44 精霊王の後悔
王宮の中で100年前に封印された精霊の御霊を解き放ち、【穢れ】た魔力を薄める。
…言うことは簡単だけれど、オールヴァンズ国内全ての行いには当然国王様の許可がいるものだ。
私たちは両陛下に謁見を申し込み、これからの計画をお伝えすることとした。
事態の重大性を知っていらっしゃる国王様は、すぐに謁見を許可下さり、私達一同は【王の間】へと集結したのだ…が。
「グレイソン公爵夫妻及び、アメリア嬢よ、大儀であったな」
「此度は大変だったと聞きましてよ。おかげでリアムもすっかり元の様に元気を取り戻しました。礼を言います」
…なぜだろうか…国王様とオリバレス王妃様の間の空気が甘い気がするのは…?
国王様をチラチラ見つめては頬を赤らめるオリバレス王妃様とそれに気が付いて微笑む国王様…威厳も何もあったものではありません。
もしかしたら、先日の一件以来、お互いの気持ちを確かめあったのでしょうか?
見ているこちらの方が辛いです。…そういうのはお二人の時にしてください…。
「僕たちも早くあんな風に甘い雰囲気を出せるようになりたいね。…早めに婚姻をしようか?」
ヒソヒソとセオドア様が言いましたが、今はそれどころではないので軽く無視しました。
「フム…其方らの事情は分かったが…」
私たちの計画を国王様にお話しすると、予想外にも難色を示されました。
「今回、100年前に封印された精霊の御霊を救い出すことが可能なのは分かった…しかし、初代国王である英雄が掛けた呪いを四大精霊の力でも解くことが出来ないとなると、事態を解決するのは難しいのではないか?」
「ですから、精霊王様の力をお借りして呪縛を解くのです‼」
セオドア様が強い口調で仰っても国王様の苦い表情は変わりません。
「それはあくまでもこちら側の希望的観測というものだろう?」
…国王様が仰る意味が解りません。国王様は深いため息を吐かれると私たちを今一度見据えられました。
「我々にとっては精霊王の力を借りて初代国王の呪縛を解くことがこの地の呪いを解く最善の道だということは判っている。…それによりライオスと精霊の魂も解放されれば、再びこの国に平穏がやってくることもだ。
…しかし、力を貸す精霊王にとってのメリットはどこにある?利が無くて人は動かん。精霊もそうではないのか?」
言われて私たちも気が付きました。
確かに私たちに力を貸しても精霊王様にメリットはありません。
…むしろ同胞を封印していた私たちを恨んで攻撃する可能性だってあり得るのです。
自分たちの思い付きに酔いしれていた私たちは、そんなことすら気が付くことが出来ませんでした。
重苦しい沈黙が私たちを包み込みます。
この計画は一度考え直した方が良いのでは?…そう思った時、水の精霊ティアが口を開きました。
「これは、精霊王様ご自身に関わる秘密だから言うことは…はばかられたのだけれど。…実は、500年前に英雄に封じられたままの精霊は現精霊王様のお妹様なのです」
これには皆、衝撃を受けました。精霊王様とオールヴァンズ王国にこんな関係性があったとは夢にも思いませんでした。フェイたちまで驚いている様子ですから、公にはなっていない話なのかもしれませんが…。私は慌てて国王両陛下にティアの言葉を伝えました。
ティアは器を失ってから長い眠りについていました。眠っている間も耳は聞こえ、様々な情報が概念の世界から流れ込んできたそうです。
「500年前に、精霊王様とその妹のへヴェル様はインマヌエル公国で平穏に暮らしていたわ」
そこは幸せだが終わりの無い世界。平穏だが、刺激のない毎日…へヴェル様はそんな風に感じて暮らしていた様だった。
そんなある日、森の泉の傍に一人の若者がケガをして現れた。…それがライオス・アーロ・テイラーの前世であった男だった。ライオスの父は妖精族、母は人間で異種族婚のすえ、彼は生まれた…。
母親と父親の種族が違うことで両方から迫害を受けた彼は、子供のうちに家を飛び出した。
…だから満足な教育も受けられず、この世界中のどこにも居場所が無かったと涙を流して苦しんでいた。
その様子を哀れに思ったへヴェルは、ライオスのケガを癒し、彼を献身的に介抱した。
ライオスも今まで誰からも与えられることの無かった無償の愛を受け、いつしか彼女を愛するようになった。…もちろんその思いはへヴェルにも伝わり、二人は互いに愛し合うようになった…。
またも種族を超えた愛が生まれてしまったのだ。
しかし、いくら妖精族の血が半分流れているとはいえ人間と精霊との間には寿命の壁がある。
自分を置いて先に死んでしまう人間との婚姻を精霊王は決して許してくれなかった…。
精霊は番を失えば、自ら命を絶つほどの苦しみを味わう。そんな危険な相手との婚姻を許す訳にはいかない…。それは妹を思うがゆえのことだったが、愛し合う二人にとっては障壁にしかならなかった。
そして、祖国を捨てた二人は海を渡り、オールヴァンズへと逃れてきたのだ…愛し合うがゆえに、この後に起こる運命も知らずに…。
「精霊王様はご自分が二人のことを認めなかったせいでへヴェル様の魂が捕らわれ続けていることを悔いていらっしゃいます。
今回私たちをオールヴァンズ王国に向かわせたのもへヴェル様の開放が目的かと。
…ですから、精霊王様は必ずやオールヴァンズ王国の呪いを解きこの地を清浄なあるべき大地へと変えて下さいます‼ぜひ封印解放のご許可をお願い致します。」
水の精霊ティアの言葉を国王様に伝え終えると、国王様は静かに目を閉じられました。
「そうか…精霊王にもそのような過去があったのか…」と呟かれたのです。
「事情は分かった。それならば精霊王も我々に協力してくれるのは間違いないであろう。…これよりは、封印解放の儀式を行うための準備を致せ。そのために必要な物があれば余の権限によりすべて王宮で用意しよう」
国王様の宣言により、いよいよ100年前の封印を解くことが決定しました。
…止まっていたこの国の刻が動き出すのはもう少しです。




