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69 王宮舞踏会

王宮の大広間は既に数多くの参加者で溢れかえっていました。


 「おいおい、国中のお偉いさんが集まっているんじゃないのか?」


ジュードのぼやきに思わず笑みがこぼれます。


 「フフフ、そうかもしれないわね。でも、今日からは貴方がその“お偉いさん”の仲間入りをするのよ?言葉遣いも丁寧にね?頑張ってちょうだい」


クスクスと笑いながら腕を絡めると『うーん…アメリアが婚姻してくれたら頑張れるんだけどな~』などと言い出したので腕をつねってやりました。


…これだけの人がいる中で、ふざける余裕があるなら大丈夫でしょう。

私も婚約を破棄してから社交の場には出ていないため、周りには気が付かれていないようです。見た目も地味ですから目立たないのが幸いしたのかもしれません。

…内心“セオドア王子に振られた惨めな公爵令嬢”という視線が飛んでくるかと身構えていたのでホッとしました。


正式にブラインズ公爵のお披露目をするのは今夜だというのに、早耳の貴族たちが、こぞってジュードの周りを取り囲みます。

私はそっと彼から距離を取ると壁際で彼を観察しました。

中にはあからさまにジュード狙いのご令嬢までいて『新しいブラインズ公爵様って素敵…ぜひ落としたいわね』とか『あの艶やかな黒髪に黒曜石のような瞳…彼に愛されたら幸せよね』と、かなりギラギラした視線が向けられているようです。

 こう、獲物を見つけた肉食獣のような…というのは失礼な表現ですが、しっくりくると思うのは私だけでしょうか。


 ジュードはそつなく受け答えをしているようでしたが、さりげなく壁の花を装って離れていた私を見つけると『ちょっと失礼!』と一直線にこちらへ向かってきました。

 何故でしょう…?彼から怖い気配を感じるのは…?

 ジュードは私の傍へ来ると、先ほどから私に話しかけてきていた貴族男性との間に体を滑り込ませました。


 「…私のパートナーに何か御用でしょうか?よろしければ私がお話を伺いますが?」


 …笑顔ですが、すごく怖いです。背中から真っ黒な闇が見えると言うか…あら?デジャブでしょうか?

 相手の男性は慌てて逃げ出しますが、ジュードは私の方を振り返るとひきつった笑顔のままです。


 「どうして俺から離れたんだ?傍に居ないと危険だろう⁈」


 怒鳴られても意味が分かりません。ジュードが私のお父様みたいなことを言いだしました…。

 大体、こんなに大勢の人がいる中でどう危険があるというのでしょうか?

 しかもこんな地味顔の、王家から婚約破棄された女では価値など無いに等しいのです。

 貴族男性にとって、私は魅力の無い女ですから、問題など無いはずですが…。

 …セオドア様にもよく同じように怒られたわ…。思い出すとまだ胸は痛みますが、以前の抉られるような痛みではなくなりました。こうやって少しずつ平気になっていくのでしょう。


 目を上げると、ジュードがまだクドクドとお説教しています。すっかり私の保護者のような立ち位置になっていることに彼は気づいていないのでしょうか?


 「…ジュードもこの舞踏会で婚約者候補のご令嬢を見つけないといけないし、私が傍に居たら邪魔だと思ったのよ」


 「俺はお前が婚姻を結ぶまではこのままで良いんだよ!…そのうち、気が変わったら婚姻するかもしれねぇし…多分…」


 でも、ジュードが公爵家を継いだら婚約者候補が殺到するに決まっています。より取り見取りだから彼はガツガツしなくても良いのかもしれません。


 「じゃあ、ジュードのパートナーとして傍にいます」


 素直に腕を絡めたら、ものすごく嬉しそうに『ああ、ずっと…一生でもいいぞ?』と囁かれた時は思わず赤面してしまいました。もう!耳元でこんなことを囁くのはズルいです!


 『王族の皆様がご入場されます。貴族諸君はカーテシーを』


 音楽が鳴りひびき、いよいよ王家一同が広間へと登場しました。

 ざわめく貴族の視線が壇上へと注がれます。

 ジュードも、今回は王位継承権の放棄と正式にブラインズ公爵の跡取りとしてお披露目があるため、今は一緒に壇上へと上っていました。


 …一人で待つ私は、セオドア様に一目だけでもお会いしたい…。でも姿を見たら諦められなくなるかもしれない…と心は乱れ、堂々巡りを繰り返していました。


 「王家の方々が一堂に会されるとさすがに圧巻ね…」


 「新しいブラインズ公爵様は王家の一族の方だったのね。王位継承権を放棄されたのなら私にも彼と婚姻するチャンスがあるかもしれないわ」


 貴族ご令嬢がヒソヒソと噂話を繰り返すのを何気なく聞きながら、私はそっと大広間の隅へと向かいました。

 …久しぶりの社交に疲れてしまったので少し外の空気が吸いたいと考えたからです。


 「あら?第一王子様がいらっしゃらないわ…?ご病気かしら…?」


 人ごみに紛れながらそろそろと移動している私の耳にそんな声が飛び込んできました。

 思わず壇上を見上げ、セオドア様の姿を探しますが、彼はどこにもいません。


 『セオドア第一王子様は本日、体調不良のため舞踏会は欠席させていただいております。残念ではございますが、ジュード様のお披露目でございます。皆様盛大な拍手をお願い致します』


 ファンファーレが鳴り響き、大きな拍手に包まれた会場を私はそっと抜け出しました。

 …あの魔力暴走の後で、セオドアはかなり衰弱していたと聞いたけれど、もしかしたら回復が遅れているのかしら…?それとも風邪で寝込んでいるとか…?


 本来、王家主催の催しというのは王家に連なる者は全員参加が義務付けられています。

 さらに今回は異母兄であるジュードのお披露目も兼ねている重要な舞踏会…。それにも関わらずセオドア様が欠席するなど本来の責任感のある彼からは考えられません。

 それ程に体調が悪いのでしょうか…?


 不安に駆られながら王宮の廊下をひたすらに歩き回っていると中庭へと出ました。

 いつもは一般貴族は入ることの許されない場所ですが、本日は舞踏会でこちらも解放されているようです。美しく咲き誇るバラを見ながら私はセオドア様のことで頭が一杯でした。

 …だから、気が付くのに一瞬遅れてしまったのです。


 「貴女もお一人ですか?私も一人で寂しかったところです。…ぜひご一緒しませんか?」


 突然、後ろから見知らぬ貴族男性に肩を抱かれた私は驚きのあまり、声も出ませんでした。


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