最終話
ミイが泣き止んだあと、しばらく話した後、教室に戻ろうというはなしになった。教室はどうなっているだろうか? 大惨事のまま飛び出してきてしまったが。
「そう言えばさ」
と屋上の扉をくぐって、階段を降りて、踊り場まで来た時にふと言う。
「ミイはリコ君を好きになるきっかけとかあったの?」
その問いに、ミイは恥ずかしそうにうつむいて、ボソッと何か言った。
「え? 聞こえなかった。もう一度」
「・・・顔かなって言ったの」
「顔!!?」
いや、大事な事ではあるが、なんかミイは精神性を大事にしそうなタイプに思っていたので、意外だった。
最近親友の初めて知る事が多すぎる気がする。
「でもそっかあ。顔じゃ、なんかしょうがないよね」
「うん」
よし! と私は声をあげる。
「告白しよう! 大丈夫私も一緒に行ってあげる」
「ええ?」
とミイは言うが、今は何かテンションがおかしくなっている二人なので、
「そうしてみようかな・・・」
とミイは言う。
そうと決まれば、というわけで私はざわざわしている教室へと戻ると、リコ君に
「あとでツキシマさんが大事な話があるから」
と近づいて行って言う。
体育館裏で。
ミイはリコ君の前で緊張している様子。きっとこんな距離で話をした事ないんだろうなあ、と私は思う。
「あの・・・もうわかってるかもしれませんが、あの2通の手紙を送ったのは私です。あの、ツキシマって言います」
いや、さすがに名前くらいは知ってるだろう! ・・・知ってるよね?
「ツキシマさん。知ってるよ。いつも寝てる人だよね。きみだったんだ? ラブレター送ってくれたの」
いや、いつも寝てる人って。なんだその認識は。
「ありがとうございます。知ってたんだ。嬉しい」
嬉しいんだ。もう別にいいけど。
「私の気持ちは手紙に書いた通りなんですけど、やっぱり口で言わなきゃダメですよね。それに、リコ君送り主誰か気になってるみたいだし」
ミイは心を決めた顔で、
「あらためて言わせてください。好きです! よければ付き合ってください」
「・・・ごめん」
リコ君がそう言う。
「このラブレターをもらって、送り主を見つけたら、僕はどうしたいのかってずっと考えてたんだけど。
おそらく付き合う事にはならないんだろうなって、そう思うようになったんだ」
リコ君の言葉。ミイは、
「それはどうして?」
と聞いた。
「たぶんだけど、ずっと好きだった子がいる。友達みたいに思ってたから意識してなかったんだけど。でもこの件を手伝ってくれてるのを見て、キミはそれでいいんだ、と思ったらとても悲しくなって・・・
それってたぶんそういうことだと思う」
ああ、あの子か。私の頭の中に一人の女の子が浮かぶ。
ミイもすぐ気づいたようで、
「それはリコ君のすぐそばにいる、あの子?」
そう聞くと、リコ君は、
「うん」
とうなずいて言う。
「そっか」
とミイ。
「じゃあしかたないね」
さっぱりとした顔で言うミイに、思わず、
「ねえ、ミイ。それでいいの?」
と口を挟んでしまう。
「うん。いいの。
嫉妬は・・・あるけど、思ったよりも少なかった。少なかったというよりも、少なくなったのだと思う。
ユーコとの一件もあって頭がぐしゃぐしゃになって。彼への想いがどこかへいきそうだった。小さくなってしまった火みたいな気持ち。
この火は本物だったのかなって思って確かめに来たの。
自然消滅はきっと、誰にとっても望ましい結末じゃなかっただろうから」
「ミイ・・・」
「私たちの心って本当に不思議だよね。あんなに・・・
あんなに好きだったのに、今リコ君が急に遠くなっていく。そのことを受け入れている私がいる。
そのかわりに、早くユーコの家に行きたい。振られちゃったーと、ユーコに泣きつきたい。
そう感じてるの」
そう話していたミイがふと思いついたように、
「ねえ、彼女に言うの?」
とリコ君に聞く。
リコ君はうーん、と考え込む。
「わからない。彼女は大事な友達でもあるし。今の関係を壊したくない気持ちもあるんだ」
ミイはうなずく。そして言う。
「リコ君がどんな選択をするかはわからないけどさ、その気持ち大事にしてあげてね。友達は大事なものだから。それが好きな人ならなおさらだよ」
「そうだね」
リコ君が力強くうなずく。
「じゃあ私もう行くね」
リコ君に手を振る。彼も手を振り返す。
私はその光景を見ていて、二人が愛おしくなってくる。
ちょっとリコ君の事が好きになってくる。
けれど、これから接点はますます無くなっていくだろう。
人が別れるということはそういう事だ。
「私もさよなら」
想いをこめて私も言う。
リコ君はどれだけそのことに気づいていたのだろうか。
「さよなら」
彼はそう言い返してくる。
そして歩き出した。
私たち二人は歩き出した。
これが一通の下駄箱に入れられたラブレターから始まった物語。