61 閨教育
いよいよ王妃教育も終わりに近づいてまいりました。
王宮で学ぶべき礼儀作法やダンスマナー、国母としての対応に更にはオールヴァンズ王国の税収に至るまで様々に学ぶべきことがありました。
私もいよいよセオドア様と婚姻を結ぶための準備が整いつつあります。…ただ一点を除いて。
そう、後は【閨教育】を学ぶだけとなったのです。
「アメリア、以前お茶会でも話したけれど、閨教育は王妃にとって世継ぎを作る上でも重要なことです…だからセオドアの目を盗んで学んでもらう準備を進めているところよ」
オリバレス王妃様が真面目に仰いました。
…セオドア様の元に嫁ぐために学ぶことを、セオドア様の目を盗んで学ぶ…というのもおかしな話ではありますが、以前セオドア様が『私が実地で教えてあげるよ』とサラッと仰っていたことを思えば…仕方のない話です。…まだ婚姻前ですから。
「それでね、リアム王子の婚約者も決まったことだし、お相手のエンネル王女はまだ12歳、一人で閨について学ぶのは心細いと言うの。ぜひ、二人で一緒に先生のお話を聞いたらどうかしら?」
王妃様の提案は私にとっても願っても無い事でしたので、直ぐに承諾しました。
やはり閨ごとについて学ぶのは恥ずかしく、一人では私も心細かったのです。
「アメリアが快諾してくれて良かったわ。念のために、一週間はセオドアとリアムの二人はリーチェス王国へ婚約の挨拶と表敬訪問をさせて留守にさせておくから。安心して学ぶのですよ」
…王妃様、そこまでされるほどに王子様達は危険な方なのでしょうか?すっかり暴漢扱いされておりますね?
「それと、閨教育の場には王宮の離宮を使用して、王宮魔術団に結界を張らせます。貴女がたの魔力でセオドアに居場所を察知されたら貴女が危険ですからね」
…私の婚約者様のお話しですわよね?…犯罪者の話ではなく…?
色々と疑問はありましたが、王妃様の勧めに従い、離宮に一週間の間寝泊まりして学ぶことになりました。…本当に何を学ばされるのでしょうか?
そのお話を頂いた、さらに二週間後にセオドア様とリアム様がリーチェス王国に旅立つ日がやってきました。
「アメリア、私は鬼のような義母王妃に隣国への表敬訪問をさせられて君と一週間も会えなくなるんだよ…寂しすぎて死んでしまうかもしれない…」
セオドア様が私の手に口づけながら切々と訴えられます。…私たちの身の安全の為に公務で国から追い出しているとは言えません。
「ええ、お話は伺っております。寂しいですが、ご無事でお戻りくださいますようお祈りしています」
私が話している間もセオドア様の唇は至る所に降ってきます。
「アメリアに会えない間に悪い虫が付いたらどうしよう…心配で夜も眠れないし、行くのは止めようかな…」
今度は強く抱きしめられ、耳元で囁かれました。
「セオドア様のお気持ちは私も嬉しく思いますが、将来国を背負っていく立場の者がみだりに我が儘を通してはなりません。…私も寂しさを我慢致しますから、しっかりとご公務を果たしてくださいませ」
必死で私を強く抱きしめるセオドア様を説得します。
…だって、ここは私の私室では無くグレイソン家の庭先なのです!父も母も後ろで控えている状態でこんな熱い抱擁をされるのは恥ずかしすぎますもの!
「セオドア兄様!いい加減にしてください。アメリアも困っていますし、さっさと出発しないと到着が遅れますよ!」
あまりに未練がましい態度にイライラしたのか馬車から身を乗り出すとリアム様もキツイ口調でセオドア様を咎められます。
…最近のリアム様はいきなり身長も伸び、急に大人びた外見になられました。きっと婚約者を得て、次期後継としての責任感が芽生えたのでしょう。素晴らしいことです。
「セオドア様お気をつけて!アメリアには悪い虫が付かないようにこの父がしっかりと見張っておきますからね!それでは!」
お父様はそう言うと、セオドア様の背中をグイグイと押して無理やり馬車へと押し込みました。
…王子様に向かって何という事を…不敬罪にならないと良いのですが…。
「アメリア~!絶対に浮気しないでおくれ~、ジュードや精霊王にも甘い顔を見せてはいけないよ~!できれば顔を併せないでくれたまえ~…」
…遠ざかる馬車から身を乗り出してまで、叫ぶほどの内容なのでしょうか…。
「よし、それじゃあ五月蠅い王子様もいなくなったことだし、夕方の風は冷えるからね。風邪を引かないうちにアメリアも屋敷に入ろうか」
お父様がご機嫌で私の肩を抱きました。五月蠅いって…お父様…。
翌日からは早速、王宮の離れに位置する離宮へ泊まり込む手筈が整いました。
我が家からはメイドのイオナが私の世話係としてついてきてくれることになりました。
「アメリアが辛いのなら、無理に王家に嫁がないでも良いのだよ?大体、閨教育なんてまだ早すぎる…。いっその事公爵家に養子を迎えて、アメリアはこの家にずっといたらいいじゃないか!」
お父様はそう仰いますが、私も既に17歳です。このままセオドア様の元に嫁ぐにしても、まったく閨ごとの知識が無い状態ではあまりに不安ですし、怖いです。
王妃様からも世継ぎを作ることも大切な仕事だからと励ましていただいた以上、恥ずかしい等と泣きごとを言っている場合ではないのです。
…今だって既にセオドア様に公衆の面前で抱きしめられたり口づけられたりと辱めに耐えられたのですから、きっと【閨教育】も無事に切り抜けられるはずです!
「どんなに恥ずかしくてもしっかり学んでまいります。私、頑張りますわ」
私はこの後、どれ程自分が甘い考えでいたのかを思い知らされることになりました
セオドア…ウザい…。




