チイサナ王国滅亡
翌日タレを多めに作ってアンヌを伴い王城に赴いた。
「そちが、ローズマリア伯爵か、カンザス家を継いで借金も返済したとは大したものだ。褒めてやる。今流行の『うなぎの蒲焼き』を扱っているとは殊勝なことだ。早速だが我ら王族にその流行の『うなぎの蒲焼き』を早く食べさせよ」
「あ、あいつがいる。こっちを見ているわ。めんどくさ~」
私は早く帰りたいからさっさと焼いた。一応下ごしらえで焼いてあるから軽く暖めるだけでいい。
「旨い。これは旨いのう」
王と王妃、それに王弟とその他王族はみな満足している。元母が来ていないのが救いだ。あの人は煩わしい。
また被害にあっている者がいるらしい。
国王と初めて会ったが黒豚そのものだ。。話し方、仕草、顔、吐き気がする。
あ~嫌だ嫌だ。早く帰りたい。嫌な予感しかしない。
ザラン王子が私ところに来て話し始めた。
「お前かわいいな。俺の女にしてやる。今晩俺の部屋に来い。かわいがってやる」
ほらきた。
「ザラン様あなたは私との婚約を破棄されました。お断りします」
「お前と会ったことはないぞ」
はー。しょうがない。あれをやるか。
「萌え萌えきゅん」手でハートを作る。
「お前はあのときのガイコツ黒顔ドブスか!!!」
「あのときは失礼しました。父を牢屋に入れてくださりありがとうございます。それだけは感謝します。ではさようなら」
ザランは項垂れて自分の席に戻った。
「よかった。アンヌもう帰ろうか」
「そうだニャ」
「待て!儂はまだ足らんぞ。もっと食わせろ」
「うなぎがもうありません。明日お届けしましょう」
「だめだ。お前は儂の子に恥じをかかせた。ひいては王家に恥じをかかせた。今すぐ『うなぎの蒲焼き』を用意したら許してやる。できないようならこの場で打ち首だ」
出たよ。出たよ。王族の権力の横暴。
子は親の鏡とはよく言ったものだ。
~カンザス伯爵邸~
「おはようございます」
「どちら様でしょうか」
「うなぎの蒲焼き屋アリマズーロ店長のダンです。社長が忘れ物をされたので届けにきました」
「ごめんなさい。ローズマリア様はアンヌと一緒に王城に行かれました」
「困ったなあ。王城に行ってもいいけど理由がないしなあ」
「え、王城に行かれますか。助かったわ。これをローズマリア様に届けていただけませんか」
「これは?」
「着替えです」
「お魚の準備をした服装でそのまま行かれたから臭うので今から王城に届けるつもりでした。アンヌの着替えもあります」
「わかりました。僕が行きます」
「ありがとうございます。助かりましたわ。それとこれも持っていてください」
「これは短剣ではないですか!」
「王族にはザラン様がいらっしゃいます」
「それは誰?」
「ローズマリア様の婚約者でしたがザラン様から断られたのです。一癖ある方ですから」
「え~。もったいない」
「それが、その頃のローズマリア様はガングロ顔でガリガリでしたから素顔を知らなかったのだと思います。知っていれば私でも断りません」
「社長が危険ならすぐに行きます」
門番に止められた。
「短剣を置いていけ」
「うなぎを捌く特別の剣です」
「俺にも食わせてくれたらいいぞ」
「いいですよ。次のお休みの日に本店に来てください。おかわり自由で出しますよ。引換券10枚です。家族の方も一緒にどうぞ」
「行ってよし」
うなぎの蒲焼きは最低でも金貨1枚するから門番程度にはまだ手が出ない。
~チイサナ王国王城~
「わかりました。すぐに用意しましょう」
「アンヌ、うなぎを捕りに行くわよ」
王城の側には小さな小川がある。ここのうなぎは泥抜きがいらない。そして大きいし油がのっている。
「わあー。大きなうなぎが取り放題よ」
「ローズマリア早く捕って行かないと首が飛ぶニャ」
「そうね。忘れてたわ。多めにとって明日出そうと思ってたわ。ここの川のうなぎは泥抜きしなくていいからお店で足らなくなったらここで捕ろうよ」
「うなぎを捕ってきました。これから焼きますね」
「おいローズマリア、うなぎはどこだ」
「これですよ」
「それはニョロニョロだろうが」
「いえ、このニョロニョロがうなぎです」
「お前は、王族にこの国で忌避されているニョロニョロを食わせたのか」
「衛兵、この女を捕らえよ」
「余が立会だ。この場で二人の首を刎ねよ」
「はっ」
私とアンヌは後ろ手に縛られ、王族の前に出された。衛兵が私の首を刎ねる準備をしている。
「アンヌごめんね。こんなことになって」
「しょうがないニャ。ここの王が世間知らずなだけニャ。『国王よ!!私の首を刎ねてみなさい、この国は滅ぶわよ。後悔しても知らないからね』」
「ふぁははははーーーーー。たかがうなぎ屋の店員のくせに何を言う。儂が世間知らずだと。ニョロニョロがうなぎということぐらい知っておるわい」
それじぁ言いがかりかな。そうではないわね。目が右斜めを見てキョドっているわよ。今知ったけど知ったかぶりをしたようね。
「儂が黒といえば黒だ。わかったか」
わー出た。悪党の決まり文句。
「最初からこうするつもりだったのね」
「馬鹿なやつらだ。もういい、ローズマリアの首を刎ねよ」
私は覚悟した。目隠しもしていない。衛兵が剣を振り下ろそうとしている。
「カキィーーーーーーン」
「ブス」
「キキーーーーン」
「ドドーーーーー」
「バタン」
「社長大丈夫ですか。あ、姉さんは生きてるみたいだね」
「あんた姉にもっと気を使いなさいよ」
「姉さんは殺しても死なないよ」
「わたしゃゾンビか」
「はい、衛兵の剣」
「私に戦えというの」
「当然だよ」
「しょうがないわね。じゃあ、久しぶりにどちらが多く殺すか勝負しようか」
「いいよ。賭けの対価は?」
「そうね。あなたが勝ったらローズマリアとの仲をとりもってあげるわ。そのかわり豚貯金のことはチャラにしてよ」
「ほんと!だったらいいよ」
「ふー。これは数が多いや」
「そうね。いまのところ互角だけど。このままでは私達まずいわね」
衛兵がどんどん投入され、いよいよ三人は追い詰められた。
「ドーーーーーーーン。バリバリーーーーーーーーーーバリバリーーーーー」
「どうした。何があった。どこから攻撃だ。衛兵はどうした」
「国王様、ソルタナ王国軍が攻撃をしています」
「どういうことだ。儂は何もソルタナ王国に逆らったことはないぞ」
「それが王国親衛隊自ら攻撃をしています。国王様ほんとうに何かされてませんか?」
「内務大臣つまらんことを言うな。儂には見覚えがない。儂はみてのとおり誰よりも清廉潔白だ」
「そんなんだから攻撃されるんですよ」
ソルタナ王国親衛隊が入ってきた。
「ダン様、アンヌ様ご無事ですか?」
「あ、ミロンだニャ」
「ミロン将軍ここです」
「お二人ともご無事でなによりです」
「隠密から連絡があったときは冷や汗をかきました」
「ごめんごめん」
「明日、うなぎ屋アリマズーロ本店が月一のお客様感謝デーなので親衛隊が近くで野営してよかったですよ。そうでなければ間に合わなかった」
「わかったよ。明日は大サービスするよ」
「ここのうなぎが太くて綺麗なんだニャ。帰りにみんなで捕ってニャ」
「は!たくさん捕ってきます。明日は貸し切りですな」
「社長いいですか?」
「助けてもらったからいいけど。ところであなた誰?それにアンヌも?」
「すみません。僕はソルタナ王国第一王子ダン・ソルタナです。姉は第一王女アンヌ・ソルタナです。言わなければと思いつつ時間だけが過ぎてしまって……」
「そう、それは……、これまで失礼をしてごめんなさい」
「いえ、いいお店でしたよ」
「姉さん僕の方が一人多く斬ったから約束守ってよ」
「わかったわよ。自分で言えばいいのに」
「アンヌ!ダンがあなたを好きだからお嫁さんにしたいってニャ!」
「姉さん、それはストレートじゃないか」
「いいでしょ。ローズマリアもまんざらではないでしょ。あなたたちを見ていると距離感にイラッとするのよ」
「私はいいけど。こんな小さな国の貧乏伯爵よ。それに年上よ」
「あなたが何者でもいいのです。あなたが、あなただから、好きになったのです」
チイサナ王国の国王一族はソルタナ王国第一王女殺害未遂で幽閉されている。
王族が全滅したので私が当面この国を預ることになった。
親族にまともな者がいないのでソルタナ王国のチイサナ州となった。チイサナ国民もそれを喜んだ。王族はわがまま放題やりすぎた。
ローズマリアが大口を開けている。
「あ~んして」
「美味しいわ!」
「麦粒がほっぺについてるよ。取ってあげるね」
「いゃ~ん。アンヌが見てるわ」
「あんたらね。結婚式はローズマリアが卒業してからなんだからそれまでは時間があるときは働くニャ。今日は新しく採用した火用の丑の日だから稼ぎ時ニャ」
「アンヌ専務にまかせるわ。私達これから休憩なの」
「給料払わんニャ」
「いいわ。私ダンさえいればいから」
「そうですかお熱いことで。はいはい私が行きますニャ」
「姉さんがんばれ。今日は父さんが来るからね」
「アンヌには聞こえてないみたいよ」
「ミロン店長お客様を入れてちょうだいニャ」
「おまかせを」
「三号店は誰がやることになったのかニャ」
「第三師団がやりたいと言っております」
「ほう。五号店まで一気につくるかニャ」
「はい。他の隊もよろこんでやりますよ。”まかない”がうな丼ですからな」
「国王様、王妃様いらっしゃいませ」
ソルタナ王国第12代フーツウ・ソルタナ国王とキャサリーン王妃がお忍びで来店した。後ろには宰相までいる。
「いらっしゃいませニャ。え~親父。かあちゃんまでニャ」
「お~。儂のアンヌ」
「親父はすぐに抱きついてくるから嫌なんだニャ。それに加齢臭が……」
今日もうなぎ屋は大繁盛だ。