8話 推理してみるも・・・
痛々しい手紙だった。
送り主のあせりと動揺が伝わってくる痛々しい手紙だ。そうとう追い詰められているのがわかる。
だが今回も手紙の送り主は名乗らなかった。本当にいったい誰なのだろう?
そして、教室は今日はどうなっているだろうか?
あと、僕が人気あるだって?
もしかしてラブレターの送り主のいうように、実は僕はクラスで人気があるとして、それはみんなから争奪戦の起こるような人気ではなく、動物園のパンダをみんなで眺めて「なんかかわいいよねー」といっているような、そんな人気なのかもしれない。
僕はクラスでそんな存在だったのか!
「て・・・そんなわけない。」
さすがの僕もそこまで頭がお花畑ではないぞ。
この送り主はなんか勘違いをしているようだ。思い込みの強いタイプの子なのかもしれない。
まあ、一通目の手紙の時点で少しおかしな子の様だとは思っていたけれど。
さて、どうしたものか。
手紙を鞄に仕舞いながら、僕は考える。
いったい何が原因で今回の事態は引き起こされているのだろうか?
手紙の内容から、今回の件が僕の、そしてサユリたちの錯覚ではない事は、どうやらたしからしいというのがわかる。
何かが起きている。僕らのわからない所で何かが。
そして送り主はだいたいそのことを把握している様だ。
(思い込みの強い性格? を差し引いたとしても)
文面から感じられる焦りは、自身のしてしまったことの反響の強さに、おののいてさえいることがわかる。
僕の方が彼女のいうような、クラスの人気ものでないとすれば、やはり送り主じたいがクラスで存在感のある人物ということになるのだろう。
やはりユーコの顔が真っ先に頭に浮かぶ。
彼女が動けば、クラスは右に左にの大騒ぎになることは想像に難くない。
「そして、その相手が僕みたいな奴ときてはなあ」
とほほ、と自嘲の呟きがこぼれ出る。
ちょっとした身分違いの恋だよ。
想像する。
彼女が僕に背を向けて、舌打ちをした時の表情。それは無表情で不愉快な顔だったのだろうと僕はイメージするのだが、それは違って・・・。
くやしさを含んだ、思い通りにいかない事態へのいらだちのような、悲しみのような、そんな表情なのかもしれない。
美しいユーコの顔がそんな側面を見せたのかもしれない。それは僕の貧弱な想像力では、容易に描くことができない表情だったが・・・。
とにかく。
彼女は舌打ちをした。
それだけが事実であり、ヒントとなり得る現実だ。そこから何を導き出す?
わからない。
わからないが、どうやらユーコは今回の件の重要登場人物の一人となりそうな、そんな予感がした。
・・・のだが。
「ええい! 考えていても仕方がない。とにかく教室へ行ってみよう」
今回の騒動で僕の見立てはことごとく外れている。僕のちょっと賢くない頭で、いくらあれこれと考え込んでも答えはどうやら出そうにない。
教室へ行ってみたら、ユーコは相変わらず僕なんか歯牙にもかけず、友人たちとバカ笑いをしている可能性だって全然あるのだ。
行くしかない。
僕はトイレのドアを勢いよく開き、教室へと向かった。