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ローズちゃん

「ローズマリア……起きてよ。お客さんがいっぱいニャ」

「あ、ごめん。寝てた」

「朝からいろいろあったからニャー」


 五号店の店長は当面私がすることにした。ふふ、だってダンが手伝ってくれると言ってくれたから。アンヌは当然副店長ね。


 次の日から『ひつまぶし』を五号店の新規メニューにした。うな重よりうなぎの量を少なくして値段を銀貨1枚にしたことで一般市民も入店するようになりいよいよ忙しくなった。


 ちなみに銀貨10枚で金貨1枚と同額となる。一般的には金貨10枚で1月生活できる。

 貴族は『ひつまぶし』を食べない。見栄が許さない。


 米と海苔があると料理の幅が広がると絶壁さんは話していたがこの国にはないからいずれ探そうと思う。


「ジャ ジャ ジャーーーーーーーーーン」

「絶壁さん約束通り1回で終わったわね」

「もう少しやりましょうか」

「いい。いらない」

「やっぱりダメですか」

「それより、メニューを教えてよ」


「口で言うのは難しいので、私が作りますから見て憶えてください。場所をお店のキッチンに切替えてください」


「なかなかのキッチンですね。でもこれはまずいですね。衛生管理ができてません。まず包丁は熱湯で殺菌してください。あ~あこれは酷い!!まな板がこれではいけません。これも熱湯で殺菌します。

 度の強いお酒でもいいですが、洗剤はありますか」


「石けんはあるわよ」


「では石けんを溶かして洗剤にしましょう。これでうなぎを捌いたまな板をよく洗ってから熱湯に浸けます。キッチンは常に清潔にしてください。基本ですよ。テーブルを拭く布は熱湯に浸けて殺菌したもので拭いてください。1度使ったらまた熱湯で殺菌します。この世界にはアルコール除菌はないようですから熱湯が一番いいですよ」


私は彼がまな板を綺麗にしている間考え中の弁当の試作品を作っている。


「では、作りますよ」

肉料理から魚料理までさすが隙の無い早さでどんどん作っている。あっというまに全料理を作り上げた。

「いいですか。料理は見た目も大事ですからね」

確かに彼の料理は美しい。


「では、同じようににやってください」

早速、作り始める。


「だめだめ。だめですよー。魚を捌いた手でそのまま卵焼きを作っては衛生上よくないです。いいですか台所が綺麗でもあなたが不衛生であればお客様は食当たりになります。必ず手を石けんで丁寧に洗ってください」


1日で夢とはいえ一般メニューが10種類、弁当が10種類を作った。朝起きたときには休まず仕事をした気分だった。


 とりあえず100冊ほど印刷した。

 絶壁さんには印刷があるんですねとバカにされたから、彼の時代の印刷を見せて貰ったが機械が勝手に印刷していた。


「あなたのいた世界はおかしいわ。人が機械の奴隷になっているわ」


 この世界は手刷りだ。



 ~1週間後~


 限定100冊の料理本を王都書店に置いてもらった。

 売れればいいなあ位の感覚だったが、午前中で全冊売り切れた。

 1冊金貨2枚もしたのよ。


 店主から早く重版してくれと頼まれてしまった。貴族の間でこれを持っていないと話に入れないらしい。


「王都だけでもあと500冊はすぐに売れますよ。増刷すればソルタナ王国全体だったら1万冊はいけますよ」


 ペンネームをもっといいものにするんだったわ。こんなに売れると思わなかったからアンナが「『ローズちゃん』でいいんじゃニャ」というから適当に「そうね」と応えてしまった。


 翌日スメラ貴族学院では料理本のことで持ちきりだった。

クラスの女子が話している。


「ねえねえ新刊の”あなたに作りたい私の手料理10種と二人で食べるお弁当10種”はすぐに売切れてどこにもないのよ」

「私も買に行ったけど午前中に100冊すべて完売してたわ」


「またあいつが来たニャ」

 ローズマリアは下を向いて気づかないふりをした。


「あ~ら貧民さん。いるじゃないのよ」

 気づかないふりをしたがカーチャはわざわざローズマリアの前に来る。


「あなた、この本知ってらっしゃいますかしら?」

「いいえ、よくわかりません」

「そうでしょうね。あなたはこの本を買うお金がないでしょうから当然ね。この本のタイトルもすばらしいのだけど作者のペンネームがいいのよね。”ローズちゃん”あーなんという心地よい響きかしら。

 同じローズでも大違いね。お~ほほほ。できあがった実物が食べてみたいですわ。まあ貴方には一生無理でしょうけどね。本にサインがほしいですわ。第二弾が出たら絶対サインもらうわ。あ!授業が始まりますわ。ではご機嫌よう」


「あいつただ自慢しに来たのかニャ。ローズマリアがその場でサインしてやればよかったのに」

「えー。嫌よ。だって私のこと秘密にしているもの」


「なあ、今日からあの本の料理をうなぎ屋で先着10名に毎日10日間続けてみようニャ。きっと売れるニャ。そしたら第二弾は色つきで出して1冊金貨3枚だニャ」


「先に500冊重版しないの?」

「バカだニャ。そんなに印刷したら価値がなくなるニャ。少ないから価値あるニャ。重版は200冊で色付き、サイン入りにして金貨3枚ニャ」

「そんなに高くして売れないよ」

「大丈夫ニャ。貴族はすぐに買うニャ。貴族とはそういう生き物なんだニャ」


 アンヌの言ったとおりだった。うなぎ屋アリマズーロで1日10品を限定販売したがあっという間に売り切れた。翌日からは予約がいっぱいでくじ引きにしてもらった。

 毎日絵描き屋にできあがったものを書いてもらい印刷に回した。


 書店の店主が発売日を教えてくれと催促するから1週間後ですと答えた。

 1週間後に重刷本を書店に持っていくと列ができていた。


 知った顔が私に声を掛けてきた。


「まあ、貧民さんは本屋のアルバイトもしているのね。貧民さんは大変ね。お~ほほほほ」

「カーチャさんは重版を買わなくても初版を持ってらっしゃいましたよね」

「何言ってるのよ。色付き見本がついてサインまでしてあるのよ。もう別物よ」


「では最初のはいらないのでは?」

「初版本は価値があるのよ。初版本は金貨10枚でも手に入らないわよ」


「そうなんですか。よくわからない世界ですね」

「そうね。貧民にはわからないでしょうね。お~ほほほほ」


 色付き版200冊は予約者だけですべて売れた。

 店主は増刷をすすめたが、アンヌは増刷を断った。


「ねえアンヌどうして断ったの?」

「増刷はするニャ。ただあの店に卸さないだけニャ」

「どうして?」

「あいつ、この色付重版本を1冊金貨5枚で売ってたニャ。うちらには手数料5割引いて金貨300枚くれたニャ。結果書店は金貨700枚稼いだニャ。あくどい商売をしたニャ。これからはうちらが売るニャ」


 色付重版300冊はうなぎ屋でサインなしで金貨3枚で販売すると告知したが、本屋の店主が300冊予約を入れてきたので売ってやった。金貨5枚で転配するつもりだろう。


 販売当日うなぎ屋アリマズーロで予定通り金貨3枚でサイン入り新弁当メニュー2種を加えて300冊を売った。これで王都の需要はほとんど満たしただろう。それに欲しい方は明日からサイン入りを金貨3枚でいつでも売却します。と張り紙した。増刷は3,000冊していた。地方への販売分だ。王都では行きわたったようだったから地方分のために増刷していたのだ。たくさん儲かったから在庫があっても困らない。


「あの店主は前回の儲けをほとんど失ったはずだ。早く安く売らないと売れなくなるよ」

 だって次は地方貴族がメインだから金貨1枚で売るつもりだ。それに地方分には新メニューが加えてあるのよ。


 ローズちゃんは新鋭料理作家として王都で知らない者はいないほど有名になったが誰も顔を知らない。原稿はアンヌが印刷屋に持ち込んでいるから私は誰とも接点がない。


 ここ1週間ダンとはお店でしかデートしていない。それも食事のときだけ。


「あ~んして」

「恥ずかしいわ」

「いいからあ~んして」

「うん。あ~ん」

「これ、ローズマリアの本を研究して僕が作った卵焼きだよ」

「おいしい。さすがダンね」

「そうかい。明日も作ってくるよ」

「あ・り・が・と・う」


「こらこら、そこの二人早く店に出るニャ」

「ねえアンヌ新作料理は違うお店で出さない。素材が違うから大変だったわ」

「そうニャー。うちもそう考えいたニャ。空き店舗はもう探してあるからいつでもOKだニャ」


「さすがアンヌね。金のためなら頭を使うのね」

「チイサナ王国みたいにいつ国が滅ぶかわからないからニャ。金はいくらあってもいいのニャ」


 うなぎ屋アリマズーロは今日も大繁盛だ。



「ジャ ジャ ジャーーーーーーーーーン」

「絶壁さん。ありがとう。あなたの本は売れまくってるわ。次の本はあなたの名前で出そうと思うのだけど」

「私はもう死んだ身ですから、名を売っても仕方ありません。その後のことを教えてもらったらそれだけで十分です」

「そう、あなたは欲がないわね」

「あなたの夢の中で話せて十分に幸せですよ」


「あ、そうそう。今度新メニューでお店を出そうと思うのだけど何か名案はない?」

「本は出さないのですか?」

「本も出そうと思うけど、うなぎより安くて庶民が食べられて、美味しいものがあればいいなあと思ったのよ」

「そうですね。いっぱいありますが、この世界に牛・豚・鶏はいますか。こんなやつです」 

 絶壁さんは夢の中に牛と豚とニワトリを見せてくれた。


「どれもいるわよ。安い順にニワトリ、牛が豚の半値」

「豚が一番高いのですか」


 私は絶壁さんにそれぞれ実物大をみせてあげた。

 絶壁さんの世界のものと比べてみたら、ニワトリは同じ大きさ、牛と豚は絶壁さんのいた世界の倍の大きさだった。ただし、餌の量が牛と豚は同じだから牛が安くなる。


「それでは牛がグラム当たり一番安いので『牛丼屋』さんにしたらいかがですか?

 豚も大きさの割には安いので庶民向けに『とんかつ屋』ができますね。

 油が高いようなので『とんかつ屋』と『唐揚げ屋』は油の流通を考えてからにしましょう」

『牛丼』は麦にはあわないかもしれないですね。米が欲しいところです。


 朝がきた。また絶壁さんの厳しい料理教室があったから寝起きなのにクタクタだ。あの人料理になると急に厳しくなるのよね。あの調子で奥さんに当たっていたら殺されなかったと思うよ。


読んでいただきありがとうございます。

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