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50 時を超えて

精霊王様が拾い上げられた小瓶は人差し指ほどの大きさで、淡い光を放っています。

長い年月を経ているであろうソレは一つの汚れも無く、大切にしまわれていた宝物のように見えました。

精霊王様は瓶の上に貼られた札のようなものを破ると「封じられし魂よ 光の基へと還れ」と繰り返し詠唱されます。

一つ詠唱が終わるたびに、あたかも風化しているかのようにボロボロと崩れ落ちる瓶の中からは、やがてうっすらと光を放つ美しい精霊が現れました。


…その姿は、あの日【英雄】の墓の前で泣いていた精霊だったのです。

封印が解けかかっていたのか、ライオスに会いたい一心なのか…彼女は夜の闇に紛れては魂の一部を外に出し、必死で救いを求めていたのでしょう。

その想いは報われ、やっと彼女は自由になれたのです…。


精霊は自分を助けてくれた実の兄である精霊王様には目もくれず、辺りを見回すと、まっしぐらにライオスの元へと駆け寄りました。

彼女がどれ程、ライオスを愛していたのかがその必死な様子からも判ります。


「ああ、ライオスずっと長い暗闇の中で、あなたの事だけを想っていたの。会いたかったわ…私のことを覚えている…?」


 精霊がそっと、ライオスを助け起こすと彼はゆっくりと目を開けました。


「へヴェル…君なのか?忘れるわけなど無いだろう…やっと…やっと会えた…」


涙を流し抱き合うライオスと精霊ですが、なぜでしょうか、段々と二人の姿が透けていくように見えます。

 もしかしたら、互いに出会えた今、二人は既にこの世に留まる理由を失ったからかもしれません。


「やっと…やっと貴方と一緒に還れる…もう離さないでね…」


 そう言うと、へヴェルはライオスに頬ずりし、笑顔を浮かべました。


「すまない…俺は罪を犯したんだ。ヘヴェルと引き離されてからの俺は、人を殺め、繰り返し君を探し続けた。死んでは生まれ変わる輪廻を繰り返しながらも魂が君に捕らわれ、君を忘れることが出来なかったからだ」


ライオスはそう言うと苦し気に呻き、彼女の頬を伝う涙を拭いました。


「へヴェル…大罪人の俺ではもう君と同じ世界に還ることは出来ないかもしれない…それでも君を取り戻すことを…俺は…諦められなかったんだ。君だけは幸せになって欲しい。それだけが俺の願いだ…」


 涙を流しながら告解するライオスの姿に、へヴェルは首を横に振りました。


「貴方が闇に落ちるなら私も闇に落ちましょう。どれだけの長い年月の間、暗闇に閉じ込められていても、あなたを想う気持ちは薄れることは無かったの。…貴方が行くところなら、私もどこまでも一緒に行くわ。…貴方の帰る場所は私の腕の中だけなのだから…」


 へヴェルがライオスを抱きしめると、二人は見つめ合い口づけを交わしました。

 すると、薄れていた二人の姿は影の様に揺らぎ始めたのです。…やっと二人の魂が結ばれ、天へと還って逝くことができるのでしょう。

互い見つめる瞳には悲壮感など欠片も無く、お互いを想いあう喜びに溢れていました。

 …これからは永遠に離れることは無いのですから…。


 二人の魂が消え、辺りにはまた夜の闇とひっそりとした静寂が戻ってきました。

 松明の灯りに照らされた墓地には、ほのかに輝き続ける精霊王様の姿と、ひび割れた仮面を付けたままの一人の男性がうつぶせに倒れていたのです。

 彼はライオスに依り代として利用されていた人物なのでしょうか。

 誰もが、動くことが出来ない中で、アメリアは静かに仮面の男性に近づきました。


「ライオス宰相に利用されていた人物に近づくのは危険だ!誰とも判らない以上、王宮警備隊に捕獲させるのが筋だ」


 そうセオドア様は止めますが、私には彼の正体が知っている人物に思えて仕方なかったからです。

 そっとひび割れた仮面に触れると、それは触る傍から土くれへと変わり砕けて消えていきます。

 …もしかしたら穢れた魔術で作られていた物なのかもしれません。

 仮面の下の素顔は美しい顔立ちの男性がいました。…耳元にはめられたイヤリングと、優しい面影…それはかつて約束をしたまま、会うことが出来なかった人だったのです。


「ぅ…ん…?ここは…?なんだろう…体がギシギシと痛い…」


 気が付いたのか、その人はゆっくりと目を開けました。

 やはり先ほどの【英雄】との戦いは彼の体にも相当の負担だったのでしょう。痛そうに体を仰向けに地面にごろりと寝転んで、周りの様子を見回しました。


「俺…やっとアイツから解放されたんだな…やっと本当の自分に戻れたんだ…」


 呟き、こちらを見ると彼の目が愛おしそうに輝きました。


「ずっと、傍にいたのに話すことが出来なくてもどかしかった。…アメリア、あれから時間が経って君も俺も大人になってしまったけれど、俺が誰だか…判る?」

 

 彼の言葉に何度も頷きます。

 アメリアは懐かしさと、嬉しさで涙が止まりませんでした。


「もちろん判るわ。ジュード…私達の約束は今果たされたのよ。きっとイヤリングが私たちをまた出会わせてくれたのね…」


 そう、彼との出会いもまた必然だった。…この世に意味のない出会いなんて無い…。

 自分はケガの痛みに顔をしかめながらも、ジュードは優しくアメリアの頭を撫で続けてくれている。優しく安心できるこの人にもう一度会えた…。

 幼い頃もこの手に守られて自分は安心して眠ったんだった…今もそのことを思い出すと、恥ずかしいような、もどかしいような思いに駆られる。


「きれいになったな…アメリア」


 優しいジュードの笑顔に思わず見惚れると、アメリアは自分の体が上手く動かせないことに気が付いた。…先ほどの恐怖が蘇ってきたのでしょうか…。


 ジュードに抱きついて、彼女はそのまま意識を失ったのだった…。


もう50話…初投稿なのに大分長い話になってしまいました。

でも、もう少し続きますので、お付き合いいただけたら嬉しいです。

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[一言] 英雄の血脈に相応しい執着心を見せる王子に恋のライバル出現か
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