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ぺんぺん草

 私の後ろにいるのはアンヌとメイド長のキャロルだ。

 キャロルは私のために尽くしてくれる人だからアンヌのことだろうことはすぐに予想できる。


「姉さん。味噌と醤油のことを誰に話した?」

 アンヌは下を向いてモジモジしている。


「姉さん!!!」

「……」


 アンヌは口笛を吹きながら窓の外を見ている。


 何のことか分からないからダンに聞いた。


「ねえ私何のことか理解できないから最初から話してくれる」

「そうだね」


 ダンは事の顛末を話してくれた。


「昨日ローズマリアのことが心配でカンザス伯爵邸に来たらメイド達が大騒ぎをしていたんだ」



 味噌樽と醤油樽が夜中に盗まれていたということだった。他に盗まれたものはなかった。

 明らかに味噌と醤油を狙ったものだ。メイドはそれが味噌と醤油であることを知らない。どちらかというと臭いので近寄らない。知っているのは私とアンヌ、そして相談していたダンのみだ。


「姉さん、あれがうなぎ屋の命だと知っているよね!」


「まさか盗むとは思わなかったニャ」


 半分泣きべそをかいている。アンヌは反省はするけど懲りない。


「味噌と醤油の作り方を教えるように言われたけど知らないから『知らない』と答えたら、どこにあるか教えてくれといわれたから伯爵邸に隠していることを自慢したんニャ」


「やっぱり姉さんだね」

「ふにゅ-」


「ところでどんな賭けをしたんだよ?」


「ポーカーにゃ。ずっと勝ってたんニャ。最後の最後に大勝負に味噌と醤油の話が出たからどうせ勝つんだからいいよ~なんと言っちゃった。エヘ」


「その相手は誰?」

「……」


「聞こえないよ!」


「ミロビッチ・ダバダ」

「クロハラ叔父さんの奥さんの弟かあ。きっと叔父さんの指示なんだろうなあ」


「それでローズマリアに言うべきことがあるよね」

「別に……」


「こら!!!」


 ダンがゲンコツを食らわせた。


「ごめんニャ」

「もっと丁寧に!」


「この度は私の不始末でローズマリアに迷惑をかけて申し訳ありません」

「やればできるじゃないか」


「ねえ、アンヌ。賭け事を止める気はないの?」

「止めたいけど、誘いが多いニャ」

「誘われても断ったらいいじゃないの」

「……」


「じゃあ今度賭け事をしたらキンバリ様に預けることにしましょう」

「ダーン。お姉ちゃんを助けて」

「まだましだよ。僕だったら牢屋に入れるよ」

「ふぇ~ん。もうしませんニャ~」



 その頃ミロビッチ侯爵邸では


「よくやった。これで儂らもうなぎ屋で大儲けだ」

「父上!うなぎがどの魚なのか秘密にされていて分かっておりません」

「適当な魚をタレでごまかせば大丈夫だ」

「全部で大樽10本か。沢山あるな。よしよし。厳重に梱包されているから何も匂わないぞ。おい蓋を開けろ」


 蓋を開けた途端周囲にはとてつもない異臭が蔓延した。


「この臭いはなんだ」


 樽の中には生ゴミが突っ込んであった。


「カンザス伯爵邸に返してこい」


「父上それでは我らが盗んだことかバレます」

「くそ~。クロハラ様に何と言い訳すればいいんだ」



「ダンのおかげよ。助かったわ。長年の生ゴミも処理できたもの」

「そんなことないよ。ローズマリアが姉さんをあまりにも信用しているから気になっていたんだ」


「ソルタナ王国に来るときに味噌と醤油の樽は王城内にあるダンの離れの屋敷に移動していたからこれからもタレを作れるわ」


「姉さんは賭けに弱いくせに頭に血が昇ると我を忘れるから注意しないとね」


 ダンの離れの屋敷のそばには大きな建物が建築されていた。


「味噌と醤油の蔵元を造ったからカンザス伯爵邸の味噌醤油が盗まれても大丈夫なんだけどまだ熟成度が足らないのよ。美味しいタレを造るにはもう少し熟成したいのよね」


 私の最終目的は味噌と醤油を一般の人が家庭で食べられるようにしたいのよね。でもまだ今は技術を秘匿にしないといけない。

 秘伝タレは完全極秘だけどね。


 明日からまた新店舗の構想をしないといけないわ。

 もう疲れたから早く寝よう。


 久しぶりの我家は心地よく寝ることができた。


「ジャ ジャ ジャーーーーーーーーーーン、ジャ……」

「あ、ゴメン。もういいから」

「え~!2小節いいと言わなかったですか」

「ほんとうにごめん。今疲れる音楽は聴きたくないの」

「ひど~い。次回は2回しますよ!」

「いいわ。あなたのおかげで全て片付いたわ。今日はもうぐっすり寝たいのよ」

「でも、出てきたのだからせめて『先っぽ』だけでも」

「男はそう言って最後まですることぐらいキャロルから聞いているから知っているわよ」


「そうですか。油の作り方を教えてあげようと思ったんですけどね。いいんですね。次も私が出てくれるか保証はありませんよ」

「油はオリーブの木からしかできないことぐらい知ってますよ」


「どのように造っているのですか」

「オリーブの実を手で潰して漉して上積みを取るのよ。だから高くて庶民には手が出せないのよ」


「庶民はどうしているのですか」

「貴族の捨てた油を回収して漉したものを食べているわ」

「この世界には菜種はないのですか」


「なたね?知らないわ」


 絶壁さんは夢の中で実物を見せてくれた。


「あーあれね。ペンペン草ね。あれはどこにでも生えている雑草よ。誰も見向きもしないわ」

「それですよ。私の世界でも元は雑草でした。それに油を絞ったあとは肥料にもなるんですよ。あ!すみません。熟睡したいのでしたね。ではまた……」


「待って!!私が悪かったわ。ごめんなさい。もう二度と無()にはしませんから機嫌を直してください。」


「わかればいいのですよ。むふふ」

「あなた何でも知っているのですね」

「違いますよ。食に関することは何でも調べていただけですよ。興味のないことは全く知りません」


 彼が教えてくれたのは菜種を圧搾する方法とすり潰して回転させて油を分離する方式だった。回転させる方法のほうが多く抽出できるようだけど道具をそろえることができない。圧搾法でも今の方法に比べたら10倍効率がいい。それに材料は雑草だ。オリーブ油1リットルが金貨3枚するから価格を10分の1以下にしても採算がとれる。


「絶壁さんはすごいですね。機械の形とかよく憶えてましたね」

「いえ、食を追い詰めていたら私のいた世界の油が化学薬品を使っていたので身体に良くないことを知ってから自分で手動ですが機械を造って油を製造していたんですよ」


 私は彼の造った機械を材料から教えて貰らって造る実践をした。


「私より上手ですよ。あとは実際に造るだけです」

「ありがとうございました。がんばります」



「チュンチュン、チュンチュン」

「朝なの?」

「もう昼だよ。よく寝ていたね。少しは疲れが取れたかい」

「今日は気分がいいわ。アンヌは?」

「姉さんは昨日の反省が嘘のように朝からうな重を食べてたよ。今も昼食に『ひつまぶし』を食べてるよ」


「めげない娘ね」


「ダンにお願いがあるんだけど」

「いいよ。ローズマリアの言うことだったら何でも聞くよ」

「ダメよ。いろんな人の意見に耳を傾けないと」

「言葉の綾だよ」

「知ってるわよ。ちょっと意地悪してみただけよ」

「な~んだ。もう~」

「とりあえず昼食にしようよ」

「今日は僕が作ったんだ。第二弾に載っていた“玉子どんぶり”だよ」

「すぐに食べるわ」



 アンヌはまだ食べていた。私たちは昼食をとりながらイチャイチャの続きをした。

 昼食後キャロルにあとのことを任せて王都に戻りその足でキンバリ様を訪ねた。


「この度の件はみな驚いていますよ。3日で流行病を鎮めたのですから」

「あれは違うのですよ」


 私は流行病ではなくじゃがいもの芽が原因だったことを説明した。


「そうだったのですか。でもそれに気づいたあなたはやはり素晴らしいですよ」

「いえ、それも……」

「今回のことは誇っていいのですよ」

「いえ、私も勉強になりました」


「それで、ダンから本日は何か特別にお話があると聞きましたが?」


「はい、この話は貴族の権益を奪うことにもなるのでキャロル様とダンにしか話せないのです」


「それは大変なことですね。それではアンヌには言えませんね」


「味噌と醤油の件ではお力を頂いたみたいで。帰り道でダンから聞きました」


「いえいえ、製造方法を見ましたが素晴らしいですね。それにいいご報告がありますよ。前からダンに相談を受けていた“お米と大豆”ですが、隣の大陸で500年前に異世界から米と大豆の種をもって来た男が興した『エード王国』には沢山あるらしいのです」


「ではその種を輸入していただけますか」

「いま頼んでいますが隣の大陸まで船で片道半年かかりますからそうやすやすと手に入らないのです」

「そうですかー。残念ですが、そのうち手に入るでしょうから気を長くして待ちます」

「そうですね。また情報が入りましたらお伝えします」


「それで本題なのですが、人払いをしていただけますか」

「わかりました。皆の者下がってください」


 宰相室は三人だけとなった。


「あの~オリーブオイルは貴族だけが植えていますよね。そして販売も貴族だけが許されていますよね。そして貴族の使ったお古を大衆が食べていますよね」


「ローズマリア何が言いたいんだ。わからないよ」


「実は食用油の材料と機械の作り方を知ってしまったのです」


「どういうことですか」

「手動機械を使うと今のオリーブオイルの抽出もたぶん3倍には増えると思います。それに加えて新しい材料はタダですから材料費がかかりません」

「えーーー!ローズマリアそれはすごいじゃないか」


「いえ、それが貴族の販売権益を侵してしまうのでためらっているのです」

「そうですか。それはローズマリア様が行うには荷が重すぎますね」


「そうなんですよ。アンヌでしたら独占して金儲けに走るでしょうが、私はお金が身を滅ぼすことを知りましたから。それに庶民の食を豊にしたいのです」


「それは素晴らしいことですよ」

「そうですの?」

「はい、貴族は庶民のことを考えませんから」


「それで油事業を国営にしていただきたいのです。そうすれば既得権益を主張する貴族も黙ると思うのですよ。貴族が心配なのは価格の下落です。でも抽出量が増えて肥料もできればいい結果が出ると思います」


「その方法はなかなかハードルが高いですが面白いですわ。やってみましょう」


「では、材料と製造方法を言いますよ」


 ローズマリアは材料から製造方法までを二人に夢で見たそのままを表現して話した。


「ローズマリア様これは革命ですよ」

「最初は新しい店舗で安く揚げ物にして出していき国民に認知されたら発表しましょう」

「そうですね。貴族にはオリーブオイルの抽出用の手動機械を貸し与えましょう。これで抽出量が増えればそれはそれで儲かりますからね」

「そうなんです。オリーブオイルに合う食材もありますから油の種類は多い方がいいのです」


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