46 繋がる想い
アメリアの様子が何だかおかしい…?
セオドアは彼女の様子がいつも通りでは無いことに違和感を覚えていた。
昨夜もディナーの席に現れず、「少し疲れてしまいましたので、夕食は失礼させていただきます」と早々に休んでしまった。
そのくせ、今朝会った彼女は目の下にうっすらとクマを作り、明らかに寝不足のようだ。
ベッドが合わないとか、部屋が気に入らないのかと彼女に聞いても「大丈夫ですから…」と繰り返すだけで悩む理由を話してはくれない。
明らかに悩みのある様子だけれど、突然のアメリアの憔悴には心当たりも無い…。
もしかしたら無理やり王宮に留め置いたせいで、ホームシックにかかってしまったのだろうか…?
チクリと胸が痛むが、昨日は『彼女の顔を朝から見られる』ことだけしか考えていなかった。
…彼女が絡むといつもの冷静さがどこかに吹き飛んでしまう自分が恨めしい。
もしも彼女があまりに辛そうだったら、グレイソン家に帰そう…そう決意して、彼女の部屋へ向かう。
「アメリア、準備はいい? これから、フェイたちと一緒に封印解除の準備をしたいのだけれど…」
そう聞きながら扉を開けると、精霊たちが気合の入った声で「おお!やるか―‼」と答えた。
…うん、君たちはいつも元気だね…。
しかし、当のアメリアは「はい…準備出来ております。今参りますから…」と抑揚のない声で答えるだけ…本当にどうしてしまったのだろうか…?
部屋を出て、廊下を歩きながら隣を歩くアメリアの様子を盗み見る。
…やっぱり元気がない…。いつもならこれからの行動予定や、セオドアの話を楽しそうに聞き、ニコニコと笑顔を絶やさない彼女が、今日は一言も話さずに俯いているのだ。
意図せずセオドアも無言になり、二人は黙って裏手の王族墓地へと向かうこととなった。
墓地では王宮の魔術団や警備隊の面々がズラリと集結していた。
王族の警護のためと、王族抹殺を狙ったライオス宰相がここに現れる危険があるからとの見解からかなり厳しい警備体制が敷かれている。仕方がないこととはいえ、大勢に見つめられながらの作業と言うのはかなり気まずい…。
「…ここからは俺たちが指示するから、手筈通りにやってくれ」
フェイの言葉に頷き、四大精霊たちとセオドア、リアム、そしてアメリアは封印解除の準備を始めることになった。
100年前に封印された精霊の御霊が、この墓地の何処にあるかは現在はっきりとわかってはいないので、墓地全体を浄化するように水晶を配置していく。
更に、さざれ石を【穢れ】が強いと精霊が判断した箇所を重点に撒き、穢れを少しでも薄くすることに努めた。ちなみにさざれ石とは水晶を細かく砕いた原石らしい。こんな使い道があるとは今回、初めて知った。
王族全ての墓石にも一つずつアバロンシェルを置き、その上でホワイトセージの葉を焚いた。
ホワイトセージにも空間を浄化する効果があるらしいから、幾重にも効果を重ね掛けした状況が完成する。…何時間かの後、それらの作業は全て終了した。
後は、四大精霊たちが力を聖水に流し込み、清めの聖水で魔法陣を描いていくだけとなった。
チラリとアメリアの様子を見ると、顔色が悪く、少し足元がおぼつかない様子だ。
…きっと寝不足で体調も良くないのだろう。彼女にあまり無理をさせたくないし…。
「アメリア、私たちがここで出来ることはもう無さそうだし、王族がここにいると王宮警備隊がゾロゾロといて四大精霊たちの作業の邪魔をしてしまいそうだ。…少し、別の調べ物を手伝ってくれないかな?」
休もうと言えば拒否するであろう彼女だが、手伝えと言えば来るだろう…。
セオドアの目論見は成功し、案の定アメリアは「はい…」と素直に後をついてきた。
勿論、リアムは「四大精霊が困るといけないからお前はここで彼らの話を聞いて、後で教えておくれ?重大な任務だけれど出来るよね?」とその場に置き去りにしてきたことは言うまでもない。
さて、どこで話を聞こうか…?
連れ出したものの、私の私室では流石に彼女も警戒して入らないだろうし、警備隊も置いていきたい。人がいなくて二人きりになれる場所…調べ物をすると言ったことだし…。
「アメリア、王宮図書館へ行こうか」微笑みながら提案すると、アメリアは頷く。
警備隊にもそれを告げ、王宮図書館へ二人きりで向かう事となった。
昼間であっても、王宮図書館は人気が無い。
王族しか入れないのだから、使用者も限られるし今は国王も公務中だ。ここなら誰にも邪魔されずに話が出来る。
セオドアはアメリアをエスコートすると、自身も隣に腰かけた。
彼女は俯いて両手を膝にのせて強く握りしめている。そこにそっと手を重ねた。
「アメリア…昨日から様子が変だけれど…何か…あった?」
セオドアが切り出すと、アメリアはビクリと体を震わせ、あからさまな程に反応した。
「もしも、悩みがあるのなら…話してくれないかな…?私たちは婚約者同士だろう?悩んでいるのなら、力になりたいんだ」
そう言いながら彼女の顔を見つめると、アメリアは大粒の涙を流しながらも答えない。
「私では役に立てないのかな?それとも信用できない?」
そう聞いても、アメリアは頑なに首を横に振るだけだった。
「ねぇ、アメリア…私はね君に小さい頃、心を救われたんだよ。母が死んでからの私は生きてはいたけれど心は氷のままで、悲しいとか嬉しいとかの感情すら上手く表すことが出来なくなっていた。それを救ってくれたのがアメリアなんだよ…」
そういうと、アメリアにこれまでの自分がどれだけ感情も無く打算と欺瞞に満ち溢れた世界にいたのか、それを幼かったアメリアが溶かしてくれたこと、どれだけ自分の希望になってくれていたのかを話し始めた。それが今に続く大切な想いであることも。
初めて聞くセオドアの想いに、アメリアは聞き入っていたが、しばらくしておずおずと自分の思いも吐露し始めてくれた。
彼女は『今はセオドアの想いが自分に向いていたとしても、セオドアに真の理解者が現れた時に自分のような自信も美貌も無い令嬢では捨てられてしまうと恐れていた』と悩みを打ち明けてくれた…。
それを聞いた私がどんな気持ちだったか!…きっと誰にも判らないほどの喜びを感じていた。
今まで【お飾りの婚約者】だとか言って私から逃げることばかり考えていた彼女が、私の気持ちが他に向くことを恐れてくれているだって⁈
「アメリア‼」嬉しさのあまり、思わず彼女を強く抱きしめる。
彼女は少し驚いた様子で、でも大人しく私の胸の中に納まったままで「はい」と答えた。
「私はずっとアメリアだけを見てきた。君以外の令嬢を美しいと思ったことも無いし、興味を持ったことも無い。君に傍にいて欲しくて…どうしても一緒にいたくて強引な婚約を強行したのも判っている。でも、アメリアを愛する気持ちは失くせないんだ。お願いだから、私を信じて。…離れるなんて…言わないで」
そう言うと、彼女は私に抱かれたまま「はい…私も…セオドア様を愛しています」と答えてくれた。
ああ…やっとアメリアから愛していると…彼女の心も手に入れられたのだ。
「アメリア…君の唇に口づけても…いい?」
胸の中の彼女を開放して、顔を見つめる。今度は不意打ちではなくきちんと彼女の承諾を得たい。
「はい…」
頷く彼女の潤んだ瞳と、赤らんだ頬。
…ごめんね?君が嫌がってももう手放してあげられそうもないよ。
…そしてアメリアはゆっくりと目を閉じた。
唇が触れ合う瞬間、今まで二人のすれ違っていた想いが合わさって同じ気持ちへと変わっていくのを感じることが出来た。愛している…。私はやっと彼女の全てを捕まえられたのだ…。
しばらくして合流したフェイたちは私たちの顔を交互に見るとニヤリと笑った。
「あれ…どうしたんだ?二人とも顔赤いぞ?熱いのかな~?それとも風邪か~?」
あのヒヨコ精霊は絶対に判って言っていたのだろうなと思う。
…だって、彼女を想うこの幸せは隠すことは出来そうもないから。
やっと自覚…鈍いヒロインですみません。セオドアが自分で書いていて粘着気質だな…と(笑)




