5話 クラスの静止
視線。
突き刺さる、クラス中からの視線に、僕はおののいて立ち尽くすことしか出来ない。
見ている。見られている。あきらかに僕を見つめるその視線は、昨日の無関心とはあきらかに様子が違った。
しかもクラスは異様に静まり返っていた。
ただただ、視線だけが僕に降り注ぐ。
どうしたというのだ。
助けを求めるように教室をあちらこちらと見ていると、サユリたちと目があう。
もちろんサユリたちも僕を見ていたが、その目には僕と同じ動揺が感じられた。
ふらふらとそちらへ向かう。
その間も僕に注がれる視線は、僕を捉えて離さない。
「なんか僕、見られてない?」
サユリたちに小さくたずねる。ケースケが言う。
「俺らが来た頃にはもうこの状態だったんだ。なんかクラス中が殺気だってるっていうかさ。なにがどうしたっていうんだ?」
その言葉にサユリは不可解だと言いたげに僕の目を見て、それから首を振った。
「ねー、リコっち! ラブレターもらったって?」
その時僕に声がかかる。それはクラスで一番華やかで、そして間違いなく一番の美貌を持つ女子、ユーコのものだった。
彼女は取り巻きもキレイどころの揃ったグループの机から、こちらへと向かってくる。
「噂になってるよ。よかったじゃん。付き合うの?」
「い、いやまだ決めてない」
「早く返事してあげなね。付き合うにしろ、振るにしろさ」
「あ・・・それが・・・」
そこまで言って僕は言葉を飲み込んだ。詳しい事情を話していいものか判断がつきかねたのだ。
「うん・・・なるべく早くするよ」
だから僕はそう言葉を濁すことしかできなかった。
彼女は「そ!」と言うと、ニコッと笑って踵を返した。
その時僕は聞いた。踵を返したユーコがチッと舌打ちをしたのを。
そしてグループの机に戻ると、何事もなかったかのように、「でさー」と日常の会話を始める。
その瞬間止まっていた時間が動きだしたかのように、クラスに喧噪が戻る。
ざわざわと日常の会話がクラスのあちこちで展開される中、僕らだけが訳が分からないといった様子で顔を見合わせた。