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71 逃れられない甘い牢獄

「セオドア様が…私をここへ連れてきたのですか?」


そっと彼の頬に触れると、愛おしそうに見つめられます。


「ずっと…会いたかった。グレイソン家に何度使いを遣っても面会は断られるし、そのくせジュードとは面会しているから、アメリアが彼に心変わりしたのかと気が狂いそうに嫉妬したよ。

 きっと何かの間違いだと…アメリアに直接話を聞きたくて変装までして舞踏会場で待っていたのに、全然気が付かないし。…その上ジュードと腕を絡めて随分と仲睦まじそうにしていたね?

 思わず頭に血が上ってここへ攫ってきたけれど…」


 一気に捲し立てると、私の手にすり寄る様に甘えました。


「アメリアは本当に酷いよ。私がこれ程に君の事だけを愛しているのに、婚約を勝手に破棄して別の男の腕に抱き付くし、変な男に肩を抱かれるし…これは不貞行為だよね?」


 そんな、私が魔性の女みたいに言うのは止めてください。大体、中庭で会った変な酔っ払い男性は私のせいではありません。


「セオドア様はあの時、中庭にいらしたのですか?…それなら、声を掛けてくだされば良かったのに…」


 私だってセオドア様に会いたいのをずっと我慢していたのです。

 でも私から婚約を破棄した手前、こちらから王宮へ伺うことも出来ず、私がどれほど一目だけでも会いたいと思っていたのか彼は知らないからそんな酷いことが言えるのです。


「ジュードとイチャイチャ腕を絡めているし、やっと一人になったと思ったら変な男に肩を抱かれているんだから、私がどれだけ傷ついたか判るかい?…ショックのあまり、あの場で男を殺そうかと思ったよ」


 …王宮の中庭が血の惨劇の場にならなくて本当に良かった…心から安堵しました。


「愛しい君が他の男に笑顔を振りまいていると思うだけで死ぬほど辛かった…だからここへ君を攫ってきたんだよ。ここなら君が不貞行為することは出来ないからね」


 …人を淫乱な女性扱いするのは止めてください‼

 本当に、セオドア様の中で私はどんなイメージなのでしょうか…?


「私は既に精霊界との繋がりも絶たれて、今度セオドア様が魔力暴走を起こしても止めることも出来ない…本当に見た目も中身もつまらない…取り柄の無い女です。

こんな私では王妃も務まりませんし、セオドア様の隣には相応しくありませんから…」


 倒れていた彼は知らないかもしれませんが、私は既に精霊にまつわる全ての力が消えてしまいました。政治的にも能力的にも無能な令嬢では、王位継承者であるセオドア様のお荷物になるだけでしょう。

 たとえ辛くても、彼の将来の邪魔になるのだけは嫌なのです。


 私の言葉を聞いていたセオドア様はポカンとした表情で首を傾げました。


「アメリアの外見が元に戻ったのは見れば判るけれど、どちらでも私には魅力的なんだけれど…?

それに、これだけ私の事を魅了しておいて勝手に私を捨てる方が酷いと思うけれどね?」


「魅了の力も…今はございません。ですから、私は潔く身を引こうと…」

 

「うん?精霊の魅了の力なんかじゃないよ?私は君が幼少のころからアメリアの事をどうやって手に入れようかとずっと考え続けていたんだから。私が初恋を拗らせたのも全部アメリアのせいなんだから責任を取ってもらわないと」


「初恋…私の事を想ってくださっていたことは嬉しいですが、今は王位継承の為に相応しいご令嬢の事を…」


「ああ…私たちが婚約破棄したのも、私が廃嫡されないように君から言いだしたって聞かされたけれど、私は別にアメリアが婚姻してくれるなら王座なんかいらないんだけどね」


 私の言葉を遮るように、彼はとんでもない事を言い出しました。 

 思わず詰問口調で彼を攻めてしまいます。


「何を言っているのですか⁈王位継承権を失えば、王宮に居場所が無くなってしまうというのに。…人生を簡単に決めて良いことではありません!」


「だから、私の私財を使ってこの屋敷を購入した。王家を廃嫡されたら一緒にここで暮らせばアメリアも私から逃げる必要は無いよね?」


 …ここはセオドア様の個人所有の邸宅なのですか?確かに貴族の別宅かと思うくらいには豪華で清潔だと思っていましたが…。


「もしアメリアが望むなら、私がグレイソン家に養子に入っても良いし、隣国で暮らしたいなら私が準備してあげる。絶対に幸せにするから婚姻しよう」


「この国の…オールヴァンズ国王にならなくても良いのですか?」


 私の言葉にセオドア様はあっさり頷きます。


「アメリアが手に入るのなら王位なんてリアムにくれてやるよ。大体、君は誤解しているようだけれど私は今も怒っているんだからね⁈」


 そう言って私を抱きしめると唇を耳元に寄せました。


「私がこんなに狂いそうなほど愛していると言うのに、君は私の為だからとあっさり私を手放すなんて許せないよ」


 ガリっと左手の薬指を噛まれ、血が滲みます。そこを執拗に噛まれるとまるで指輪のように跡が付きました。


「絶対に私から離れることなど出来ないと、アメリアが懇願してくれるまで時間はたっぷりあるよ。もし逃げたらどうなるのかも君の全てに刻み付けないといけないしね?」


 ペロリと私の指の噛み跡を舐めあげる彼の瞳は獲物を捕らえた仄暗い喜びに溢れていました。

 あまりにもセオドア様の愛が重すぎます…私はこれから彼に与えられるであろう愛情に目眩がしました。



 私がセオドア様の熱い求婚を受けている頃、王宮では国王様がため息を吐いていらっしゃいました。


「セオドアとアメリア嬢の婚姻式はいつにするかな…」


「あら?セオドアは廃嫡されても良いからアメリアと婚姻をすると言っていましたわよ?継承権はそのままでよろしいのですか?」


 オリバレス王妃の言葉に更に疲れたようにため息を吐くと国王は頷きました。


「セオドア程の人材をみすみす廃嫡し、グレイソン家にくれてやるのは惜しい。それに、あいつはアメリア嬢がやっぱり王妃になりたかったなどと言い出せば国家を転覆させてでもやり遂げる気がするからな…」


「確かにやりそうですわね…。まあ、あれだけ執着されているのなら、アメリアにセオドアの手綱を握っていてもらった方が安全ですわ」


「そうであろう?…まあ、翻弄される彼女には気の毒だが、セオドアに目を付けられた時点で諦めてもらうしかない…」


「アメリアもかわいそうに…きっと今頃はセオドアに粘着されて大変な目に遭っているんでしょうね…」



 そんなやり取りがされているとも知らず。私はセオドア様から“逃げようとした罰”だと繰り返し愛を刻み付けられていました。


「どんなことがあっても、二度とアメリアが私を捨てて逃げ出す道だけは選べないように心も躰にも、じっくりと判ってもらわないとね」


 そう繰り返し、何度も逃げないことを誓わされた私は、その晩セオドア様の甘い牢獄へと堕とされたのです。


次回が本編最終話になります。…本当に長かった…。

本編終了後はこちらは不定期で更新しますが、思い付きで書いたスピンオフ作品を明後日から連載出来たらなと思っています。

一応、セオドアが出てくるのですが、そっちでも迷惑を掛けまくる王子の話…(笑)


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