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45 アメリアの憂鬱

浄化の為に必要な物として、アバロンシェル、ホワイトセージの葉、さざれ石、水晶そして、聖水を国王様にお願いすることを精霊たちから指示されました。

これらは大地の自浄力を活性化させ、【穢れ】の力を弱める効果があるのだそうです。


「浄化に適しているのは新月の晩だ。次の新月の時までに巨大な魔法陣を描かなくては

いけないのだ。俺たち精霊はその間王宮に寝泊まりして作業をするからさ」


そうフェイに告げられました。

四大精霊全てを王宮に置いて屋敷へと帰ることに少しためらいます。…リアム様とセオドア様なら精霊の言葉も判るしお願いできるかしら…?

しかし、私の言葉を聞いたセオドア様はいつもの微笑みできっぱりと拒否なさいました。


「勿論アメリアも一緒に王宮に滞在してもらわなくては。…四大精霊たちだけで放っておくと王宮で何をするか分からないし、他の者には彼らの姿が見えない以上、精霊と王宮の人間との間に立ち、指示を出す人物が必要になる。彼らとはどうしたって一緒にいないと困るからね」


「…王宮の方にお伝えいただくのはセオドア様の方が良いのではないでしょうか?それに、作業をするのは昼間が中心ですし、グレイソン家の屋敷から通いでも良いのでは無いでしょうか?」


そう言ってはみたものの、微笑みながら無視されました。


「早速、王宮にアメリアの部屋を用意させよう!いつまでも客間じゃ貴女も落ち着けないだろうし」

と嬉々として王宮の方々に指示を始めました。


 …私帰りたいのですが…。結局セオドア様に勧められたとおりになってしまいそうです…。

 ため息を付きながら、ふと見ると王宮の執事やメイドまでもが微笑ましそうにこちらを見ています。

 …ええ、分かっているのです。

 たとえ無体な行動だと分かっていても使用人の立場では王族に意見など出来ないことも。

 そして、セオドア様が婚約者に愛を囁いているぐらいに思われていることも。

 それでも…誰かあの腹黒王子様を止めてくれる人はいないものかと願ってしまうのは私の我が儘なのでしょうか…。


「アメリア、無理をしないで辛くなったら帰って来るのだよ?特にセオドア様に何かされそうになったら、大声で助けを呼んで直ぐに帰ってきなさい。部屋の鍵はシッカリ掛けること‼夜中でもお父様は助け…いや、迎えに飛んでいくからね⁈」


 お父様、それではセオドア様が暴漢のようではありませんか…まぁ、部屋には鍵をかけておきますけれど。


「大変だと思うけれど、フェイちゃんたちもいるし、アメリアが困ったときはいつでも良いから私たちを頼るのよ?…無理はしないようにね」


 お母様は私を抱きしめ優しく微笑まれると、父と共に我が家へと帰っていきました。

 距離的には大して離れている訳ではありませんが、やはり住み慣れた我が家から自分だけが切り離されたようで私は少しだけ寂しくなりました。ホームシック気味なのかもしれません。

 …精霊達のおかげで常に周りは賑やかですけれど…。

 そうして、私は次の新月の晩まで、王宮で生活することになったのです。


 いつもと違う部屋に案内された私は驚きました。

 部屋の内装が非常に私好みにされていたからです。壁紙、カーテン、調度品に至るまで、全てが私の好きな淡いピンク色で統一されていました。

 …ここはもしや…。

 尋ねるとメイドはあっさり「はい、このお部屋はアメリア様の為にセオドア様が設えたお部屋でございます」と頷きました。しかもセオドア様のお部屋のすぐ傍にあります。

 やっぱりそうですか…。私のための王宮部屋ですね?怖い…。

 クローゼットを開けると、そこには普段使いできそうなシンプルなドレスから、社交界で着用する豪奢なドレスまで全てが揃っています。勿論、靴や帽子、アクセサリーまでが無駄に沢山ありました。もう、身一つでこのまま生活できそうです。

 しかもどれも私のサイズであつらえられています。

 何故セオドア様が私のスリーサイズから足のサイズまで事細かにご存じなのか…婚約者と言うのはそこまで知り尽くしているものなのでしょうか?


「こちらもアメリア様のためにとセオドア様が厳選して選ばれたお品でございます…」


 王宮のメイドは若いせいか話し好きな様です。今も夢見るように話し始めました。


「アメリア様はセオドア王子様から心から愛されていらっしゃいますね~あんなに素敵な王子様にいつも愛を囁かれているなんて‼本当に羨ましいです」


「そうかしら…?」適当に相槌を打つ私でしたが、メイドの話す勢いは止まりません。


「勿論です‼セオドア様は文武両道でお美しく、地位や名誉もお持ちです。そんな方は他にはいらっしゃいません‼まさにパーフェクト・プリンスですもの‼あの方に愛されて不満な女性がいるわけありませんわ‼そんなセオドア様を虜にしたアメリア様!ああ本当に素敵だわ~」


 …そう、セオドア様の通称はパーフェクト・プリンス。…人はみんな彼のことをそう呼びます。

 でも、本当の彼はただ生き残るために自分を犠牲にし、常に努力をし続けた人です。

 お母様の死やご自分の生き方に苦しんだからこそ民の暮らしにも耳を傾け、民衆の心を掴んだ次期国王候補…。

 確かに優れた容姿、成績ですが、彼が本当に賞賛されるべき点は人の心の痛みに敏感な所なのです。

 それを知っている人が私以外にいないからこそ、セオドア様は私に執着しているだけでは無いのだろうかと、最近の私は不安になります。

 いつか、彼の真の理解者が現れた時、彼の心を繋ぎ止めておけるだけの自信も美貌も持ち合わせていない私はどうなるのでしょうか? 真実の愛に目覚めたからと、必要の無くなった婚約者として婚約を破棄されてしまうのでしょうか…。

 そう思うたびに胸が締め付けられ、私は素直にセオドア様の温かい胸の中に飛び込んでいけないのです…。


 メイドは一通りセオドア様への熱い賛辞を語ると部屋を出ていきました。

 きっと彼女のように素直ならばセオドア様に愛を囁かれた時、胸に飛び込んで行けるのだろう…。何で私にはそれが出来ないのか…。

 素直じゃない可愛げのない私を知った時、それでもセオドア様は私を愛していると言って下さるのだろうか…?

 …私は夜が更けるまでグルグルと一人で考えることを止められませんでした。

 やがてフェイたち精霊が部屋に帰ってきて、国王様が浄化に必要な全ての材料を用意して下さったことを教えてくれました。


「明日から封印を解くための準備に入るからな。アメリアも早く休めよ?」


 フェイの言葉に頷いたものの私の心の中には霧がかかり、晴れることはありませんでした。


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