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流行病

 毎朝裏門から人がいないことを確かめて門を出る。


 スメラ貴族学院では早くも第2弾の料理本のことで賑わっていた。


 急いで第2弾を出したのだ。“牛丼”と“とんかつ”も入っている。油が高いのでとんかつは庶民には難しいかもしれない。


 またカーチャが来ている。自慢にくるんだろうなあ。


 ほら来た。


「まあ貧民さんは重役出勤ね」


 みんながいなくなってから出るから遅くなることは言えない。


「あなたこれ持ってる?持ってないわよね~」

「はいはい、持っていないです」


 倉庫にたくさんありますけどね。


「これ見てサイン入りよ。特別に私のためにサインしてもらったのよ」


 そういえば昨日夜中に起こされてサインを書かされたわ。アンヌまた賭に負けたわね。

 アンヌは口笛を吹いて窓の外を見ている。もう賭け事は止めさせよう。


 まだ授業は始まらないのだけどクラス担任が私のところにきて

「宰相様がお呼びです。王城まで行きなさい。アンヌ様も呼ばれていますのでご一緒ください」


 なんの用だろう。私何か問題起こしたのかしら。不安を抱えたまま王城に行く。


 王城ではキンバリ宰相が直々出迎えてくれた。


「アンヌ様お久しぶりです。去年の宮廷お見合いダンスからの脱走以来ですね」


「あれは私の見合いだったと知らなかったから、まだ男はいらないのニャ。もう少し遊びたいニャ」

「はいはい、今年は脱走しないでくださいね。後始末が大変なのですから」

「お前がすればいいニャ」

「私は国と結婚しましたからいいのですよ」


 そうです。この国の宰相は女性だったのです。キンバリ・ソルタナ公爵は不世出の天才といわれている。30年前までソルタナ王国はチイサナ王国と変わらない大きさの国だった。キンバリ公爵は国王の姉だ。凡庸な国王が国王でいられるのは彼女の功績によるものだ。

 といっても他の国を征服したわけではない。他の小さな国からソルタナ王国に入れてくれと頼まれ嫌々併合したのだ。それもすべてキンバリ宰相の働きだ。


 この国では代々男子が王位を継ぐことになっている。もし女子も継げたならこの人が国王となっていたいわれている。


「じゃあ私も国と結婚するニャ」

「では、明日から私の元でお勉強の日々をしましょう」

「嫌ニャ」

「それは無理です。国を治めるには慈愛の心も必要ですが何よりも知識を身につけなくてはなりません」

「困ったニャ」


「今日はそちらのローズマリア様に用がありますからその話は次の機会にしましょう」


「初めまして。ローズマリア様」

「こちらこそ初めましてローズマリア・カンザスと申します。うなぎ屋アリマズーロでお目かけしたのですが護衛の方がいらっしゃったのでお声をかけることができませんでした」

「いいですよ。貴方のことはよく知ってますよ。毎日のようにダン君が話すので」

「えー。毎日会ってらっしゃるのですか?」

「彼は次期国王ですから私の元で国のことについて学んでいます」

「ダン君すごい」

「あなたの知識もたいしたものですよ」

「いえ、あれは私のでは……」

「まあ、ご謙遜なさらなくていいですよ」


「ところで私に何の用ですか」

「そうそう、チイサナ州で謎の疫病が流行っています。それも平民だけなのです」

「副知事3人に任せていますけど対処できていないのですか?」

「2人は貴族出身ですからぬるいのです。あなたの指名された平民出身の副知事が東奔西走していますが流行が止んでいません」


「わかりました。私も至急調査に向かいます」

「そうですか。助かります」

「アンヌも来てくれるよね」

「おもしろそうだニャ。もちろん行くニャ」



 チイサナ州知事公舎で平民出身のラッセル・マイナン男爵が応対してくれた。

 ラッセル男爵は元々私の領地の管理を任せていた村長だったけど優秀なうえに潔白な人物だったので私がソルタナ王国に行く条件として彼を男爵位にしてチイサナ州の副知事を任せたのだ。


 彼の話によればこれまでも平民の間では毎年流行していたようだ。今回は特別多くの人が罹患している。

 よく聞くと貴族と商家の富豪は罹患しない。毎年罹患するのは貧しい人だ。特に子供の罹患率が高い。


 症状は腹痛、下痢、吐き気、おう吐、めまい、神経症状や視覚障害だった。今のところ死者は出ていないが死に至る場合もある。


 その日は患者の様子を見回った。小さな子供が苦しんでいるのが痛々しい。だけど私には知識がなかった。


 その日の夜

「ジャ ジャ ジャーーーーーーーーーン」

「絶壁さんはいつも元気だわね」

「あのー。どうしたんですか。元気がないですね」

「そうなの。流行病が出てしまったの」

「どんな病気ですか?」

「それが私には知識がないから分からないの」

「私は医者ではないので治療はできませんが、調理師だったので病気のことや菌についてはネットでよく調べてました。特にノロウイルスと大腸菌については完璧なくらいに知っていますよ」

「言ってる意味がよく理解できないけど、まあ一応相談するね」

「原因がわかればいいですね」


 私は、今回の流行病の概要と貴族と富豪はかかっていないことを話した。


「貴族と富豪が罹患しないことがネックですね。栄養状態はどうでしたか?」

「よくはないのよ。でも悪いとも言えないの。主食は麦なんだけど今年の春は麦が凶作だったから高騰したのでじゃがいもの作付けを増やしたのよ。だから原因は日頃食べていなかったじゃがいもを毎日食べたからと考えたのよ。だけど私も毎日食べていた時期があったのだけど、どうもなかったわ」


「なんとなくわかったような気がします。ローズマリアさんはジャガイモを処理するときはどのようにしますか」

「私は日頃作らないからメイドが調理するけど私が料理していたときは倉庫のじゃがいもが芽を出していたから芽の部分を深く削いでから煮たわ」

「どうしてそうしたのですか」

「メイドがそうしていたからよ」


「やっぱりそうですか。原因がわかりましたよ。じゃがいもです。もっといえばじゃがいもの芽もしくは青い部分ですね。あそこにはソラニンとチャコニンという毒があります。特に保存状態の悪いものほど多く含まれます。食べ方の指導と保存状態の悪いじゃがいもの撤去をしたらよいのではないですか」


「ありがとう。そうなのね。明日さっそくやってみるわ」

「明日の晩は2フレーズやっていいわよ。じゃあまたね。今日は本当にありがとう」

「あ、待ってください。芽に毒があるのはじゃがいもだけですから、サツマイモを代替食糧にしてもいいですよ」

「益々ありがとう。今日はとても助かったわ」


 翌日ラッセル・マイナン男爵にじゃがいもが原因だから流行病ではないと話し、対策についても役人を各家庭に派遣して粗悪なじゃがいもは撤去し、代わりにサツマイモを配布するように指示を出した。


 3日程すると患者はみな全快し続く者はいなかった。

 ラッセル・マイナン男爵は貴方の部下でよかった。これからもよろしくお願いしますと頭を下げた。


 もう二人の副知事は私に会いに来なかった。50歳も年下の成り上がり州知事の私には挨拶もしたくないそうだ。


 この副知事二人は結託して麦を買い占め値段をつり上げていた。この疾病の原因をつくった張本人のようなものだ。

 私も会いたくないわー。もう金輪際会わないわよ。


 元副知事には国王と私の連名で次の書簡を届けた。


 “イバリ伯爵殿 貴殿のこれまでの行いがとても酷いので伯爵位から準男爵位に降格よ。副知事の職も解くね。お家で反省して国に尽くしなさい。領地も当然いらないでしょうから召し上げよ。新しい領地は無人島だから開発のしがいがあるよ。がんばってね。”


 もう一人の副知事のハラグロ伯爵にも同文の書簡を届けたが「生意気なやつめ成敗してやる」といって私の屋敷まで剣を携え使用人を連れてカチコミに来た。

 ちょうどダンとミロン将軍がカンザス伯爵邸でお茶をしていた。

 ミロン将軍にボコボコにされダンの証言もあり国王から平民に格下げのうえ1年間ザド金山に島流しになった。


 ラッセル・マイナン男爵にも国王と私の連名で『貴殿を子爵位に任ずる。これに伴いチイサナ州知事代理とする』と書簡を渡した。


「私はあまり帰って来れませんからこれからもチイサナ州をよろしくお願いしますね」

「もったいないお言葉です。将来王妃になられてもこの州のことは忘れないでください」

「あら、知っていらっしゃったのですか?」

「ははは、アンヌ様は私の賭けのカモですからな。いろいろな情報が入ります」


 あらら、アンヌは下を向いてモジモジしている。

 やっぱりアンヌの賭けごとは止めさせなければならない。


 その日は王都に帰らずカンザス伯爵邸に泊ることにした。

「ただいま」

「お帰りなさいませ」

「ねえキャロル変わったことはなかった?」

「はい、ダン様が来ていらっしゃいますよ」

「早く言ってよ~」

「それと……あらら、まあいいわ。ダン様が話されるでしょうから」


「やあ、お疲れ様。王城はローズマリアの話でもちきりだよ。流行病を3日で治めたんだって!これまで誰も成し遂げなかったことだよ」

「あれは流行病でもなんでもないのよ」

「それでも解決したんだからすごいよ。誇っていいよ」

「それ、私の知識ではないので……」


「それより、後ろに隠れている人のことでちょっと問題があったんだ」


「え!誰のこと?」


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