60 リアム王子の婚約者
私の名前はエンネル・ミント・リーチェス。年は12歳になり、花がほころぶ美しいお年頃といったところでしょうか?
東の端に位置する小国ではありますが、宝石の産出で豊かな財政を持つリーチェス王国の第3王女でございます。
私は幼い頃から、政略結婚するのだと聞かされて育ちました。ですから、恋もしたことはありませんし、これからも無いことでしょう。王族である以上は仕方の無いことです。
そして、この度このオールヴァンズ王国の第2王子であらせられるリアム様と婚約する運びとなったのですが…。
「ああ、エンネル王女こんにちは。…今日もお元気そうで何よりですが、僕は貴女と婚姻を結ぶつもりはありませんから」
…これです。この王宮に滞在を始めてからというもの、リアム様と毎日顔を見るたびに私に興味が無い、好きではないと言い続けられて私のストレスはピークに達しておりました。
「あら?リアム王子ご機嫌いかがですか?…まあ、婚約者候補にまで気分を害するようなことを平気で仰る貴方ですもの、いいわけありませんわね。ホホホ」
そう返してやると、ムッとしたような顔をします。
…実は、初めて絵姿を見た時、私はリアム様があまりに可愛らしいので、妖精がこの世にいるなんてと感動したのです。…近隣諸国には妖精や精霊が存在するらしいと聞いたことはありますが、リーチェス王国では見たことが無いものですから。
だからこそ、こんなに美しく愛らしい方と婚姻を結べるのかと私はオールヴァンズ王国に来る日を心待ちにしていました。
…そして、初めてお目にかかったリアム様は絵姿以上に美しくて愛らしい方でした。
淡いグリーンゴールドの髪はサラサラでエメラルドグリーンのつぶらな瞳も小さな唇もまるで女の子のよう…思わずウットリと見とれてしまいました。
…それなのに、口を開いたリアム様は辛辣でした。
「せっかく来ていただきましたが、私はリーチェス王国の姫とは婚姻を結ぶ気持ちにはなれません。お引き取り下さい」
いきなり初顔合わせで断わられた女の気持ちがお判りですか?
いくら私の容姿が好みではないからといって、政略結婚をあんなに簡単に蹴ること等考えられません。…ショックのあまり真っ白な顔で立ちすくむ私を見かねた国王様から
「リアムはいきなりの婚約に気が動転している様子。落ち着くまでエンネル王女もぜひ、王宮に滞在してもらいたい」と言われ、今もこうして王宮にいるのですが、仲良くなれる兆しすら見つからないままに日々が過ぎていくのです。
「大体、国のための婚姻を好き嫌いで覆すなど、お子様の考えることではありませんか?」
リアム様に嫌味を言ってやると、益々むくれた顔で「…国のための婚姻なら、セオドア兄様と君が婚姻を結べばいいだろう⁈そうすれば…」と何かを言いかけると踵を返して行ってしまいました。
…失敗です。
…ここまで拗れたら私たちの婚姻が上手くいくわけがありません。でも、セオドア様にはたしか、正式に認められた婚約者様がいるはず…。私にお義兄様と婚姻しろなどと言うあたりリアム様は何を考えているのか…。
鬱々とした気分のまま、部屋へ戻るのもためらわれます。私は侍女を部屋へ返し、一人王宮の庭へと出ました。
「さすがは魔法大国のオールヴァンズ王国だわ。季節外れのバラがこんなに咲き誇っているなんて…」
色とりどりのバラが鮮やかに咲き誇る庭園は素晴らしい眺めでした。
ウットリと咲き誇るバラを見ているだけで、私の心も少し慰められるような…そんな気持ちです。しばらく歩くとガゼボを見つけ、そこで休むことにしました。
「…もう、リアム様との婚姻は諦めて帰国した方が良いのかしら…」
そうすれば今のような宙ぶらりんな状態からは抜け出せますが、政略結婚すら失敗した私ではリーチェス王国に帰っても居場所が無いのも現実です。きっとルカお兄様には『どうせそうなると思っていた』と辛らつな言葉で攻められるに決まっています。
…どうしたら良いのか判らず思わず涙が零れました。
「貴女…顔色が悪いけれど大丈夫?どこか苦しいところがあるの?」
いきなり近くで声がして、私は驚きのあまり顔を上げました。
そこには銀色の髪を風にたなびかせ、優しく微笑む金色の瞳を持つ女性が立っていました。思わず息を呑んで見つめてしまいます。
「どこか痛くて泣いているの?私で力になれることはあるかしら?」
そう言いながら、その女性は私の傍へとやってきました。…なんて美しいの…。
人ではない美しさと言いますか、肉感的なものが全くなく、まるで精霊のような…。
もしかしたらこの人はこのバラの精霊かもしれません。私のロマンチック回線がそう告げていました。
「いえ、苦しくも痛くもありません…貴女は私を心配して出てきたバラの精霊様ですか?」
美しい彼女は私の言葉に微笑むと「フフ…貴女がお話をしやすいならそういう事にしましょうか」と私の涙を拭ってくれました。
私はそのままバラの精霊様に今の状況をお話ししたのです。
「そうなの…リアム王子にも困ったものね…」バラの精霊様はそう仰ると私を見つめました。
「こんなに愛らしいお姫様に悪態をつくなんて、きっと恥ずかしさのあまり逆のことを言っているのだと思うの」
バラの精霊様の言葉に私は驚きました。
「私が愛らしい…?今まで、褒められたことなんて一度もありませんわ。嘘はおよしになって」
そう言うとバラの精霊様は悲し気に微笑まれました。
「こんなに美しいフワフワの金の髪もブルーの潤んだ瞳も私はとても綺麗だと思うわ。自分の美しさをもっと誇りなさい。貴女はこれから花開くバラなのだから」
…今まで、一度も容姿を褒められたことの無い私は驚きました。何をやっても平凡な茂績しか残せず、私は役立たずの第3王女と呼ばれていたのですから。
「バラの精霊様も…本当の私を知ったらがっかりするわ。だって何をやっても平凡な成績しか残せないんだもの」
そう言うと、「まあ、貴女って凄いのね」と言われ、唖然とします。
「何をやっても平均まで出来るなんて素晴らしい才能だわ。どんなことにも対応できる王妃の資質があるという事ですもの」
…なるほど、そう考えることも出来るのですね…。
「一つに秀でなくてはと考えて自分を卑下するのはやめて。貴女は様々なことができる素晴らしいお姫様だわ。きっとリアム王子も今に貴女の魅力に気が付くはずよ」
そう励まされ、私の心はいつの間にか温かいもので満たされていました。
今まで、誰からも認めてもらえなかった私が異国の地でこうして認めて貰えたのですから。
すっかり私の心はバラの精霊様に奪われていました。…これが恋かもしれません。
「…そろそろ時間だわ。今日はお話しできて嬉しかった…また会いましょうね」
そう言うと、バラの精霊様は咲き誇るバラの中へと消えていきました。
…もっとお話ししたかった…。でも精霊様に今度会えた時には自信をもって「リアム様の婚約者になりました」と報告できるように頑張ろう。
私はそう誓い、翌日から更に激しくリアム様を追いかけまわすようになりました。
いつか、根負けしたリアム様に「私と婚姻を結んでください」と言わせるために!
…後日、バラの精霊様の正体がセオドア王子様の婚約者アメリア様だと知り、
「リアム様と婚姻を結べば彼女をお姉さまと呼べる‼しかも姉妹として仲良くして頂けるわ‼」と
リアム様を追い回す熱意が高まったことは内緒ですよ。
※リーチェス王国のルカ王子は後日投稿予定のスピンオフ作品に出ます。
…まだタイトルが決まっていないのですが(笑)興味がある方はそちらもよろしくお願いします。




