53 神よ私の罪を許したまえ
まだ終わらないのですが、最終話っぽい感じになってしまいました。まだ続きます。
【穢れ】が全て浄化された時、オールヴァンズのほとんどの貴族は魔力を失いました。
元々古の魔力を持っていた貴族に影響はなく、平民にも元々魔力は無いため市民の生活にはなんら問題はありませんでした。
ただ、一部の特権階級を重んじる穢れた魔力に固辞していた貴族だけがパニックを起こし、もう一度儀式をと騒いだものの、王家から身分剝奪やしっ責などの重い処分を受けたため沈静化してきました。…この問題は時が解決するでしょう。
ジュードはやはり、国王様の隠し子だと正式に認められました。しかしお相手の女性の身分が低いこと等を鑑みて王位継承権第3位となりました。
年齢は23歳で一番高いのですが、本人は『別に王位なんて欲しくない』と言って継承を否定しています。
そうは言っても、ライオスの中にいた時、彼は意識があったらしく、元から政務能力も高かったために、簡単な王宮の公務ならば、こなしてしまう能力に周りは『せめて時期国王の補佐についてはどうか』と彼を説得していると聞きました。
オリバレス王妃様の生家である、ブラインズ公爵は過去の罪を認め、自分がライオス・アーロ・テイラーと共に王妃殺害に絡んでいると自白しました。但し、実行したのはライオスであると言っているため、今後もしばらくは調査が続きそうです。
しかし、王妃殺し及びメイド殺しにも関与、更には宝物庫からの窃盗と大罪を犯している事実は変わらず、牢で刑の執行を待つ日々を送っていると聞きました。
勿論、ブラインズ公爵家も身分をはく奪の上、領地も没収…となる所だったのですが、
領地には民が住んでいるため、税収や交易を管理する人間が必要となります。
そこにお父様が「ジュード様は高貴なお生まれだが、いかんせん市民の場での生活が長い。王家から降下して、ブラインズ公爵領を収め、新たにジュード・シルヴィニア・オルヴァレス公爵としての身分を得たらどうだろうか?」と言い出したのです。
確かにそれならば、王宮の厳しいマナーや嫌味な貴族達ともさほど関わらずに済み、身分も王家の一族として与えることが出来ます。
ジュードが王位継承に拘らないのであれば素晴らしい思い付きだと思えました。
ジュードは王家に未練はないらしく、あっさりと継承権を放棄しました。
もう一度町で暮らそうかと思い、コッソリお母様と暮らしていた町の家にも行ってみたそうですが、既に歳月が流れ、今では他人が住んでいた為にお母様との思い出の品は何一つ持ち出すことは出来なかったと寂しそうに零していました。
そう話していた時、国王様が「これは彼女が唯一私に残して行った品だよ…君が持っていたほうが良いだろう…大切にしなさい」とジュードに小さな木箱を渡しました。
中には小さく古ぼけた手鏡が入っていました。後ろに『M・L』のイニシャルを見つけたジュードは「これは…母さんのイニシャルだ…」としばらく無言で手鏡を見つめていました。
ジュードは公爵家を継いだら公爵領にお母様のお墓を立てたいのだそうです。
「この手鏡を埋めて母さんの亡骸の代りにしたいんだ。俺が毎日会いに行けば、母さんも寂しくないだろうしさ」そう笑う彼に私も微笑み返し「素敵な発案だわ」と答えました。
そうすれば、ジュードのお母様も心安らかに眠ることが出来るでしょう…。
ジュードが新たに公爵家を継ぐためには沢山の知識や経験が必要になります。彼は頭がよく呑み込みも早いのですが、経験だけは時間を掛けるしかないので、全ての準備が整うまではグレイソン家で身元預かりとなりました。お父様が公務等を全面的に支援する方向で調整を進めているそうです。
きっと彼ならば素晴らしい公爵様になる事でしょう。
精霊王様も、あの後、精霊界にお帰りになられました。しかし…
「アメリア今日も会いに来たよ。…私の方の心の準備は整っているし、そろそろ私の番として、一緒にこちらへ来る気持ちになったかな?」等と冗談を言いながら、毎日お茶を飲みに来られるのは少し困ります。
だって、フェイたちまで一緒に来ては「そうだぜ、お前が精霊王様と婚姻を結べば、俺たちとも会えるし、毎日お菓子食べ放題だろ?」とか「そうよー!精霊王様なら絶対に幸せになれるからセオドア様なんてやめちゃいなさいよ」とか騒ぐのですから…。
セオドア様と私は相変わらず時々抱きしめられて、キ、キスをされたり…とドキドキさせられていますが、お父様の許可も出ず、婚姻はまだまだ先になりそうです。
お父様曰く「ジュード様が無事にブラインズ公爵家を継ぐまでは私も忙しいし、アメリアもジュード様のサポートに徹しなさい」とのこと。
まさか、婚姻を遅らせるためにジュードの後見人になったのでは?なんて疑念まで湧いてきます。
「行き遅れたら俺が貰ってやるから心配するな」なんてジュードが冗談を言ってくれますが、本当に行き遅れたらどうしましょうか?…少し不安です。
そう言えば、全ての【穢れ】が消えた後で、国王様に内々にと呼び出されました。
【王の間】ではなく、王宮図書館で二人きりでお会いしたのですが、その時にもう一度【英雄の恋】の書物を渡されました。
「アメリア、最後のページを読んでみなさい」と国王様に促され、そっと開くとそこには手書きでこう書かれていました。
【英雄は名を残してはならない 彼の者は大罪を犯したため罪を後世の子孫には負わせないために】
そして、最後に【シルヴィニア・フォン・ジョエル】とかすれた文字がありました。
「王家は代々の王が王位を継承するときに前国王の名を引き継ぐという決まりがあるが、英雄の名前だけは継いではならないと、彼の名前だけはどこにも記述が無いのだ」
国王様は更にこう述べられました。
「王家の王子にはミドルネームも規律があり、必ず3人の王子が今までも生まれていた。そして、その言葉を並べると【シルヴィニア・フォン・ジョエル】となる」
…シルヴィニア・フォン・ジョエル…こちらの国の言葉で【神よ私の罪を許したまえ】となります。
「【英雄】も自分の罪を悔いていたのかもしれない…」
悔いても犯した罪は大きく、欲望が膨らみすぎて【穢れ】が彼に成り代わってしまった…。【穢れ】はいつの間にか【英雄】を蝕み、彼を飲み込んでしまったのかもしれません。そして長きにわたって不幸の楔を紡ぎ続けた…。
それは不幸ですが、どこかで断ち切らなければいけない連鎖でした。




