6話 作戦会議2
「なんだったんだ?」
ケースケが困惑した顔でぼそりと言う。
時と場所を変え、放課後の食堂に僕らは集まっていた。
「わかんないよ、でもあの雰囲気はあきらかに異常だった。気のせいなんかじゃない」
サユリが首を振って言う。
僕は困惑を顔に浮かべながら、
「そもそもなんで、ユーコにラブレターの件が知られてるんだろう?」
と疑問の声を出す。
ユーコのフレンドリーでありながらの、その後の舌打ち。きっとその時ユーコの顔は無表情で不愉快を示していただろう。僕には直接は見えなかったため、想像が想像を呼び僕は身震いした。
「そもそもユーコに、リコが認識されていたことがビビるわ!」
ケースケの言葉に、失礼だな! とちょっとツッコミを入れるが、それでも僕自身、頷かざるをえない事だった。
クラスの華。学年一の美人。
別にそれでなにかの権力をもっているわけではないけれど、それでも存在感は圧倒的で、そんな人から認識され、あまつさえリコっちと呼ばれた。
それは喜びではなく、ちょっと恐怖を感じるものだった。
「うーん。もしかしてユーコがラブレターの送り主ってこと?」
サユリが首をひねって言う。
「あの文章をユーコが書いたのか・・・? 何かイメージちがくね?」
ケースケが反論するように答える。
「たしかに」
僕も同意する。
ユーコが告白するとしたらどこかに呼び出されて、口で言ってきそうなそんな勝手なイメージを頭に浮かべる。
あんな手紙をチマチマ書いてるユーコの姿は想像できなかった。
「だよねえ」
サユリは自分の意見をすぐに撤回する。
しばし沈黙。
「あー! わかんね。誰なんだよリコにラブレターなんて送ったの。なんなんだよあの教室の空気は。わかんないことだらけだ。なにめんどくさいことしれくれてんだよ、リコ!」
ケースケがイライラした様子で机の下で僕の足をゲシゲシと蹴る。
「し、知らないよお。僕のせいじゃないじゃん。蹴るのやめろよー」
僕が蹴られてるのを横目に、サユリが僕に尋ねる。
「ねえ、リコ。本当に誰かから好かれてるみたいな前兆はないの? たとえば誰かに親切にしてとても感謝されたとかさ」
「うーーん・・・」
ケースケの蹴りを靴裏でガードする動きをしながら、僕は考えてみる。
女子に好かれそうな言動かあ。
「ないな。」
僕の答えに二人がずっこけるリアクションをとる。
「あんたねー。生きてりゃなんかしら好感度上がりそうな行動とるでしょ、普通。
ないな、て!」
サユリが呆れた口調で言う。
「そんなこと言われてもさあ・・・逆に覚えてる方が性格悪くない? 俺は今女子の好感度あげたぜ! ってことでしょ? そんなのナンパ男じゃん」
「ま、まあ、たしかにね」
サユリもそれには頷く。
そしてまた沈黙。
「ダメだダメだ! わかんね。とりあえず今日は解散しよう。また明日になったら何か変化が起きてるかもしれない」
ケースケがお手上げといった感じで言い放つ。
「そうね。昨日から今日であれなら、明日になればまたなんか変わるかも」
机の上をかたして帰り支度を始める友人。
なんか二人とも本当にちょっとめんどくさくなってきてないだろうか? 僕、見捨てられないだろうか。
ああ。明日が怖い。
億劫になりながら僕は飲みかけていた紙パックのジュースの残りをすすった。