16話 目撃
リコとの会話を終えると、私は友人たちのもとに戻る。不安そうに私を見ていた友人たちに、
「でさー」
と少々くさい演技かなと思いつつ話しかける。
とたんに友人たちは安堵の表情を浮かべ私と話を合わせる。
あの子供時代。ツキシマミイとの初めての大喧嘩のあと、私は自然と友達ができるようになった。
でもやっぱり一番の友達はミイに決まっていた。
そのミイを今失いそうになっている。そんなのは絶対に嫌だ。
なんでこんなことになってしまったのだろう。そうも思うが、気持ちを切り替える。
これは私とミイの間に起こった試練だ。
私たちはきっとこの試練を乗り越えて、今までよりももっといい関係をきずける。
チラリとミイの方を見る。
あいかわらずのスタイルだが、全身の神経を研ぎ澄まして、教室内の様子をうかがっていることだろう。
ミイ、私はあきらめないよ。何もあきらめない。
次の日の朝。
偶然というものはあるもので、偶然もこうまであからさまに起こると、必然なのかもしれない。
ミイの後ろ姿が登校時に見えた。
ミイは私に気づいていない。
そして、昇降口へ着くと、鞄から何かを取り出して男子の下駄箱に入れる。
なんだ?
ラブレターは一昨日投函済み。
なら何が書いてあるのだろう?
私はもうなりふり構っていられなかった。
「ミイ!」
そう叫ぶ。
ミイが肩をびくっとさせて、こちらを振り向く。
「ユーコ・・・」
「ねえ、いま男子の下駄箱に手紙入れたでしょ。何書いてあるの? 噂になってるの知ってるよね? リコ君に手紙送ったんだよね。じゃあ今入れたのは何?」
ミイは私の矢継ぎ早の質問に、ちょっと黙って、そして、
「ユーコには関係ない」
そう言って背を向け、教室の方へと歩いて行ってしまう。
「ちょ、待ってよ」
私の制止の声も聞かずにズンズンと歩みを止めない。
とうとう教室のドアを開けてしまう。クラスの登校していた生徒たちが私たちの様子にぎょっとした顔をする。
ミイは自分の机に鞄を置く。
私はミイの肩に手を置くと、
「ねえ、ミイ。ちゃんと話そうよ。話さないとわからないこともあるし、誤解も生まれるよ」
ミイは私の事を少し小馬鹿にした表情で見た。
「話さないとわからない・・・ねえ。たしかにそうね。
たとえば、ユーコがリコ君の事好きになったこととかね」
「え?」
私はきょとんとして、ミイの肩から手を離した。
「おかしいと思ったよ。リコ君は普通だから私との付き合いには反対? 意味わかんない。でもこういう事だったんだね」
演技じみた口調でミイは語る。
「リコ君を意識し始めた、お奇麗なユーコさんは、リコ君の事が好きになってしまいました。そして先に好きになっていた、親友の女の子をあきらめさせて、自分が付き合う事にきめたのでした。そうしてユーコさんは全てを手に入れるのでした。何も失うこともなく。一人の女の子が泣くことになるなんて考えもしないで
ってね」
「・・・ちょっと。何言ってるの? そんなわけない」
私は一瞬あっけにとられたが、意味を理解するとあわてて言った。
「あれは本当にリコ君が・・・ちょっといまいちだなって思って言ったの。親友の好きな人を取ろうとなんてしないって」
「親友ねえ」
ミイの目はさげすむような目をしていた。そして、
「いいよ。ユーコにならリコ君とられても。でも、恋も友情もなんて考えないでね。私たちの友情はここまで。
そのかわりに素敵な彼氏ができるんだから文句ないでしょ」
ミイはかたくなだった。その態度に私もさすがにイライラしてくる。
声を低めて、
「ねえ、いい加減にしなよ、ミイ」
ミイの顔からも表情が消える。
私たちは無言で睨み合う。
その時だ。ミイが教室の扉の方を見て、「リコ君・・・」と言う。
私もそちらを見る。
リコが教室の扉を開けた状態で固まっている。
ミイが教室の外へと走り出していく。
「ミイ! 待ちなって!」
私はミイを追う。その際一瞬、チラリとリコに目をやった。
リコはわけのわかっていない顔で、呆然と私を見返してきた。
内心くそっ、と毒づいてミイの背中を追いかける。