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行き倒れの少年

 ~ある日の夕方~


「アンヌ早く来なさいよ」

「まっちくれニャ。なんでカンザス伯爵邸の小川で捕らないニャ」

「いろんな川のうなぎで試して味の確認をしたいのよ」

「どこでも一緒ニャ」

「違うわよ。今までで一番良かったのは王都の川よ。

 さすがに汚してはいけないから川がきれいだし、うなぎも泥抜きしなくても美味しいわ。それにあそこのうなぎは太いのよね」


「でももういっぱい捕ったニャ。もう止めようニャ」

「そうね、今日で終わりにしようかしら」

「それなら弁当にしようニャ」

「まだよ。これから数匹捕ってからにしましょう」


 あちらこちらの小川でニョロニョロを捕る彼女たちを見た者の中にはそっと焼き芋を置いていく者がいた。

 ニョロニョロまで捕らなければならないほど困窮している少女を見ると、貴族は嫌悪して汚いものを見る目でとおりすぎたが同じような境遇の百姓は哀れ見て自分たちの分の一部を分けてくれた。


「焼き芋が置いてあるニャ」

「ほんとね。ありがたいわ。いただきましょうよ。これ美味しいわ。じゃがいも以外のものを食べるのひさしぶりね」


 小川から上がり近くの木陰の下でいただくことにした。


「もっとないかニャ」

「これ、お百姓さんが少ない食べ物の中からくれたものだから、頂けただけでもありがたいわよ」

「百姓ならたくさんあるんじゃないかニャ」

「お百姓さんは小麦を作っているけど、ほとんど国に税として取り上げられるから芋類を食べているのよ。その芋も市場で魚や肉と交換するから自分の食べる分はあまりないのよ」

「ローズマリアも国の手先ニャ」


「だから私はカンザス伯爵領の領民に地方税を7割免除しているのよ。でもそれでも重税なのよ」

「国王が重税を課しているんだからローズマリアもすればいいニャ。ほかの貴族はそうしているんだからニャ」

「それはできないわ。これ以上税を課したら一揆が起こるわ。3割でさえ重税よ。でもそれがないと橋とか補修ができないのよ」


「それをやって自分がニョロニョロ捕りしていたらせわないニャ。まあローズマリアらしいけどニャ」

「お芋食べたから続きをするわよ」


 もう一度小川に向かうと


「人がうずくまっているニャ」

「そうね。苦しそうね。行ってみましょうか」


「もしもし、お二人とも大丈夫ですか」

「腹が、腹が減って動けませぬ」

「そうですか。それはいけませんね」

「アンヌお弁当出して」

「どうするニャ」

「差し上げるのです」

「いやニャ-」

「帰ってから作ってあげるからよこしなさい」

「ふぇーん」


「どうぞ。これを食べてください」

「申し訳ありません。供の者とはぐれまして路銀も供の者が管理していて困っていました」

「いいですよ。どうぞ」

「アンヌお茶も出してよ」

「へいへい」


「これは何という料理ですか。とても美味しかったです。若様も全部食べられました。いつも食べ物には必ずといっていいほど文句を言う好き嫌いの多い子ですが、全く文句も言わずに食べたのは初めてですよ」


「いいですよ。困ったときにはお互い様です」

「私達はこれからうなぎ捕りがありますからこれで失礼します」

「なんとお礼をしたらいいか。お名前を教えていただけますか」

「名乗るほどの者ではありませんからいいですよ。では失礼します」


「若様なんと優しい子でしょうか」

「そうだね。かわいくて優しい子だったね。お嫁さんにしたいくらいだよ」

「若様、この包み袋はカンザス伯爵家の紋章です。それにこのお金は!ありがたい。これで供の者と出会えるまで食べていける。国に帰ったら改めて正式に挨拶しないといけませんな」

「そうだね。パパにも話していつかお礼に行かないといけないね」

「そうですね。機会があれば挨拶に行きましょう」

「でも、おいしいね。また食べたいよ」

「そうですな。うなぎとは何なんでしょうな。この国には我国にはいない魚がいるのでしょうな」

「そうだね。今度聞いてみようよ」

「そうですな。ではお腹も太ったことですし供の者を探しましょうか」

「うん。デウスも元気が出てよかったね」


「ローズマリア~お腹空いた~」

「私もよ」

「10匹捕ったからもういいニャ」

「そうね。帰ろうか」

「でも今日はいい日だったわ。あんなに美味しそうに食べてもらったもの。うな重に自信がついたわ」



 庭のトマトも熟れ、家庭菜園の野菜も育ってきてカンザス伯爵邸の食事は格段によくなった。


「アンヌ、やっぱりこれをソルタナ王国で売るわよ。絶対売れるわ。あの子の幸せそうな笑顔で自信がついたわ」


 チイサナ王国でニョロニョロは忌避される魚だからソルタナ王国に売ることにした。少しでもお金を稼ぎたい。


『うなぎの蒲焼き』と『うな重』は大ヒットした。夏休みの間にソルタナ王国で一番有名な料理店となった。私が社長でアンヌが専務だ。


 価格設定はアンヌがやった。アンヌは金銭感覚がおかしい。うなぎの蒲焼き定食が金貨1枚だなんて。


 私の願いは一般庶民が安く食べられるようにしたいのだけど、借金を返済するまではこのままの価格設定でいくしかない。


「大丈夫ニャ。貴族は珍しいものには金を惜しまないニャ。もっと高くしても来るニャ」

「やめて。私の心臓がもたないから」

 アンヌはなんにもせんむだけど価格設定だけはまかせられる。

 そのおかげで夏休みの間に借金が完済できてしまった。


 うなぎ屋は国境近くにあるから自宅から通っている。

「あなたまたサボっているの!」

「わちきは働くのに向いてないんだニャ」

「あなたの連れてきた弟君はよく働くし腕もいいし、あなたとは大違いだね」


「弟はローズマリアに惚れているから一所懸命やっているだけだニャ」


「ダン君は年下なのにしっかりしてるし顔もいいわ。ダン君なら少し嬉しいかな」

「だったら結婚したらいいニャ」

「できたらいいけど、無理よ。私の方が年上だし、それに伯爵家があるし、ダン君はソルタナ王国の人よ。チイサナ王国の許可が下りないわ」


「伯爵家より上の貴族と結婚すればいいニャ」

「そんな貴族が私に惚れるわけないわ」


「そうでもないニャ~」

「もう開店時間よ。早く接客の準備をしてね」

「嫌だニャー。お腹すいてるニャ」

「だったら給料なしね」

「社長それは嫌だニャ。いらっしゃいませニャ」

「やっと借金を返したんだから。領民のためにもこれから稼がなきゃいけないんだもん」



 今日も大繁盛だった。私達は自宅に帰ってお茶を飲んで寛いでいる。


 解雇したメイドに戻って貰ったのだ。


 他の貴族に就職していた者もいたのだけど我家は母がいなければとても働きやすい職場だったようで全員戻ってくれた。


 メイドが戻ったおかげでアンヌの入れた不味いお茶を飲まなくてよくなった。

 それに猫マンマが毎日続くとさすがにねぇ。


「トントン」

「今晩は」

「どちら様でしょうか」

「国王様からの使いの者です」

「はい、どのようなご用件でしょうか」

「今ソルタナ王国で有名な”うなぎの蒲焼き”をローズマリア様が扱っていると聞きましたので国王よりお城に来て献上せよと命令されました」


 キャロルからそう聞くと嫌な予感がしたけど行くことにした。

 国王の命令でなかったら知らん顔するのだけど打ち首になりたくないからね。


「アンヌ、明日王城に行くからあなたも一緒に来てくれない」

「わかった。めんどくさいやつらだ」

「今から下ごしらえするわよ」

「へいへい」

「語尾の”ニャ”はどうしたの」

「今日は疲れたからいいの」

「そう、あなたからニャが聞けないと寂しいわ」

「そうかニャー」

「ふふふ。やっぱりそのほうがいいわよ」



 ~その頃うなぎ屋アリマズーロでは~


「姉さんはまた散らかしたまま帰ったな。

 もうほんとうにいつもいつも」

 また僕が片付ける羽目になった。

 昔からやりっぱなしなんだから。それに比べてローズマリアさんはいいなあ。

 几帳面で優しいし、それに綺麗だ。あんな人をお嫁さんにしたいな。

 あ~、いいなあ。


「あれ、ネックレスが置きっぱなしだ。これはローズマリアさんがお母さんの形見と言ってたものだ。今頃捜しているだろうなあ。

 届けてあげよう。それに顔を見られるし一石二鳥だ。姉さんグッジョブ」


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