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57 セオドアの独り言

 あの【英雄】からオールヴァンズ王国が解放されてから、半年が経った。


 あの後、オリバレス第2王妃は過労で寝込んでしまった。

 命に別状は無いそうだが、実の父であるブラインズ公爵の罪を自身が証言し、それにより父は投獄された。さらに自身も記憶を操られたまま十数年を過ごしていたと判ったのだから過労で倒れるのも無理はない話だろう。


 王妃が倒れた時、自分の公務まで私に押し付けて甲斐甲斐しく世話を焼いたのはなんと国王だった。今回の騒動でお互いに大切さを解りあったとかなんとか言って、王妃が回復したら二人とも臣下の前で迄イチャイチャするのはいい歳をしてどうなのだ?と言いたい。

 威厳とか全くないですよ…? 父上…。


 しかし失くした歳月をやり直していると言われれば無下にも出来ず、結局私が全ての公務をやる羽目になったのはひどい仕打ちだと思う。

 おかげで碌に愛するアメリアにも会いに行けない…。

 自分だけ幸せそうな父に「もう一人ぐらい王位継承者が増えるのも時間の問題ですね」と嫌味を言ってやったら、「増えるかもな?」とニヤリと笑って返されたのには思わず絶句したけれど…。


 ずっと宰相として傍に居た人間が、まさか自分の異母兄弟だとは思いもしなかった。

 そのジュードはと言えば、宰相だった時の公務に関する記憶まで持っているため、政務に関してもメキメキと頭角を現している。母を手に掛けた憎いライオスの記憶も自身の体を乗っ取られていた期間は持っているために、本人にとっては随分と辛い記憶のようだけれど。


「いつかは過去として乗り越えていかなくてはいけないことだから」と前向きに頑張っているジュードの姿は異母弟としては応援したい気持ちもあるのだが、如何せん彼はアメリアの屋敷に滞在している身分だ。

 しかもアメリアに対して恋慕の情のような想いを持っていることも知っている。

 …いつ彼女に手を出されるかと冷や冷やして王宮への滞在を進めたけれどグレイソン公爵の申し出のせいで上手くいかなかった。

 しかも公爵は「私がジュード様をしっかりと跡取りとして育て上げるまではアメリアにも協力してもらわねばなりませんから」と言い出した。あのクソ親父め…

 公爵がアメリアを嫁に出したくないのが見え見えなのも非常に腹立たしい。


 今まで、鎖国状態だったオールヴァンズ王国は少しずつではあるが、様々な近隣諸国に対し、武力ではなく対話を中心とした外交を進め始めた。

 そこでもグレイソン公爵家の手腕が活かされていると聞くし、様々な国との関係改善がこの国を新しい未来へと運んでくれるのもそう遠くないと思っている。

 ただ、一つの懸念を除けば未来は光へと繋がっていると言えるだろう。


 …そう、私の最愛のアメリアのこと以外は。


 実は、近隣諸国との関係改善の第1歩として、王族同士の婚姻問題が発生したのだ。

 …勿論、我々王族にとって政略結婚は避けては通れない問題ではある。今回は弟のリアムに縁談が来たのだが…。


「お兄様は愛する人と結婚できるのに、僕は顔も知らない女性と結婚なんて絶対に嫌だ」とリアムがストライキを起こしたのだ。


「婚約者としての立場だけで、互いに合わないようであれば婚約破棄もありえるから」と宥めすかしてみたが、「じゃあ僕がアメリアと結婚するから、お兄様が政略結婚をすればいいじゃないか」とまで言い出した。

「年齢的にもつり合いが取れないだろう?」と言っても「お父様たちだって10歳以上離れている!そんなの何の問題でもない‼」と譲らないのには困った。


 アメリアがこの国の不幸の連鎖を断ち切ってくれたことは高位貴族の一部しか知らないが、過去に市民が安価で受けられる医療制度や医療施設の建設も彼女の意見を取り上げた私が作ったことは市民にも広く知られている。


 …この噂を広めたのは実は私なのだが…。


 あの時には「王太子妃としてアメリアが認められるためには市民の人気も高い方が良い」と考えて話を流したのだ。

 まさか、高位貴族をはじめ、国中から次代の王妃として熱望されるようになるとは思ってもみなかった。

「…ジュードもアメリアを気に入っているようだし、リアムも望むのならばいっその事、彼女が選んだ伴侶を次期国王にでもするか?」等と国王は笑うが、冗談でもやめて欲しいと心から思う。


 私は【英雄】の血を引いているのだとあの事件の後、心から感じることが多くなった…。


 特にアメリアを見ているとそう実感することが多々ある。

 彼女に笑いかけられ、見つめられるためならばどんなことでも出来るし、アメリアを奪おうとする者が現れたなら、きっと排除しようとするだろう。

 …それが殺人であってもきっと躊躇うことは無い。

 それ程に彼女を欲してしまう自分の感情はどこか歪で、何にも心を動かされなかった子供の頃よりも力を持った今は、より危険になったのかもしれない。

 それでも、私がアメリアを無理やり自分のモノにしようとしないのは彼女の心も躰も全てが欲しいからだ。

 自分の心の赴くままにアメリアを奪えばきっと彼女の心は私の手の中から消えてしまう。

 それでは【英雄】と同じ結末を迎え、またも不幸の連鎖を呼ぶことになるだろう。

 だから私は自分の欲望と戦い、じっと時を待っている…。いつか彼女の全てが私の物になる時を…。

 誰にでも優しい彼女の気持ちもあの時確かに手に入れたと感じていたのだけれど…。それでも、心のどこかに彼女を信じきれない自分もいて…。

 あと1年で私たちは成人を迎え、このままだと私たちは婚姻を結ぶことになる。

 願わくは、その時彼女が私を望んでくれるように…彼女が別の誰かを望んだ時には、彼女を無理やり奪おう…そんなことになって欲しくはないけれど。


「シルヴィニア・フォン・ジョエル ―神よ私の罪を許したまえ―」


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