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64 逃れられない執着

「アメリア、お前のことが好きなんだ」


ジュードはそのまま、私に口づけました。

あまりにも激しく嚙みつくような口づけに必死で抗おうとしますが、それすらも彼にとっては興奮材料になっているようでした。


「お願い、正気に返って!いつもの貴方では無いわ…。どうしてしまったというの⁈」


唇から、首筋や肩へとむきだしの肌に何度も口づけると、彼の行為はエスカレートし、今度はドレスの上から体中を弄られます。


「もう許して…こんな無理やり…」


泣きながら懇願しても、ジュードは我を忘れたような焦点の定まらない目つきで私を無理やり抱き込もうとしました。

恐ろしさで体が強張り、うまく抵抗することも出来ない私はパニックを起こしかけていました。

ドンドンドンっ‼性急に入口の扉を叩く音がします。イオナでしょうか?


「アメリア様!悲鳴が聞こえましたが大丈夫ですか⁈」


「イオナ⁈…助けてーっ‼」


慌てて戻ってきてくれたであろうイオナの声に『これで助かった』と思ったのもつかの間で、知らぬ間に扉には鍵が掛けられていたようです。ドンドンと扉を叩く音だけが部屋に空しく響きました。


「アメリア…もう諦めて俺のモノになってくれ。今からお前を抱けば王家に嫁ぐことは出来なくなるだろう?そうすれば傷物になったお前は俺のモノだ…」


そう言うジュードの瞳はほの暗く、異常な熱を孕んでいます。


「ジュード正気に戻って!いつもの優しい貴方に!…お願いだから…」


繰り返し懇願しても、彼の目は焦点も合わず、うわ言のように呟くだけでした。

そのまま、必死に抵抗する私を軽々と抱きかかえるとソファへと横たえられました。

私を組み敷いた彼は私の両手を持っていたハンカチで拘束します。


「ああ…これでお前を一生俺のモノに出来る…セオドアには二度と会わせない…」


楽しくてたまらないと言った風情で私の胸元を弄る彼の目には私は映っていないようでした。

…彼の周りに見える黒い影と彼の行動に関連があるのか分かりませんが、私はこのままではジュードに無理やり体をあばかれてしまうでしょう…。


口惜しさと、己の迂闊さにどうしたら良いのかわからず、私は心の中で必死にセオドア様を呼びました。ごめんなさい、ごめんなさい…セオドア様…愛しています…。

抵抗することを諦め、目をつむった瞬間、一粒の涙が頬を流れるのが判りました。

それと時を同じくし、いきなり私の頭上で爆発が起き「うわぁっ⁈」と言う声が聞こえたかと思うと、私の上にいたジュードの重さが消えたのです。


「ジュード…貴様…アメリアに何をしようとしていた⁈」


 まさか…この声は…?目を開けると、ソファーの横には何故かセオドア様が立っているではありませんか。

「ええ?…なんで…?どうしてここに…セオドア様が?」


 私を組み敷いていたはずのジュードは気を失っているようでピクリとも動きません。先ほどの爆発に吹っ飛び、部屋の隅に叩きつけられてしまったようです。

 私は先ほどまでの恐怖と、セオドア様のお顔を見た安心とで涙が止まりませんでした。


「アメリア、大丈夫?彼に何もされていないかい?」


 そう言いながら抱きしめてくれるセオドア様が嬉しくて、私は自分から口づけました。


「怖かったです…でもセオドア様が助けてくださいましたから。もう大丈夫です」


 先ほどまでの不安から一転、私はセオドア様に甘えたい気持ちになっていました。いつもであれば恥ずかしくて出来ない事なのに、久しぶりに会えた嬉しさから何度も口づけをして、傍に寄り添ったのです。…自分がコルセットもドロワーズも付けていないことも忘れて…。


「そう言えば、セオドア様はリーチェス王国にご公務で行かれていたのでは?どうしてここが判ったのですか?」


 先ほどから気になっていたことを尋ねると『ああ、アメリアには危険が迫った時にだけ発動する守護の魔術をかけておいたから』と事も無げに言われました。

 私は守護の魔術なんて聞いたこともありません。

 実は、王家に伝わる秘術の一つで、大切な人物に危険が迫ると発動して駆けつけることができる魔術だそうです。


「隣国に居たら発動しなかったかもしれない。ちょうどオールヴァンズに到着した直後で助かったよ」


 セオドア様は笑顔で言いますが、私には疑問が残りました。


「…あの、そんな魔術をいつかけて頂いたのでしょうか?」


「え?いつも抱きしめて口づけしていたでしょう?」


 …守護の魔術は王家がたった一人の最愛の人に掛ける魔術なので、魔術を使用する相手に口づけし、魔力で重ね掛けするのが必要なのだそうです。

 だから出立の時にも何度もキスされていたのですね…おかげで助かりましたが。


「それで、アメリアはなんで離宮なんかで、コルセットも、ドロワーズも付けずにいるのか教えてもらっても良いかな?」


 …先ほどから、私の腰のあたりをむやみやたらに撫でていらっしゃるな…とは思っていましたが、私の現状に気が付かれていたようです。しかもそのほの暗い笑顔…。

 私は思わずゴクリと喉を鳴らしました。

 …まさか、王子様達の乱入を受けずに【閨教育】をすることを目的としてセオドア様達を隣国へ向かわせていたとは言えません。

 せっかくお膳立てしていただいた王妃様の為にもここは何とかバレずに回避しなくては‼


「あの…そう言えば一緒に行かれたリアム様はどうされたのでしょうか?」


 何とか会話を逸らそうとしますが、セオドア様の視線は私の嘘を見抜こうとするように鋭いままでした。


「私は守護の魔術で空間移動してきたからね、あいつのことは知らないよ…」


 そう言うとソファに私を組み敷いた状態で『アメリア…?まさか、ジュードに体を許したわけでは無いよね?』と冷たい声で私を見下ろします。

 そんな…まさか疑われるとは思わず、驚きのあまり目を見開くと『そうだよ、既にアメリアは俺のモノだからな』と声が聞こえました。


「ジュード⁈気が付いたのね!…どうしてあんなことを…?」


 私の言葉をニヤニヤしながら聞くジュードの瞳はどこかうつろで、熱に浮かされたような状態のままでした。やはり周りに黒い霧のようなものが見えます。


「俺に抱かれたアメリアは堪らなく愛らしかった。…彼女の痴態を見たのも俺だけだからな…アメリアはもう俺のモノなんだよ…」


 ブツブツとうわごとの様に呟きますが、その目は私を見てはいませんでした。


「アメリア…信じていたのに。君は私では無くジュードを選んだのか?…私を裏切ったんだね?」


 セオドア様は冷たい目で私を見下ろすと、静かに私の首に手を回して、そのまま力を籠め始めました。

「いや…私は裏切ってな…苦し…止め…」


 必死にもがきながら逃げようとしても、のしかかる重みはビクともしません。


「アメリア…愛しているのに…君はどうして受け入れてくれないんだ…」


 苦し気に呟くセオドア様を息も絶え絶えになりながら見上げると、彼の周りに黒い瘴気のような物が集まってくることが判りました。…まさか、【穢れ】の魔力でしょうか? 

 この黒い霧は先ほどのジュードの周りにも見えました。【穢れ】は全て消えたはずでは…?


「君は私のモノ…誰にも見えないところへ…」


 セオドア様の表情が真っ黒な【穢れ】に覆われた瞬間、私は意識を手放しました。


遅くなってすみませんでした。

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