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66 全てを失った無能令嬢

「…ねえ、フェイ。二人がおかしくなったのが魅了のせいならば、精霊の魅了の力を消してしまえば良いんじゃない?例えば、精霊の力同士で打ち消すとか…そんな都合の良い方法はないかしら?」


魅了の力が消えればジュードもセオドア様も正気に戻るかもしれないのです。そうすれば、きっと彼らは再び仲の良い兄妹に戻るはず…そう思ったのですが…。


「お前の【ホワイトコア】にある世界樹の力を全てセオドアにぶつけて、魔力暴走と相殺させることで世界樹は枯れるし、ついでに魅了の力も消えるだろうな」


「ええっ⁈それだけのことで良いの?それなら…」


 言いかけた私に被るようにフェイが口を挟みました。


「世界樹の力を使いきれば世界樹は枯れる。そうなれば、精霊界との繋がりも切れるから確かにお前は魅了の力を失うが、精霊や穢れを祓う力の全てをお前は失うことになるんだ。もちろん俺達四大精霊を見る力すら無くす。…それでも良いのか?」


 四大精霊や精霊王様とも会えなくなる…。


 …公爵令嬢である私は社交界でも気軽に友人を作ることが出来ません。しかも無能令嬢と誹られているので、これ程に親しくなれた友人は彼らが初めてでした。

 でも…このまま手をこまねいていては、セオドア様が魔力暴走で衰弱して死んでしまうかもしれないのです。私には既に迷っている時間さえありませんでした。


「今まで本当にありがとう。フェイや精霊のみんなは私にとってかけがえのないお友達だったわ。もう会えないとしても、世界中のどこかで幸せに暮らしていると思うだけで私は幸せなの。…でも、私がここで世界樹の力を使わなければセオドア様は確実に不幸になってしまう。…私の命に代えても彼を…セオドア様を救いたいの…」


 だからお別れね…。その言葉を涙と共に飲み込むと私は微笑みました。


「世界樹の力を…私の全てを使って彼を助けてくれる?フェイ…お願いよ…」


「まあ…多分、お前はそう言うと思っていたよ。お前と一緒に居られて本当に楽しかった。会えなくなっても俺たちは友達なんだろう?絶対に忘れるなよ…」


 最後の方はかすれてよく聞き取れませんでしたが、この世界のどこかで彼らは生き続けて行くのです。…もう会えないとしても…。


 フェイからの音信が無くなり、またドロリと濃い闇が辺りを包みました。

 どれくらいの時間が経ったのか不安になった頃、突然、胸が熱く燃えるような痛みを感じました。

 ああ…これは…この全身を焼かれるような熱い痛みには覚えがあります。。

 初めてセオドア様の魔力暴走に巻き込まれた時にも感じた痛みと熱量が、またも私の体全体を震わせ始めました。

 きっとフェイが私の望みを叶えようとしてくれているのでしょう。

 …お願い…セオドア様を救って…そこで私の意識はまたも途切れました。


 

 目が覚めた時、私はグレイソン家…自分の部屋のベッドに眠っていました。


「まさか…あれは…全て夢だったの?魅了の力とか…セオドア様の魔力暴走のことも…」


 そうだったらどんなに良いでしょう。

 その時の私は、何故か体に力が入らず、ベッドから起き上がることも出来ない状態でした。

 しばらくして、イオナが部屋に入ってきた気配がします。瞼を動かすことすら辛かった私は必死に、『イオ…ナ…』とかすれた声で呼びかけました。


「っ⁈…アメリアお嬢様‼気が付かれたのですね⁈」


 手に持っていた花瓶を取り落とすほど、この時のイオナは慌てていました。私はどれくらいの時間気を失っていたのでしょうか?


「直ぐにお医者様と奥様をお呼びしますので…ああ、何か召し上がれそうですか?」

バタバタと走り去る彼女の姿に、ここが現実なんだと実感しました。


「かなり衰弱していらっしゃいますが、お命に別状はありません」


 お医者様の診断に、枕元に駆け付けたお父様、お母様も安堵したのが判りました。


「ただ…今回倒れられたことで、アメリア様の体には相当なご負担になられたご様子。…また外見が変わられるとは、何とも変わった病気ですな」


 お医者様の言葉に私は部屋に備え付けられている鏡を見つめます。

 …淡いねぼけた銀色の髪に地味で華やかさのかけらもないグレーな瞳…。昔の無能令嬢と呼ばれていた頃の私がうつろな目をして鏡に映っていました。


「とりあえずは、栄養を取ってしっかりと静養なさって下さい。少し瘦せ過ぎですから滋養のあるものをたくさん食べて、早くお元気になられることを祈っていますよ」


 お医者様は私の診察を終えると部屋を出ていきました。


「あの…セオドア様はあの後どうなったんですか?もう魔力暴走は落ち着いたのでしょうか?」


 私の必死に縋る勢いに気おされたのか、お父様が息を呑むのが判りました。


「セオドア様の魔力暴走が突然収まった後で、アメリアの封印も解除された。…今は彼も衰弱しているようだから誰も会うことは出来ないと聞いているよ」


 そこまで言うと、困った顔で私を見つめました。


「アメリア…今回のことで正気に返ったジュードもショックを受けている。…アメリアに直接謝りたいと…。どうするかね?」


「今は…まだ、ジュードの顔を見ることは出来そうにありませんわ…」


 私の魅了の力のせいだとしても、彼の行為を思い出すだけで恐ろしく、今は顔を見ることさえ出来そうにありません。

 お父様は『そうか…』とだけ答えました。


「今回、オールヴァンズの王家直系の王子が婚約者の首を絞め殺そうとし、あまつさえ封印する等と大罪を犯したことで、セオドア様は廃嫡される可能性がある」


 …セオドア様が廃嫡…?今まであれ程に国の為に、民の為にと頑張ってきたというのにこんなことで継承権をはく奪されるというのですか…?


「…もしも、アメリアが王家を訴えればその可能性もある。それにセオドア様のお前に対する執着は異常だ。…このまま婚約を続ければ、いつまた今回のような騒動が起こるかもしれないと国王様もご心痛な様だ。…だから…」


 そこまで言われれば鈍い私でも分かりました。

 今回の事件は王家にとっても大変な醜聞なのです。だからこそ、私とセオドア様を引き離したいというのは当たり前の選択でしょう。


「私はセオドア様と婚約を解消します。…ですから、セオドア様が廃嫡などされませんようにお父様もご尽力下さい。…彼とは二度と会いませんから…」


 それだけ告げると、私は『一人にしてください』と部屋から全員を追い出し、そのまま泣き崩れました。

 …もう、私がセオドア様と結ばれることは永遠に無いのです。


 そして、全てを失った私は無能公爵令嬢に戻ってしまったのですから…。


※誤字脱字報告ありがとうございました。

 気を付けているつもりでも見落としってあるんだなと反省!今後もよろしくお願いします。

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