52 精霊王の力が及ぶ処
「私は数年前に魔力暴走に巻き込まれ、命を落としかけました。」
私の言葉に精霊王様は頷きました。
「そして、精霊の加護を受けたイヤリングの精霊エインセルに私は助けられたのです」
そう、そこから全ての物語は始まったのです。
エインセルがアメリアの【ホワイトコア】を浄化し、そこに世界樹の種を植えた。
苗はグングンと【穢れ】である魔力を吸って成長した。
…その後、火の精霊フェイや風の精霊ルーフィーと出会い、この国に蔓延っていた【穢れ】の魔力を浄化するべく、気が付けば四大精霊までもがオールヴァンズの地に揃いました。
そして、100年前の精霊の封印を解き、500年前に【英雄】によって捕らわれた精霊を救うことになりました…ライオスの魂と共に。
これだけ聞けば、偶然が生んだ奇跡によって、オールヴァンズ王国は【英雄】の脅威から救われたように思える。
「最初は偶然だと思っていました。偶然、セオドア様の魔力暴走が起きて、偶然火の精霊が誕生した…」
でも偶然はいくつも重なったとき、必然となる。そう、今ではそうとしか思えないのです。
「精霊王様は、全てこうなると判っていたから…未来を知っていたから母に加護を与え、精霊のイヤリングを授け、私を利用するために命を助けたのではないのですか? もし、こうなるためだけに私たちを操っていたのだとしたら、あまりにも残酷すぎます…」
もしも未来が予測できるのなら、先に自分の妹を助けてやれば良いではないか。
精霊王様には簡単に【英雄】の【穢れの塊】を倒すことが出来る力があるのだから。
そう、ライオスが死に物狂いで戦っても勝つことの出来ない相手を一瞬で消し去ったのだから…。
「もっと早く貴方が妹精霊の封印を解いていれば、100年後の不幸な国王と精霊の封印は起きなかったはずです。互いに愛し合っていたのに…。ライオスも何度も転生して傷つくことも無かったし、ジュードも母親と今も幸せに暮らしていたかもしれないのに…」
言いながらアメリアは涙を止めることが出来なかった。
言いがかりだと自分でも分かっている。それでも、言わずにはいられなかった。
この国で始まった不幸は転がる様に次なる不幸へと繋がった。最初に食い止めてくれれば良かったと思うのは私の我が儘なのだろうか?
「確かに、私には未来が判っていたよ…これから起こるありとあらゆる未来は概念で繋がっているのだから」
精霊王様は悲し気に目を伏せると言いました。
「…だが、分かっていても私にはどうすることも出来なかったのだ…」
そう、精霊王は全ての全知全能の力を持つ。
全てのことわりは彼の力を欲し、その力を求めて精霊王の元へと集まる。それが自然全ての王たる所以なのだから。
「だからこそ、私が私利私欲で行動を起こせば全ての世界のバランスが崩れ、全ての世界に歪な軋みを生み出してしまう…」
過去を変えることも出来ず、未来を予見することは出来てもそこに直接干渉することは出来ない。それをすれば、あとは世界の歪みが加速するだけだから…。
「だから、私は賭けたのだよ…いずれオールヴァンズに生まれる聖なる娘…アメリアが自分の命を賭して私を運命の場へと導いてくれることを…」
分かっていても自分で未来を変えることは出来ない。
精霊王にとっても、今回のことは賭けだったのだ。
アメリアが臆病な娘だったら【英雄】に対峙した時、逃げる道を選んでいただろう。
アメリアが傲慢な娘だったならそもそも【ホワイトコア】を持っていなかった可能性すらある。
彼女が選び取る未来は彼女だけの為に存在する。そこに少しの手心を加えることが、精霊王に出来る精いっぱいの干渉だった。
勿論アメリアが自分に助けを求めず、オールヴァンズ王国が英雄に滅ぼされてしまう未来もあった。未来は無数にあり、どれを選び取るかで変わっていくものなのだから。
自分が妹精霊とライオスとの愛を許さなかったために、この不幸の連鎖は起きた。
悔いても既に事態は自分の手の及ばないところまで行ってしまい、もはや彼に出来ることは何もなかった。
…だからこそ、エステルの前に姿を現し、精霊の加護とイヤリングを渡したのだ。
やがて生まれて来る聖なる娘アメリアが自分を導いてくれる光となる様に願って。
そして、彼女は願った通り自分に助力を頼んでくれた。想定しうる最高の未来を紡ぎあげてくれたのだ。
「エインセルがお前のホワイトコアを浄化した時、概念の世界で私の魂と僅かだが触れ合ったのだよ。…ああ、だからお前は私の姿に似た髪と瞳になったのかもしれないね。その時、アメリアの心の一端にも触れることが出来た…なんと美しい魂の色かと感嘆したよ」
そう言うと、精霊王様は花が零れるように笑いました。
「アメリアのおかげで私は妹の魂も、ライオスの魂をも救ってやることが出来た。本当にありがとう。きっとこれからは残った【穢れ】も消えていくことだろう」
やっと英雄の脅威は去ったのです…私は精霊王様に利用されたと思ったことを恥じました。
彼だって、必死に私たちの未来を守ろうとしてくれたのですから…。
私の恥じる気持ちに気づかれたのでしょう、美しい笑顔の裏に、わずかな甘い毒を潜ませて、精霊王様はこう続けました。
「私はアメリアの中に【世界樹】があることも、全ては自然のことわりだと思っているよ。きっと、世界がアメリアを概念の世界で私と結ばせるために起こした奇跡だと」
⁇ …どういう意味でしょうか…?
「私は今までつがいを持ったことも無いし、そろそろ古老の精霊達からも世継ぎをと望まれている。【世界樹】をその身に宿し、オールヴァンズの国を救った貴女なら相手として申し分ないだろう? 大切にするから…私と精霊界へ行き婚姻を結ぼうではないか」
えっ⁈いきなり言われても…冗談…ですよね?
「幸い四大精霊たちもアメリアに使役している身。このまま、私と幸せに暮らすのも悪くはないだろう?フフフ…貴方が望んでくれるのなら、絶対に幸せにする自信もあるからね」
そんな女性よりも美しい顔でウインクなんてしないで下さい。…何だか、熱まで出てきました。
勿論「「そんなのはダメだ―‼」」と父やセオドア様、ジュードに何故かリアム様まで即却下していましたけれど。




