9 お飾りの婚約者← なるほど理解!
セオドア王子の嵐のような訪問から一夜明け、王宮からは早速正式に婚約が整った旨の通達があった。
通常ならば一週間は手続きに時間を要するはずなのに…である。
王子の余りに迅速な対応にアメリアは驚きを隠せない様子だが、セオドア王子の以前からの想いを知るグレイソン家の面々としては「アメリアの気が変わらないうちに急いだんだろうな」という感想しか出てこない。
王家でも王子の想いは公認だったため、未来の王妃候補として、特別に王宮図書館への出入りが許されていたことも知らないのはアメリア本人だけだ。
…余りに気づかな過ぎて王子様が不憫だったので、今回の件は不幸中の幸いといったところか。
現在のアリシアは、嫌々ながら王子と婚約の約束はしたものの、まだ嫁ぐまでには何年もあるし、先は長いのだ。昨夜両親も言っていたが今後破談になる可能性もある以上はクヨクヨしてばかりいられない!と気持ちを切り替えていた。
しかしそれをぶち壊すように部屋のテーブルの上では赤いヒヨコ…いや火の精霊フェイがお菓子に夢中になっている。
「おいアメリア、この菓子美味いな」
フェイは自分の体ほどもあるイオナ手作りのスコーンをものすごい勢いで平らげていた。『お茶もなかなかイケる! お代わりをくれ』と大はしゃぎだ。
イオナや屋敷の他の使用人にもフェイの姿は見えないようだし、彼の存在はお母様と私だけの秘密にすることにしたが(お父様も知ってはいるが、見えない)あまりの食欲旺盛ぶりに隠せるか難しくなってきた。
お母様もニコニコしてフェイにお茶のお代わりを入れている場合じゃありません!
「あのね、フェイって精霊でしょ? 人間の作ったものなんてそんなに食べて大丈夫? 体に毒じゃないかしら?」
皮肉を込めて聞くが彼の食欲は止まらない。
「精霊にとっては魔力とか… 植物や動物の生命エネルギーなんかも自分の糧にできるんだよ。だから物を食べる必要は無いけれど、これ美味いし。まあ、人間が作り出したって意味ではこれも生命エネルギーになるかもな。」
そう言いながらもモグモグと食べ続け、今度はたっぷりのマーマレードをスコーンに塗りたくっている。
「おお! また味が違う。この酸っぱい感じもまた良いなー美味い!」
見ているだけでお腹いっぱいになりそうだ… もう好きなだけ食べてくれと放っておいて、お母様と二人で今後の相談をする。
王宮から正式に婚約者として通達が来た以上、一度は盛装をして王宮で国王様の御前に上がらなければならない。
その際には両陛下から厳しいマナーのチェックや王妃として相応しい品格かを質疑応答されることだろう。お披露目の舞踏会もある。
王妃になるつもりは無いが、両親やグレイソン家の名に恥じないようにダンスやマナーなどそれまでに覚えておくことは山ほどある。今後は王妃教育と称して王宮での勉強会も増えるだろうし、自分の自由になる時間など無くなってしまう。
それに魔力0のくせに王妃など相応しくないから辞退しろ… という貴族達からの嫌がらせにも対応しなくてはならない。多分、権力や王妃の座は多くの貴族にとって魅力的なのだろうし、あの美しいセオドア様自身にも魅力を感じる女性は多いだろう。
「王妃教育って大変だわ。なんとか王子様の気が変わって、破談にならないものかしら…」
思わず本音をつぶやくと、お母様は困ったように首を傾げた。
「アメリア、貴女はセオドア様のことをどう思っているの?王子様だとか臣下だからとかは抜きにして、一人の男性として見たセオドア様に対しての気持ちは?」
…私自身の気持ち…? …そんなこと考えたこともありませんでした。
幼馴染の王子様は文武両道、何でも出来る完璧なパーフェクト・プリンスの呼び声も高い。
さらにオールヴァンズ王国の第1位王位継承者…。
魔力を体現するようかのような真っ赤な髪とルビーの瞳の外見まで神に愛された美貌の人…と噂されている…人気あるんだろうな… 私の地味な見た目とは大違い …横に並ぶとちょっと卑屈な気持ちになるのよね…としか思っていません。
そう伝えると、お母様はガッカリした様子で目を閉じたが、気を取り直すと私の手を握り真剣な顔で言った。
「あのね、セオドア様は将来の伴侶として、魔力を持たないアメリアを望んでくださったのよ。家格や財産などの打算ではなく純粋に貴女を思ってくださっている。
今回の件で貴女の見た目が変わってもアメリアの価値に変わりはないとも…。
…だから、アメリアも王子様ではなく一人の男性として、セオドア様を見てあげてくれないかしら?その時にやはり無理だ、彼自身を愛せないとなったらお父様にお話しして破談にしていただいても遅くはないわ」
…そうだったのか。セオドア様にとって私は…ん?何か王妃にするメリットある?価格も財産も関係ないなら余計に判らない。
見た目にも拘らないとすればあとは何だろう?
私は見た目も地味だし、魔力0だし王家にとっても得はないよね?
…そうか! 私なら幼馴染として気楽に接することが出来るし、魔力0で碌な縁談も来ないだろうから、せめて一時でもお飾りの婚約者になれば、破談になっても少しは貴族から関心を持ってもらえるだろうってことですね⁈
つまり“お飾りの婚約者”ってことだわー!
成程理解しました‼ 私は王妃になりたくない、無能な令嬢と言われたくないと思うばかりで、セオドア様が幼馴染のよしみで私を心配してくださっていることにも気が付かない愚かな娘でした。
「やっとセオドア様のお気持ちに気が付きました!幼馴染として縁談0の私を心配してくださる博愛の気持ち‼ さすがはパーフェクト・プリンスです‼
私もセオドア様を見習って財産目当ての貴族令嬢の目くらまし役として立派に婚約者役を成し遂げてみせますわ‼」
お母様の手を強く握り返し、私は誓いました。そう!今日からは無能だからと後ろ向きな考え方を改め、セオドア様のために婚約者役に徹したいと思います。
そうすれば将来、真実の愛に目覚めたセオドア様も幸せな結婚ができ、破談になったグレイソン家も有益になるでしょう。さらに私も傷心の公爵令嬢として隣国に特別に留学できるかもしれません。良いこと尽くめです。
よーし婚約者役を頑張るぞー‼
自分の決意に夢中になるあまり、その時お母様が小さな声で
「…えええ?全然伝わっていない…? 全くわが娘ながら恋愛に無関心すぎるわ…セオドア様もお気の毒に…」と呟いたことは私の耳には届きませんでした
残念なおつむのヒロイン…




