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49 私たちに出来ること

何処から入り込んだのか…それは紛れもなく行方不明になっていたライオス・アーロ・テイラー宰相でした。

相変わらず顔を仮面で隠し、彼の表情を見て取ることは出来ませんが切羽詰まったように感じるのは気のせいでしょうか。

 王宮から逃げ出した時のままの姿で、彼は【英雄】だけをひたすらに凝視し続けていました。


「…奴を‼王族へ反旗を翻したライオスを捕らえるのだ‼」


 いち早く我に返ったらしい王宮警備隊長が叫びますが、あまりにも想像を絶する【英雄】の巨大な姿に誰もその場を動くことが出来ませんでした。


 かつて、強大な魔力を持ち、様々な困難からこの地を守りし【英雄】…。それゆえに人々は彼を崇め、称えられた。

 そしてやがてはこの国を統べる国王となった男…。

 しかし、今の彼の姿には気高さも心の強さも感じられません。

 …あるのはただ、強欲で己を否定する存在を破壊する衝動…そして、時を経ても未だ自分を受け入れることの無い愛する精霊への執着のみでした。


【英雄】は既に自分の器が朽ちていることを知っているのでしょうか?

 500年の歳月が彼を本物の【穢れの塊】へと変えてしまったことにも気づいていないのかもしれません…。


 ブンブンと羽虫が飛び交うような不快な音を立て、【穢れの塊】と化した【英雄】は動くたびにその姿を変えます。巨人のようにも、羽虫の軍団のようにも見える塊…。

 穢れになり果てたその姿は顔も無いはずなのに、己の力を解放できることを心から喜んでいるように感じられました。


「…英雄‼ずっと貴様に相まみえる日を俺は待ち望んでいたのだ‼彼女の…へヴェルの魂を返せっ‼」


 ライオスは叫ぶと英雄に持っていた剣で切りかかりました。しかし、その切っ先は英雄に届くことは無く土くれへと変わっていきます。


「クッ!【英雄】には通常の剣での攻撃は効かぬのか…」


 柄だけになってしまった剣の残骸を投げ捨てると、ライオスは次の攻撃に移ろうとしました。

 しかし、少し早く【穢れの塊】と化した英雄はライオスを見下ろすと、巨大な腕を振り下ろしました。

 それは英雄にとっては造作もないこと動作でした。

 まるで虫を叩き潰しただけにも見えるその動きは地割れを起こし、辺りの墓を吹き飛ばします。

 圧倒的な力の差に、ただ成す術もなく吹き飛ぶライオスの姿を見て顔も無いのに英雄が嗤った気がするのはなぜでしょうか…アメリアはそれをただ、呆然と見つめていました。


「アメリア‼何をぼんやりとしているんだ、早くそこから逃げろ‼」


 セオドアが叫ぶと、国王を連れた王宮警備隊も慌てて避難を開始したのが見えます。

 確かにここにいるのは危険なのは承知しています。それでも、アメリアはその場を動くことが出来ませんでした。


 既にライオスの目はかつて自分の愛する人を奪った【英雄】しか映していません。

 そして【英雄】にとってもライオスは愛する精霊の心を自分のモノにするためには邪魔者であり、敵なのでしょう…。

 500年経とうともその関係性は変わらず、二人は互いだけを見つめ、何度も攻撃しあっていました。

 あまりにも長い歴史の陰で、彼らはどれ程の痛みを抱えながら互いを憎み続けたのだろうか…そんなの悲しすぎるではないですか…。


 ライオスは己の持つ魔術で【英雄】を攻撃し始めていた。彼の持つ魔力はかなり強い力なのでしょう。きっと、その力は対人であれば無敵だったのかもしれません。

【人心掌握の秘術】も己の強大な魔力も効かない相手との闘い…ライオスの【穢れた魔力】では【英雄】に勝つことは出来ないのです。


【穢れた魔力】は英雄の本体を巨大化させ、力を吸収したために、より強靭に肥大化を続けてしまっていました。…これでは倒すどころか、英雄に益々力を与えてしまっているのも同然なのです。


「くっ‼これならどうだ‼」


 ライオスはそれに気が付くと、今度は隠し持っていたらしきナイフで【英雄】に切りかかりました。しかし、既に器を持たない【英雄】の体をナイフは突き抜けてしまう…。


「へヴェルを…‼どうしても彼女を救いたいのに…俺はそれすら果たせないのか…」


 懇願するようにライオスは【英雄】を攻撃し続けました。

 既に満身創痍の姿でありながらも、愛する精霊を取り戻そうとする彼の姿は、私の目には悪人には映りませんでした。


 どうして…互いに愛し合っていただけなのにこんなことが起きてしまうのだろうか…。

 アメリアは涙を流しながら、戦う【英雄】とライオスを静かに見つめます。

 泣き続ける彼女の元にセオドアが駆け寄ると、きつく抱きしめてくれました。


「なんでここから逃げてくれないんだアメリア!…こんなことになっては、もう私たちに出来ることは何もない‼せめて、君だけでも逃げて生きてくれ…頼む…」


 ふり絞るようなセオドアの声に、アメリアは自分に出来ることを思い出しました。

 そう…たった一つだけ、最後に残された希望があるではないですか…。


「いいえ…私たちに出来ることが、たったひとつだけあります」


 そう言うと、セオドアを後ろに下がらせ、アメリアは四大精霊たちを集めました。幸い、誰も大きなケガは負っていないようで安心します。


「フェイ、ルーフィー、グース、そしてティア…貴方たちにお願いがあるの」


 アメリアは四大精霊を一人一人見つめながら言いました。


「この場所に、私の【ホワイトコア】を通じて精霊王様を召喚します。そのために貴方たち四大精霊の力を貸して欲しいのよ」


 彼女の真意を知った精霊たちは頷くと、彼女の周りを取り囲みました。

 そして彼らはアメリアを中心に魔法陣を描き始めました。


「精霊王様、私たちの矮小な力では祓う事の出来ない悪しき【穢れ】を祓う力をお授け下さい。精霊王様ここへ…オールヴァンズの地へお越しくださいませ!」


 アメリアが両手を組み空へと祈りを捧げると、周りを取り囲んだ四大精霊達一人一人から光が上空に溢れ出ました。

 フェイからは真っ赤な炎のレッド、ルーフィーからは切り裂く風のグリーン、グースからは封じる大地のブラウン、そしてティアからは浄化の輝きブルーの光がアメリアの頭上に虹のように輝きます。

「…なんと美しい…まるで精霊のような…女神が降臨されたようだ…」


 王宮警備隊の誰かが呟き、その誰もが光に見とれていました。


「精霊王よ、すべての精霊を統べし理の王よ。我らの願いを聞き届け、今ここに姿を現し賜え」


 アメリアが祈りを捧げ終わった時、頭上の虹が激しい光の拡散を起こしました。

 それは邪悪な【穢れ】を一瞬で浄化するほどの力の輝きだったのです。

 …あまりに激しい光の拡散に誰もが目を開けていられず、【英雄】とライオスですら呆然と戦いを止めたほど強烈な光は、やがて朧げに姿を取り始めました…。


「アメリア…私を思い出し、妹の捕らえられたこの大地に導いてくれたことを感謝する」


 光りの塊はそう言うと、ゆっくりとその姿を現し始めました。

 長い髪は透けるように白く、その瞳は金色に輝いている…。

 美しくも儚げなその姿はとても中性的で、かろうじて声から男性なのかと推測できる美貌でした。


 …この方が精霊王様?…私と同じ髪と瞳の色をしていらっしゃるわ…これは偶然…なの?


 精霊王その人はアメリアの考えを見抜いているようにほほ笑むと【英雄】…いまや【全ての者にとっての悪意の穢れ】と化した巨人を見つめました。


 そして、「我、全知全能の精霊を統べるものなり この地に巣くう悪しき魂よ 穢れし理よ 精霊王の名のもとに命ずる 全てを無に帰せ」


 精霊王様が詠唱をした瞬間、【英雄】の塊は徐々に霧散を始めました。

 巨人が苦しみもがいて手を振り回しますが、その指先からも徐々に力は奪われ、霧のように消えていきます。

 地割れを起こしていた地面も精霊王様が詠唱を繰り返すたびに少しづつ元に戻り、あれ程に脅威であった穢れの塊は、最後に激しく遠吠えのように叫ぶと消えてしまいました。

 後に残されたのは何事もなかったかのような静寂と、精霊王様の姿のみ…。


 私たちが呆然とする中、精霊王様は【英雄】が消える直前までいた場所で何かを拾い上げました。


 …そう、それは小さな小瓶でした。


戦い…あっさりですみません。一応最終回に向けての伏線になっています。←(ヒッソリネタバレ)

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