59 王家の男は執着が激しい
「アメリア、王妃教育もかなり進んでいると聞いていますよ」
「はい。皆様にご指導いただき、私もしっかりと勤めを果たせるように励んでいるところでございます」
ここは王宮の中庭にあるガゼボです。王族専用の庭のため、本日はオリバレス王妃様にご招待いただき、お茶会をすることとなりました。
さすがは王族しか立ち入ることの出来ないお庭だけあります。色とりどりのバラが季節を問わず咲き誇り、ガゼボを彩っているのですから。
「私もやっと落ち着き、少しずつ公務を再開し始めているところなのよ」
オリバレス王妃様は、【英雄】の事件の後、お倒れになられ、しばらく床に臥せっていらっしゃいました。
やはり、ご自分のお父様が罪人になったことや、自分自身の辛い過去も思い出されて苦しかったのだと思います。幸い過労とのことでしたので、無理に魔法での治療はせず、ゆっくりとご静養いただくことにしたそうです。
その間、国王様がお傍につきっきりで看病されていたと聞きました。…愛されていることを自他ともに示されて、国王両陛下の仲が益々深まったと評判でございました。
…公務を丸投げされたとセオドア様が憤っていらした以外は内外の評判も良好だったのではないでしょうか。
そのセオドア様ですが、「ちょっと補給させて貰わないと頑張れない」と言っては膝枕をねだったり、口づけをされたりと私に甘える頻度が多くなったのは…ちょっと恥ずかしいですが。
でもそれを伝えると「王妃になるということは私の心身ともに支える存在でいてもらうことも必要なんだよ。これは王妃教育の一環だから」と毎回言いくるめられてしまうのです。
おねだりする表情まで甘くて美しいなんて、女として自信を無くします。
「アメリアもしっかりセオドアを支えてあげて頂戴ね」
そう微笑むオリバレス王妃様は、以前のような棘も無くなり、お幸せそうな表情になられたと思います。国王陛下と円満な関係でいらっしゃるからでしょうね。
「はい。既にセオドア様から王妃教育の一環だからと、膝枕や抱きしめて愛を囁かれたりとか…あと口づけ…もして、私も王を支える存在になれるよう頑張っています」
恥ずかしいけれど同じ王族に嫁ぐ者として王妃様になら、こんなこともお話しできます。以前からは考えられないほど親身になってくださいますから。
するとオリバレス王妃様は怪訝な顔をなさいました。
「…ちょっと待って頂戴‼…それは…嫁いだ後の、未来の話…なのかしら?」
「…?いえ、最近のセオドア様とのお話しですけれど…」
その瞬間、オリバレス王妃様が深いため息を吐かれました。
「まったく…どうしてあの王子は…国王が国王なら王子も王子ね…」
…どういう事でしょうか?
疑問に思う私に、オリバレス王妃様は少し困ったようにほほ笑まれました。
「アメリア、貴女もいずれは王室に嫁ぐ身だからお話ししますけれど、この国の王家に連なる者は皆、愛する者への執着が激しいのよ…」
執着が激しい…?どういう事なのでしょうか?
「【英雄】が愛した人の魂を自分のモノにしようと執着していたことは貴女も知っている通りですけれど、その子孫である王家の男性陣は皆、一度愛した者を手放すことは絶対にしないわ。もちろん側妃を置くこともほとんど無いから、その執着は正妃一人に注がれるのよ…それを人に取られるくらいなら監禁や拉致ぐらいは平気でしかねない一族なのよね」
…今、王妃様がサラッと恐ろしい言葉を仰った気がします。…拉致…監禁…それは犯罪行為…ですよね?
「相思相愛になれれば幸せだけれど、たとえ相手が望まなくても手に入れたい…そんな執着心を持っている。これも【英雄】血脈のなせる業なのかしら。…だからね、貴女も王家の男性に愛される覚悟がこれから必要になると思うわ…」
そう仰ると、私の手を強く握りしめます。
「…これから【閨教育】も始まると思うけれど、今の貴女には想像を絶する辛さと恥ずかしさが待っているわ。…でもね、セオドアの求めるモノは多分それを上回るから…大変だけれど、頑張って頂戴ね」
…あの…想像を絶する辛さと恥ずかしさって…どんなことを私は学ばねばならないのでしょうか?
不安に思い固まっていると「ああ、ここにいたんだね」と声がしてふわりと後ろから抱きしめられました。…セオドア様?
「セオドア?貴方たしか公務中でしょう?どうしてここへ?」
王妃様に咎められると僅かに眉を吊り上げ、「愛しの婚約者殿がお義母様とお茶会だと知り、急ぎ来たのですが、何か問題がありますか?」と自然に私の隣へ腰かけられました。
「あら?私はセオドアを招待した覚えはなくってよ?」と王妃様が言っても「ええ、勝手に来ましたから」と平気な顔で応酬できる辺り恐ろしいです。
「先ほどから、何の話をしていたの?私にも教えてくれる?」
ニコニコして聞かれても、答えられる訳がありません‼背中を冷たい汗が流れる中、黙っていると、王妃様が助け舟を出してくださいました。
「…セオドアが最近アメリアに膝枕やキスを強要するから困っていると相談を受けていたところよ」
シレッと王妃様がお茶を飲みつつ仰います。
いやーっ⁈王妃様、そんな恥ずかしいコトを言わないで下さい‼
「ふーん、アメリアは私と仲良くするのを嫌がっているとお義母様に言ったのですか?」
…ああ、セオドア様の目が笑っていません。…怖いです。
「嫌がっているのではなくて、困っているのよ。まだ【閨教育】も受けていないお嬢様に貴方、無茶ぶりが過ぎるのではなくって?」
…ありがとうございます!それを伝えていただけるのは本当に助かります。
「…なるほど…確かにそうですね…」
セオドア様の言葉に思わずホッとしました。
これで無体な真似は控えて頂けるということですわね。
「では私が明日から【閨教育】をアメリアに実地で教えれば問題ないですよね?」
ちょっと⁈セオドア様…それは問題しかありませんわよ⁈
「まだ婚姻も結んでいないご令嬢相手に何を言っているの⁈絶対に許しませんよ⁈」
「でも、アメリアは絶対に私と婚姻を結ぶのです。教師から聞かされるより、未来の夫から実地で学んだ方が今後の彼女の為にもなるのでは?」
「絶対にいけません‼そんなことをしたらグレイソン公爵にも国王様にも言いつけて貴方を王宮から出さないようにしますからね⁈」
「…いい考えだと思うんだけどな?…アメリアもそう思うよね?」
キラキラした目で邪な発言をされても…。私は慌てて頭を横に振りました。
「…残念…まあ、あと少しの我慢だしね…フフ」
怖い…セオドア様の欲望が漏れ出ています…。
慄く私の姿を見たオリバレス王妃様は
「貴女が【閨教育】の授業を受ける時はセオドアを公務へ追い払いますから、私に知らせなさい」
と、ため息を吐かれたのでした。
やっと最終回に向けて最後の方まで来ました。感無量…最後までよろしくお付き合いください。




