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なんだこのガイコツ女は話と違うではないか。 婚約解消だ。こんなドブスを連れてきてお前を詐欺罪で訴えてやる。



(1)プロローグ


 ザラン王子は私を睨み付け、なんだこのガイコツ女は話と違うではないか。婚約は当然解消だ。

こんなドブスを連れてきてお前を詐欺罪で訴えてやる。

父は侮辱罪も加わったから生きている間は牢屋暮らしだ。

残された私はこの借用書の山と王子からの婚約破棄の手紙に王家から結納金を返せの催告が……。

一方的に婚約破棄された。



 ~1年前~


「ジャ ジャ ジャーーーーーーーーーン、 ジャ ジャ ジャーーーーーーーーーン…………」


 ここは崖っぷち。

 俺の目の前には妻の洋子がいる。

 テレビでおなじみの場面だが、刑事はいない。


 洋子に追い詰められているのは俺、山沼祐二だ。

 そうだ。俺は追い詰められている。

 洋子は登山ナイフを構えている。



「洋子、自首してくれ。お前のやったことは許せないが、罪を償ってくれ」

「嫌よ。なぜあんたの言うことを聞かなければいけないのよ」


「お前が俺の両親を殺した現場は録画されている。母はお前の行動が怪しいから隠しカメラを仕掛けていたんだ。それが昨日俺の元に手紙と一緒に送られてきた」


「だからあんたの親は信用できないのよ。わたしは味噌が嫌いなのにあんたはいつもいつも味噌汁を作りやがって、それにあんたの親から味噌の臭いがするから嫌だったのよ」


「おまえー!俺の家が味噌蔵元なのは最初からわかっていただろ!!」

「歴史がある味噌蔵元だからお金があると思ったから我慢していたのよ。だけど貧乏蔵元だったからシラケタわ。保険金くらいもらってもバチは当たらないわよ」


「俺はお前にボケ、カス、死ね、と言われても子供が大きくなるまではと我慢をしていたのに、俺の両親の保険金目当てに……お前というやつは許せない……」

「何よ。あんたに甲斐性が無いからよ。自業自得よ」


 洋子の背後から男がゆっくり歩いてくる。


「あ、刑事さん来てくれたんですね。洋子お前はもうおしまいだ。俺は刑事さんに相談していたんだ。観念しろ」


 彼は昨日両親の殺害のことを相談した刑事さん。これぞ9回裏逆転満塁ホームランだ。


「あら~。悠人さ~ん。来てくれたのね」


「悠人さん?どーゆーことだ?」


「あなた~遅いわよ。この男まだ死なないのよー。早く落ちればいいのに!」


 洋子はあんな嬉しそうな顔を俺には一度も見せたことないぞ。


「紹介するわ。私の彼よ。佐久間悠人さん、27歳、北南署の刑事さんでバリバリのホープよ。ねえ、悠人さん、こいつに言ってやって。証拠のこと」

「ああ、あれか。それならここにある。君の持っているSDカードに記録さているのは鋼鉄人82号のビデオだ。昨夜入れ替えておいた」


「嘘だ。そんなはずはない俺は一睡もしていない。それにSDカードはここにある」


 俺は確認のためにスマホにSDカードを入れ再生した。間違いない。両親の顔が映っている。それに両親の後ろには俺の大好きな女性歌手が歌う「夢の中……うふふ……」が流れている。


「そうか!探しても見つからないはずだ。君が持っていたのか」


くそー。()めたなー!


「悠人さん、早くこいつを始末して!!さっきからウザいわ」


「お前いいのか。子供の将来が心配じゃないのか。俺が死んだら子供の将来はどうするんだ!!」


「何言ってんの。あんたの子供なわけないじゃない。彼の子よ。すこし考えたらわかるでしょ。子供が1歳で、私達もう2年ごぶさたよ。馬鹿じゃないの」


「あ~気づかなかった。くそーこうなったら、昨夜紹介してもらったペストル屋から買ったちょっと古いがチョカルフでお前を殺してやる」


「撃ってみなさいよ。どうせ怖くて撃てないでしょ。この弱虫男。クズ、ボケ、カス、お人好し!」


 洋子の言葉に我を失って、撃ってしまった。


 あ~撃つんじゃなかった。


 おかしいと思ったんだ。


 玄関の取っ手に、安全安心なペストル屋を紹介します。というパンフレットが掛けてあったんだ。いま考えたらおかしい。頭に血が上ってたから電話してしまった。


「あのー。そちらぺストル屋さんでしょうか」

「ああ、ぺストル屋のぺストだ」

「ペストルが1つほしいのですが」

「あるぞ」

「そうですか。あまり高くなくて扱いやすいのがいいです」

「そうか、チョカルフなら1丁30万円で渡せる」

「それは高くて無理です」

「それではいくら持っている?」

「もう全財産2千円しかありません」

「わかった。お客様は来店1万人目だ。特別割引298千円が適用されるから2千円でいいぞ」

「お金はどうしましょう」

「あと払いだ。うまくいったら貰おう」

「品物は本日22時にお前の家のポスト入れておくから取りに行け」


 本当にポストにペストルがあった。


「ペストルってこんな簡単に手に入るんだ」



「バーーーーーーン!」


「あ~あ。とうとう撃ったのね。そのペストルは暴発するようにしておいたのよ。ねえ悠人」

「案外大バカなやつだったな。電話の相手が俺だと気づかないんだからな」


「ねえ、これでまた保険金が入るわよ。私世界一周旅行がしたいわ。新しい宝石もほしいのよ。いいでしょ。それにもう秋物のスカートが出たのよ。あなたのボーナスで先に買ってよ~」

「いいよ。俺たちは金持ちだ。好きなだけ買ったらいい」


「これから人生を楽しまなくちゃね」

「悪いやつだな。世界を二周しても余るほど金はあるしな」

「あ、だめよ。その前にあいつの携帯を回収しなくちゃ。なに、この歌、昔スケバンなんてらに出ていた人ね。でもこの歌はいいわね。『夢の中へ……うふふふ……』あんたへの葬送曲だわ」


「まだ落ちないのか。そのままじゃ苦しいだけだぞ。手伝ってやろう」


 佐久間悠人は棒きれで山沼祐二を突いた。さすが刑事、手を使わないで証拠隠滅とは手慣れている。


 俺は ”夢の中へ……うふふさーあ” の歌声が遠くなるのを聞きながら崖下に落ち意識を失った。


「さあ、帰りはドライブでもするか」


「いいわね。今から回らない寿司が食べたいわ」




「ドーーーーーーン」


「ガシャーーーーン」



「本日西名高速道路で主婦山沼洋子さん40歳、北南署の警察官佐久間悠人さん27歳が中央車線を越えて反対側車線を走行してきたトラックと正面衝突し……即死……。また山沼洋子さんの夫で調理師の山沼祐二さん42歳も落武者峠の崖下で死体で発見されたもようです。警察では自殺と判断した模様ですが……ペストルの入手先は判明しておりません。続いて次のニュースをお伝えします……」



 また嫌な夢を見た。今日も断崖絶壁野郎が最後に落ちる場面で終わった。

 もう何度見ただろうか。

 特に最近は頻度が増してきた。

 崖から落ちたあとどうなったか夢の続きを見たかったがいつもあそこで終わる。


 でもあれは助からないよね。

 医者でなくてもわかるわ。

 でも何度も出てくるけど、あの女は誰かな?

 崖から落ちた男は初めからあの女の貢ぐ君?


「結婚した男は悲惨だよね。あれがわからないかなー。

 どう考えても最初から愛されていないでしょ」


 よくあんな女と結婚すると思う。

 私だったらどう考えてもあの女はお断りだよ。


 あの悲惨男もお断りだな。あそこで自首してくれはないよね。

 そもそも私だったらあんな断崖絶壁に行かないわ。


 だけど毎日毎日同じ夢ばかり見させてから、もう我慢できないわ。断崖絶壁野郎に文句の一つでも言わないと気が済まない。



 ~翌日夜中~


「ジャ ジャ ジャーーーーーーーーーン、 ジャ ジャ ジャーーーーーーーーーン…………」

「あ!もういいから。毎回同じ前奏ばかり。あなたバカなの。たまには違う曲にしてみなさいよ。あなたが毎回同じ夢ばかり見せるからもう曲とセリフを覚えてしまったわよ。たまには他の夢も見たいわ。これまで奪った夢を返してよ。悔しかったら何か言ってみなさい。この断崖絶壁くそ野郎!!!」


 夢の中だけど、今まで言えなかった文句を言ってやった。


「すみません。迷惑でしたか。私的にはいい曲だと思うのですが。盛り上がる場面なのでつい繰り返してしまいました。お詫びします」


「あら、あなた言い返すことができるの?」


「はあ、どういうわけかあなたの夢の中だったらお答えできるようです」

「そう。だったら私が呼び出したら必ず出てくるのよ」

「夢の中でしたら出るようにします」

「呼ばないときは出てこないでいいからね」

「はあ」

「はあ、じゃない。はいでしょ。挨拶はきちんとしなさいと教えられなかった!!」

「はい」


「そうよ、それでいいわ。それでは迷惑分返してもらうわよ。とーても困っていることがあるのよ。あなたの知ってる全知全能を使って助けてくれない」

「お金はないですよ」

「教えてくれたら言い方を絶壁さんにしてあげるわ」



 ~1年後~


「いやん。何するニャ!くすぐったいニャ」

「あんた、また私の布団に入ってきたの」

「だって温いもんニャ。もう朝だニャ。今日から夏休みだニャ。夏休みはバカンスだニャ」


 ぐっすり寝たけど、あの夢のおかげで寝起きは最悪だ。


「自分の布団で寝なさいよ」

「何言ってるニャ。ローズマリア様のお世話係だから、ここも、あそこもお世話したいニャ」

「そうだったわね。毎日のことだから知ってるわ。でもそれは必要ないって言ったはずよ。なぜあなたを拾ってしまったのかなあ。大飯食らいだし」


「私は拾ってもらって嬉しいニャ。ローズマリア様の隣は暖かいし、毎日飯が食えるニャ」

「そうですか。よかったですね。でも少しはあなたに感謝してるわ。寂しい思いをしなくていいし、毎日食事を作ってくれるから。毎日猫マンマだけどね」

「あれしか作れないニャ。さあ食べるニャ」


「キャロルは?……いなかったわね」

「忘れたかニャ。ローズマリア様が最後まで残っていたキャロルをクビにしたニャ」

「しょうがないじゃない。お金がない……。それにキャロルは給金を私のために使うから()せこけてしまいこのままでは病気になってしまうもの」


 わたしにはメイドに給金が払えないから、私の衣服を売り、その金で未払給金とわずかな退職金を持たせて解雇した。


 嫌な夢だったけど現状も嫌なのよね。

 逃げたいわ。

 断崖絶壁、あれいいわ。

 あそこから落ちたら絶対助からないわ。

 私もできるものならそうしたい。


「は~この借用証書の山どうするの?」


 夏休み前まではローズマリア・カンザスはカンザス伯爵家の伯爵令嬢だった。


 今は借金まみれのカンザス伯爵家の当主だ。


 私に家族はいない。使用人もいない。アンヌはただの居候(いそうろう)だ。

 一時的に家族がいたことはあった。


 継母(ままはは)ズロース・カンザスと継母の子ミラウカサ・カンザス親子だ。

 ほんの3箇月間の親子関係だった。別な言い方をすればたった3箇月で我家の全財産をスッカラカンにした親子だ。


 継母はさっさと長女を連れて実家の公爵家に帰った。

 継母の連れ子だから二人と私に血縁はない。

 だから公爵家から私に援助はない。


 一家の大黒柱だった前当主はただいま詐欺罪で絶賛服役中だ。


 父を牢屋に入れてくれたのには感謝しているわ。


 だって私のこと利用するだけだったんだもん。食い物の恨みは末代まで呪ってやるわ。

 いやだめね。それじゃあ私に呪いがくるわ。


 でも詐欺罪は(ひど)いと思う。私のことを詐欺と言われてしまった。そりゃあのときは痩せていたし、もう少し猫耳を大きくしていれば良かったのかなあと思っているわ。


 父は借金の一発解消を狙ってザラン第三王子との婚約を取り付け結納金で借金を完済した。


 はずだった。


 王家は父に対して継母を押しつけた負い目があったから私との縁談は簡単に決まった。


 私とザラン王子は一度も会ったことはない。貴族の結婚なんてそんなものだ。


 継母は喜んで父名義でまた借金をして宝石を買い込み私のカバンに入れて実家に帰った。

 なにも持ってこないで我家に嫁いで、出るときは離縁状1つに借用証書の山。

 もうカンザス伯爵家に金目の物は一つもない。


 継母はこれが3回目の離婚だ。次はどこの貴族が被害者になるのだろうか。


 我が家の食事は私が作る塩味のじゃがいもスープのみとなった。

 私はどんどん痩せて、目は窪み髪は艶をなくして生気も失せた。

 でもなぜか父は痩せていない。というか益々太っている。


 父は私の服を売った金で自分だけ毎日酒場に通い酒を飲み肉を食べていた。


 私の服は亡くなったお母さんが若いときに着ていた服だ。大事なお母さんの思い出を売って自分のために食べていた。

 父も許せないから牢屋で反省するがいい。


 我が家の借金の原因は継母だ。でもそれを止められなかった父の責任だ。 浪費家、高級品好き、キンピカ品好き、極めつけは大の男好き。

 母は王弟の子で浪費が酷いから王家から押しつけられた。容姿は簡単にいえば豚だ。若くもない。50歳をとうに過ぎている。


 私はこの母が初めて会ったときから嫌だった。

 だって夢の女にそっくりだったの。仕草、浪費癖、そして顔。

 連れ子も母親にすべてがそっくり。


 我が家は母を押しつけられた見返りとして子爵から伯爵になった成り上がりだ。先祖伝来の財産をすべて使い込み、挙げ句の果てに借金まで作って出ていった。


 見返りはこの爵位任命書一枚。”ケヌマ・カンザス”を伯爵に任ずる。”


 王家はお荷物を紙1枚で我が家に押しつけた。


ダンは第3話から出ます。

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