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自己との邂逅 1

公爵令嬢の人格が出来上がるまでの話です。

本編には、あまり、関係ない話です。


初めて投稿します。

いつまで続くか分かりませんが、最後まで書き終えることが目標です。



『ここはドコ?私は誰?』

毎日、目が覚めると言いようもない違和感が、全身を襲う。


鏡に映る姿をみて「ああ、わたくしは、ギュンター公爵家の娘、アリシア=フォン=ギュンターだ」一旦は納得するも、すぐに鏡に映るアリシアの向こうに、本当は誰かいるかもしれない、そう思い、姿を現さない誰かをいつも探していた。


理屈ではなく、理性でもねじ伏せることができない心は、今日も「ココじゃない」とアリシアを急き立てる。

叫び続ける心を納得させるため、アリシアは、居場所を求めてフラフラ彷徨い続けた。

とは言え、5歳のアリシアの行動範囲は、ギュンター公爵邸に限られていたが・・・。

それでも、自宅にいるはずなのに、どこにいても心が休まらず、知らない場所に迷いこんだような気がして、幼いアリシアは、毎日、不安と心細さで脅えて暮らしている。

ずっと付きまとい続ける違和感と、不安と心細さは、幼いアリシアの心を、少しずつ蝕んでいき、とうとう自分と関わりのない使用人から声をかけられると、引き付けと、呼吸困難を起こす、ノミの心臓の残念令嬢になってしまった。


そして、今日も今日とて、ひきつった青白い顔で邸内を徘徊するアリシアを、使用人達は、そっと見守っていた。

『今日は、庭に出てみようかしら』アリシアがそう思い、外に出ようとすると、そっとドアを開けてくれたり、「お嬢様、お帽子をどうぞ」とそっと帽子を被らせてくれたり、「お嬢様、お茶とお菓子をお持ちください」とオヤツが入った小さなバスケットを持たせてくれたり、「お嬢様、今は薔薇が綺麗に咲いていますよ」とオススメのお花を教えてくれたり、アリシアが引き付けをや呼吸困難を起こさない距離を保ちつつ、使用人達は、付かず離れずな絶妙な位置から小さな主につき従い、見守っていた。


帽子を被り、オヤツを持ったアリシアは、開けてもらったドアから、薔薇を探して庭を徘徊した。

ギュンター公爵邸の庭は、アリシアが思っていたよりも広く、薔薇のエリアには、なかなかたどりつかなかったが、咲き誇る花々をみて、アリシアは、生まれて初めて心の安らぎと、解放感を感じていた。

『今までだって、庭を歩いたことがあったのに、何だか不思議だわ』

まるで美しい花達が、「ここにいて良いんだよ」と、アリシアにはなしかけている気さえした。


ようやく、薔薇のエリアにたどり着いたアリシアは、ドレスが汚れることも忘れて、地面に座り込んだ。

可愛いピンクの薔薇の前に陣取り、アリシアは、バスケットの中のお菓子と飲み物を物色しはじめた。

「あんまり可愛らしいので、妖精かと思いましたよ」

突然、声をかけられたアリシアは、一瞬ビクッとし、声の主を探した。

振り向いて、声の主を見つけたアリシアの全身を、何とも言えない懐かしさが、優しく包んでいく。

初めて会ったはずの、大柄でいかつ老人を前に、アリシアは、恐怖や不安ではなく、ただ、ただ、安心を覚えていた。

「こりゃ、驚いた。このジイが、老婆心から申し上げますが、お嬢様、どこででも、お笑いになっては、ダメだ。旦那様にも報告せねば。こんな別嬪さんがニコニコ微笑んだ日には、国も倒れかねん」

一人でブツブツと呟く老人の言葉で、アリシアは初めて自分が笑っていることに気づいた。

初めて尽くしなら、もう一つくらい良いのでは?いつもなら、決してそんな気になるはずもないのに、アリシアは、初めて両親と長年の使用人以外の人間に話しかけた。

「おじいさんは、だあれ?」

「ワシは、この公爵邸の庭師でございます、お嬢様。」

庭師のおじいさんが、優しく話をしてくれるのが嬉しくて、アリシアは、さらに話かけた。

「そう。いつも、綺麗なお花をありがとう。わたくしはアリシアって言うのよ。おじいさんのお名前は?」

「ワシは、トム=フィンと言います、お嬢様。」

「トムおじいさんね。おじいさんは、一人で庭師をしているの?」

「倅も一緒に働いています。おっと、ワシとしたことが、長話しをしすぎたようじゃ。お嬢様、そろそろ戻らないと、邸の皆が心配します。バスケットの中身を食べたら、送っていきますから、薔薇を見ながらゆっくりたべてください。」

そう言うと、トムおじいさんは、ピンク薔薇をつみはじめた。

アリシアは、トムおじいさんがピンクの薔薇をつむ姿を見ながら、ビスケットとオレンジの果実水でお腹を満たした。


アリシアがバスケットを空にする頃、ピンクの薔薇を花束にして、庭師の老人が戻ってきた。

一方の手に花束とバスケットを持ち、もう一方の手でアリシアの手をひいて、老人はゆっくり歩きだした。

もう帰らなければならないことが、アリシアを、残念な気持ちにさせたが、それでも、いつも目覚めている間感じ続ける違和感や、恐怖心から解放されたアリシアの心は晴れ晴れとしていた。

「おやじ、向こうの雑草引き終わったぞ」

そう言いながら、老人に声をかけた男に、アリシアの体が強ばった。

老人は、落ち着かせるように、ゆっくりアリシアの頭をなでながら応えた。

「温室の植物に水をやって、花の様子を見てきてくれ。」

「おやじ、俺はどうやら疲れがたまてるようだから、無理だ。おやじが妖精連れてるのが見える」

老人は、ため息をつき

「お嬢様、これが愚息のレックスです。バカなヤツなんですが、悪気はないんで、どうか、お許しください。お前もバカばっかり言ってないで、とっとと温室へ行け」とレックスと呼ばれた男を怒鳴り付けた。

「フフ、フフフ」

二人の様子を目を白黒させながら見ていたアリシアは、これまた、生まれて初めて、声をあげて笑った。

「笑わぬ、話さぬ、人形みたいなお姫様だと聞いてたのに、驚いたな」

突然、笑い始めたアリシアを見て、忌憚のない感想をのべたレックスに、父親の雷が落ちた。

「いい加減にせい、バカモンが。殴られなければ、仕事もできんのか。」

レックスは、雷が落ちた頭をさすりながら、

「分かったよ。お嬢様、俺はレックス=フィンって言います。どうぞ、お見知りおきを」

そうアリシアに挨拶した。

「初めまして、わたくしはアリシアと言います。」

「お嬢様、俺にも息子がいるんだ。そのうち連れてくるから、会ったら仲良くしてやってくれ」

アリシアは、嬉しそうに頷き、

「わたくし、同じくらいの年のお友達がいないの。うれしいわ。」と言った。

老人がもう一度、ため息をついたのを見て、レックスは、あわてた様子で

「それじゃあ、お嬢様、失礼します」と言いのこし、温室へ向かった。

「お嬢様、重ね重ね、倅がご無礼を働き、申し訳ございませんでした。」

申し訳なさそうに、息子の無礼を詫びる老人に、アリシアはニッコリと笑い、

「いいえ、トムおじいさんの息子さんとお話できてよかったわ。お孫さんに会えるのも楽しみよ。」と言った。

夕焼け色に染まるアリシアは、どこまでも嬉しそうだった。


その夜、バスケットと花束を抱えた庭師の老人と、にこやかに話ながら戻ってきたアリシアの姿に、邸中が大騒ぎになったことは、言うまでもない。

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