、ジョナサンは、目をパチクリした。

どんな、ワガママ幼女が出てくるか、戦々恐々としていたのに、出てきたのは、見た目は愛らしく、年相応な親切で普通の女の子だった。

「今日は来てくださって、ありがとうございます。楽しんで帰ってください。」

そう言って、アリシアは、ジョナサンの前に手を出した。

ジョナサンはどうすべきか少し躊躇してから、アリシアの手を握った。そして、照れた様子で言った。

「あの、今日は、お招きいただき、ありがとうございます。」

アリシアは、ジョナサンに向かって微笑んだ。


アリシアの小さな手に引かれて、ジョナサンはあいている席までやって来た。

ジョナサンをエスコート?したついでに、椅子も引こうとしてみたが、アリシアの小さな体にギュンター公爵家の高級な椅子は重すぎた。

「お嬢様、それは、私の仕事です。お嬢様は、先にお席にお座りください。」

アリシアは、椅子を引くことを諦め、グレタにまかせ、自分の席に戻った。

アリシアは、リタに椅子を引いてもらい席についた。

ジョナサンも、グレタに手伝ってもらい席についたところだった。


改めて、アリシアは、ジョナサンを見た。

フィルよりも薄い茶色の髪はさらさらで、目尻の下がったハニーブラウンの瞳から優しさが溢れていた。

『二人とも、髪も、目も茶色いけど、兄弟にはみえませんわ。』

そう思いながら、ジョナサンと、フィルを順番に見・・・

「フィル、あなた一人で、お菓子を食べ過ぎですわ。」

アリシアは、フィルが食べ散らかしたお菓子を眺めて言った。

フィルは、頭をかきながら言った。

「だって、グレタ姉ちゃんが、なくなったら持ってきてくれるっていうんだもん。」

アリシアは、ため息をついた。

「フィル、わたくしは、お茶菓子をケチっているのではありませんのよ。こんなに食べてしまって、お夕食はちゃんと召し上がれますの?」

「食べれなかったら、残すだけだ。それに、腹がふくれたら、何でも良いだろ」

フィルは、悪びれる様子もなく言った。

その瞬間、アリシアがテーブルを叩いた。

とは言え、アリシアのか弱く小さな手で、叩いたところで、ギュンター公爵家の高級なテーブルはびくともしなかったのだが。

それでも、アリシアの剣幕に、二人とも呆気にとられた。

アリシアがテーブルを叩いた瞬間、アリシアの後ろで白い猛獣が吠えたのが見えた気がした。

「よろしいこと。フィルが食事を残すと言うことは、皆様の時間と労力をゴミにするのと、同じことですのよ。まず、食事の用意をしたフィルのお母様の労力ですわ。それから、料理の材料になるお野菜やお肉、卵、お魚、牛乳、全て、色々な人の時間と労力の結晶ですのよ。フィルがゴミにするために、作られたものは、何一つないのです

わ。」

「う、分かったよ。その、晩飯も残さずたべるよ」

有無を言わさないアリシアの雰囲気にのまれたフィルは大人しく従った。

ジョナサンは、先ほどまでの虫も殺せぬ様子からうってかわり、別人(猛獣)のようなアリシアを見て、決して彼女(アリシア)を怒らせてはいけないと、心に誓った。


フィルに、お残しは許さないと圧迫面接し(言い聞かせ)たアリシアは、ニコリと笑い、グレタに声をかくた。

「グレタ、わたくしと、ジョナサンにお菓子を持ってきて。フィルの分はいらないわ。」

アリシアの言葉を聞いたフィルは、机に突っ伏した。

それから、フィルは、顔を上げて、アリシアの剣幕に気圧されたままのジョナサンの方に向けて言った。

「ジョン兄、分かっただろ。アリは、普段は良いヤツなのに、時々、母ちゃんみたいにおっかなくて口うるさくなるんだぜ。」

「まぁ、フィル、何てことを言うの?わたくしも、フィルのお母様も、フィルが道理を理解しないろくでなしにならないよう、心配しているのです。フィルの事を心配しないなら、何も言いませんわ!」

フィルの言葉で、収まりかけていたアリシアの怒りの炎が再燃しようとしていた。

しかし、タイミング良く現れたグレタが、アリシアとジョナサンの前にお菓子の皿を置いため、燃え上がったアリシアの怒りも、そうそうに鎮火した。

ジョナサンは、驚いた。普通の5歳児ならば、八つ当たりの一つもするだろうに、アリシアは、にこやかにグレタに礼を言ったのだ。

「あら、早かったのね。ゆっくりでも良かったのに、急いで準備してくれて、ありがとう。厨房には後でお礼を言いに行くわ。」

「ふふふ、皆、喜びます」

グレタは、アリシアとおしゃべりをしながらも、温くなったお茶をいれなおした。


何事もなかったようなアリシアとグレタのやりとりを、ジョナサンは、ポカンとした表情で見つめた。

そんなジョナサンに構わず、自分のペースでアリシアは、ジョナサンに話しかけた。

「ジョナサンも、お菓子とお茶を召し上がってくださいまし。」

突然、アリシアに話しかけられたジョナサンは、慌てて口に放り込んだクッキーを喉につめ、クッキーを流し込もうとして飲んだ紅茶の熱さに悶えた。

見るにみかねたリタが、氷の入った冷たいレモン水をジョナサンに渡した。

「急に話しかけて、ごめんなさい。驚かせてしまいましたわね。こんな体たらくで、わたくしに、お茶会が主催できる日は来るのかしら。」

しょんぼりした様子でアリシアは、そう言った。

「あの、あの、あ、アリシアお嬢様は、本当に凄いと思います。まだ5歳なのに、色んな事を理解していて。」

「凄くなんてないですわ。わたくしは、貴族の娘としては失格ですもの。せめて、賢くあろうと努力しているのです。」

アリシアに、リタが強く反論した。

「お嬢様が失格だなんて、そんなこと、あり得ません。」

「良いのよリタ。皆がどんなに庇ってくれても、今のわたくしが、他所のお茶会に参加したら、格下の貴族に恥をかかされて、お父様とお母様の顔に泥を塗るだけだもの。貴族はね、なめられたら、終わりなの。やられっぱなしでは、生きていけないのよ。」

アリシアは、自嘲するように言った。

「そんなことはありません。アリシアお嬢様は、将来、立派な貴族になりますよ。」

アリシアの様子に、ジョナサンが、驚いて言った。

『ジョナサンは、私の発作を知らないから、そんなこと言えるのよ』

アリシアは、そう思いながら、小さくためいきをついた。

「わたくし、発作を起こしますの」

アリシアは、小さくポツリと呟いた。

「発作ですか?」

「ええ。わたくし、不馴れな場所へ出向くと、それだけで、心臓がドキドキして苦しくなりますの。そんな状態で、知らない方にそばによられると、息もできなくって、そのうち、倒れてしまうのです。」

邸中の使用人が隠そうとしている、秘密を知ってしまったことに気付いたジョナサンの顔色が悪くなったことは言うまでもない。


ジョナサンが青い顔をしている横で、フィルはジョナサンのお皿に手をのばしながら言った。

「でもさ、オレと初めて会った時は、発作を起こさなかったぞ。あと、じいちゃんや父ちゃんに会った時も大丈夫だったんだろ?」

「あの時は、うちのお庭でしたし、何よりも、髪の毛やドレスが焦げたことにも驚いておりましたし、トムおじいさんも来てくれましたし・・・。アレックさんと会った時は、トムおじいさんと一緒にでしたし、わたくし、トムおじいさんのことは知ってましたの。」

フィルと会った時、本当は、お葬式をやりきった達成感で、高揚しすぎただけだが、それは、誰にも言うつもりはなかった。

そして、アリシアは、二人に絵本を見せた。アリシアが字を読めない時は、グレタが読んでくれて、字が読めるようになってからは、アリシアが繰り返し読んできた本だ。

人嫌いな賢者と呼ばれる老人が森で人知れず生活し、魔物や魔法の研究に明け暮れると言う不思議な物語だった。

賢者の挿し絵を見たフィルは、目を丸くした。

「・・・何か、じいちゃんと似てる」

「そうですの。それで、わたくし、トムおじいさんと会ったことあると勘違いして、発作を起こさなかったようですの。」

京子さんの旦那さんとどことなく似ている賢者の挿し絵は、もちろん、トムおじいさんにも似ているのだ。

でも、ソレも、誰にも言うまでもつもりのない秘密なのだ。

本を見ながら笑いあうフィルとアリシアを横目に、ジョナサンが一人、冷静に突っ込んだ。

「えっ!?えっ!?それより、アリシアお嬢様、ドレスと髪の毛がこげたんですか!?」

ジョナサンは、口をあんぐりと開けて、今日一番驚いた顔をした。

アリシアは恥ずかしそうに、言った。

「そうなんですの。魔法を使ってみたら、失敗してしまったのですわ。わたくしの焦げたドレスと、焦げた髪の毛を見て、お母様が数日寝込んでしまわれたので、わたくしは、ナンじゃなくて、謹慎中ですの。」

軟禁中と言いそうになったアリシアは、慌てて、謹慎中と言い換えた。

ジョナサンは、アリシアの言い違いに気付かないふりをした。

「奥さまは、その、大丈夫なんですか?それに、謹慎中なのに、お邪魔してよかったんでしょうか?」

そうして、アリシアに聞いた。

「お母様は、お元気になられて、今は、大丈夫ですわ。あの後しばらくは、わたくしが焼け焦げになる悪夢にうなされて、毎日眠れなかったそうです。」

と、申し訳なさそうにアリシアは言った。

そう、エリザベートは、アリシアの前髪やドレスが焼けたショックで、娘が火事に巻き込まれて死ぬ夢を毎晩みた。

深夜に、自分(アリシア)が死ぬ夢を見て、母親が悲鳴をあげながら飛び起きてしまうと言う話をリタがこっそり教えてくれたため、

毎日、アリシアは、青白い顔をして憔悴した様子の母親を見舞った。

その甲斐あってか、エリザベートの顔色は少しずつ良くなっていっている。

最近は、母娘二人で刺繍したり、お茶したりもする機会も増え、ようやくアリシアは今世の母親にも少しずつ愛着と絆をかんじるようになってきた。

一方のジョナサンは、アリシアの話を聞きながら、自分ですら、小さく愛らしいアリシアの髪やドレスが焦げたときき、肝を冷やしたのだ。公爵夫人の心労がどれほどか、計り知れないと思った。

ジョナサンがそんなことを思っていると、アリシアが続けた。

「わたくしは、発作のことがありますから、元々、毎日、出かけることもありませんでしたの。だから、今の生活に不満はないのです。でも、フィルが毎日、お花を持ってきてくれるので、皆が気を利かせてお茶を用意してくれるようになったのですわ。だから、今日のことも、皆、納得しておりましてよ。」

アリシアが、グレタとリタを見るのにつられて、ジョナサンも、二人に視線を向けた。

二人は、アリシアの言葉に頷いた。

アリシアは、小さくためいきをつき、言った。

「両親も働いてる人達も、皆、わたくしに甘いですわよね。ふふふ、お父様は、わたくし一人で家庭教師の授業を受けたくないと言ったら、二人が一緒に授業を受けることも許可してくれて、そして、平民にも教えてくれる先生を探してくださると約束してくださいましたもの。」

娘のアリシアから、フィルとジョナサンが一緒なら、

家庭教師の授業を受けたいと言われ、カールは、一瞬考え込んだが、普段、あまりワガママも言ない娘が、初めて言ったワガママだと、大目にみることにした。

「それで、お父様、フィルとジョナサンが嫌な気持ちにならないよう、平民に対しても公平な態度をとれる先生をさがしてくださいまし。」

娘は、意外としっかり者だと言うことと、平民にも公平に教育してくれる教師探しと言う宿題を出されたことは、想定外であったのだが。


ジョナサンは、アリシアの話にハッとした。

「あの、アリシアお嬢様」

「ねぇ、ジョナサン、フィルは、あなたをジョン兄と呼んでいるのでしたわね?」

「あのっ、はい。」

アリシアの質問の意図が分からず、ジョナサンは口ごもった。

「わたくしも、あなたをジョンと呼びますわ。だから、あなたも、フィルと同じように、わたくしをアリとお呼びください。」

「え、でも、あの・・・」

「でも、も、あの、もありません。ほら、『アリ』です。」

アリシアはジョナサンの目を見て、ジョナサンの言葉を遮って言った。

フィルに向けた怒り狂ったキツい物言いとは違ったが、アリシアの言葉には、有無を言わさない強さがあった。

「う、あの、アリ」

アリシアは、満足げに返事をした。

「はい、何でしょう。」

「あの、僕、読み書き、計算ができないです。」

ジョナサンがすまなさそうな顔をした。

アリシアは、すっとんきょうな声をあげた。

「えっ~~~!?」

「えっ、オレもできないぜ。」

アリシアは、眉間にシワをよせ、指で顎をさすりながら、しばらく、無言で考え込んだ。

「ねえ、グレタ。家庭教師の先生は、読み書き、計算から、教えてくれるかしら?」

グレタは、首をかしげた。

「どうでしょうか。お嬢様は、読み書きも、計算もできますから、教えてくれないかもしれませんね。」

ふん、と、アリシアは鼻を鳴らした。

「先生がこられるまで、わたくしが二人に読み書きと、計算を教えますわ。」

アリシアは、声高々に、宣言した。

思いの歩か、長くなってしまいました。

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