62 執着だけではなく性欲まで強いなんて聞いていません‼
「アメリア様、ようこそお越しくださいました。私はこの離宮を管理しております侍女頭のディーナでございます」
離宮に到着すると、早速王宮から派遣された侍女頭が現れ私たちを迎えてくれました。
「ディーナ、あなたとは王宮でもお会いしたことがありますね?今回も世話になります」
挨拶すると、嬉しそうに何度も頷きます。
「勿体ないお言葉でございます。今回の【閨教育】には極力男性が関わることに無いようにと王妃様から申しつけられておりますので、特別に私がこちらへ参りました」
確かに【閨教育】の場に男性がいるとエンネル王女も不安に感じると思われますし、妥当な対応に思われます。そこまで考えて下さる王妃様の温かいお心遣いに感謝いたしました。
きびきびとした動作で立ち働くディーナは、私とイオナを離宮の客間へと案内してくれました。
「こちらのお部屋で、既にエンネル王女様がお待ちでございます」
既に客間に通されていた愛らしい少女が、私を見るなり嬉しそうに飛びついてきました。
「アメリアお姉さま!エンネルはお姉さまにお会いしたかったです」
無邪気に微笑む、その笑顔のなんと可愛らしい事でしょうか。
私は一人っ子ですから、妹が出来たようで可愛くて仕方ありません。
「エンネル王女様をお待たせしてしまったようですわね。申し訳ございません」
「エンネルって呼んでください!私はそんな他人行儀な呼び方をお姉さまにされたくありませんわ!それに敬語も嫌です!…もっと仲良くしてほしいのですが…ダメですか?」
カーテシーをする私の言葉に頬を膨らませると彼女は可愛らしく強請られました。こんなに素敵な王女様に強請られたら、私も甘やかしてしまいたくなります。
「ウフフ、判りました。じゃあ、これからはエンネルと呼ぶわね。仲良くしましょう」
そう伝えると嬉しそうに頷きます。なんて無邪気なお姫様なのでしょう…。
「今日からはアメリアお姉さまと二人っきりで一週間も一緒に居られるのね!私嬉しすぎて昨日は眠れなかったわ!早速、何をして遊びましょうか」
「あら?エンネルは私とお勉強の為にここに来たのよ?本来の目的を忘れていないかしら?」
「…そう…ですわね。私は閨のついて学ぶためにここへ来たんですもの…」
それまではしゃいでいたのに私の言葉にみるみる萎れるところもまだまだあどけなく、幼さを感じます。
「でも、お勉強が終わったら時間はあるものね?貴女がお勉強を頑張ったらその後は一緒に遊びましょう」
「お姉さま、それは本当ですか?嬉しい!私お姉さまに見せたい精霊のご本が沢山あるの」
しょんぼりしていた表情がみるみるうちに笑顔に変わります。本当に可愛らしい。
きっとリアム様もエンネル王女の無邪気な可愛らしさに惹かれて婚約を了承したのでしょう。
「そう言えば、その後、リアム様とは仲良くなれたのかしら?」
お茶を頂きながら、聞くともなしに尋ねると、エンネルはニッコリほほ笑みながら『ええ、利害の一致をみましたのよ』と答えました。…何でしょう?エンネルが少し…腹黒王子様に似た笑みを見せたような…?
「私たちが婚約すれば、私もお姉さまと一緒に居られますし、リアム様も無理やり別の女性と婚約させられることは無いからですわ」
サラッと言いますが、それでは婚約ではなく契約ではないのでしょうか?
…まだ幼い二人ですし、今はまだそんな関係であってもいつかは恋に変わるかもしれません。私は気にしないことにしました…。
「初めまして、私は今回の講師を務めさせていただきますロッテ・シャン・フーデュと申します。私の本業は王妃様付きの薬師ですが、【閨教育】の指導係もしております。それでは、本日より【閨教育】を開始でよろしいでしょうか?」
部屋に入ってきた女性はまだ20代ぐらいの眼鏡をかけた小柄な女性でした。
もっとご高齢の方がいらっしゃるとばかり思っていましたので、内心驚きます。
「あの、閨教育とは具体的にどのようなことを学ぶのでしょうか?」
エンネルが手を挙げて質問すると、フッと口の端を上げて笑います。
「閨とは夫婦の営みのことでございます。つまりは夫と妻が体を繋げ、女性の体内に夫からの子種を宿らせる行為…ですわね」
サラッと仰いますが、聞いたエンネルは呆然とロッテ先生を見るばかりでした。
…私も頭では解っていても実際に言われると自分にそのような行為ができるのか不安になります。
「お二人はオールヴァンズ王家に嫁がれるご予定と伺っております。王妃様からもくれぐれもよろしくと言われておりますし、先に申し上げますわ」
ロッテ先生は私たち二人を見つめるとニッコリほほ笑みました。
「オールヴァンズ王家の男性は非常に性欲が強く、一度愛されると側妃も置かないことで有名でございます。正妃となられる方は月のモノがある時を除き、ほぼ毎日のように夫婦の営みを求められると聞いておりますし、一晩での回数もかなり多いかと…。ですから、ご自分の身を守るためにも、今回の【閨教育】で技巧を学んで頂きたいと思っているところですわ」
…とんでもない事を言われた気がいたします。
「王家の方々はそれ程に性欲が…その強い…のでしょうか?ロッテ先生の知る一般の男性と比べても?」
私は思いきって尋ねました。重要な問題ですから、恥ずかしがっている場合ではありません!
ロッテ先生は私を見ると気の毒そうな目をされ、頷きました。
「アメリア様はセオドア様の婚約者…ですわね?」
私が頷くと、ロッテ先生は小首をかしげながら全身を眺めます。
「代々、オールヴァンズ国王様の性欲は魔力量が多いほど強いと言われています。現国王様もかなり激しいと王妃様も嘆かれて時々腰の痛み止めを処方していますから…。」
夫婦の営みになぜ腰の痛みが関係するのかは分かりませんが、国王様が激しいことは分かりました。
「でも現国王様より、さらにセオドア様の魔力量は数倍、多いと思われますので、恐らく性欲も数倍…一晩で何回営みをすることになるのかはちょっと予測できませんわね」
…それを私一人で全て受け止められるのでしょうか?
「それにセオドア様のご様子を見る限り、アメリア様に対するそれは溺愛の域に達しております。側妃を持たせて性欲を分散するという手段は恐らく危険かと…」
確かに、そんなことを進言したら『アメリアは私が他の女性を愛してもいいのか』と執拗に攻められそうです…。
下手をすると『私の愛を判ってもらえるまで部屋から出さない』と拉致、監禁…あり得ます…。恐怖でしかありません。
「それにエンネル王女様も他人事ではございませんよ」
いきなり矛先が向いたエンネルは驚いてロッテ先生を見つめました。
「まだ幼いとはいえ、先日の魔力暴走を見る限り、リアム様も相当な魔力量の持ち主ですわ」
さすがは王妃様専属の薬師です。リアム様の魔力暴走事件についても知っているのですね。
「セオドア様と同じくらい性欲が強いと思われますので、今のうちに受け止めるだけの体力と技巧を身につけておかないと貴女の体も持ちませんよ!」
すっかり黙り込んで青ざめる私たちを見るとロッテ先生はニッコリ微笑みました。
「夫婦の営みに必要なのは体力と技巧です。愛は後から付いてくる!さあ、先ずは体力作りから始めましょう!」
ロッテ先生の鬼の訓練…もとい、【閨教育】が今、始まろうとしていました。
※全年齢を対象として書いているので、直接的な表現は避けたつもりです。語彙力が欲しい…。




