39 英雄の恋物語
【英雄の恋物語】
〈あるところに美しい精霊と若者がおりました。
若者は人間でしたが、精霊と愛し合っており、二人は森で幸せに暮らしていたのです。
ある日、とても美しい青年がその森を通りかかりました。そこで、美しい精霊の姿を見た青年はたちまち精霊に恋をしました。
精霊に恋心を伝えましたが、彼女は既に愛する人がいるからと青年の愛を拒みました。
青年は精霊のことが諦めきれず、彼女を無理やり攫って王宮へ戻りました。
実は青年は英雄と呼ばれたこの国の王様だったのです。
王宮で豪華な暮らしを与えれば精霊の心も変わるだろうと王様は、宝石や素晴らしい食事、豪奢なドレスを彼女に与えました。
しかし、精霊は泣くばかりでそれを受取ろうともしません。
国王は何が欲しいのだと精霊に聞きました。彼女は「愛する人のところへ帰りたい」と言い泣き暮らし続けました。
そんなある日、みすぼらしい身なりをした若者が王宮を訪れ「精霊を返して欲しい」と懇願してきました。その若者こそが精霊の愛する人でした。
王様は「私に勝てたら返してやろう」と若者に勝負を挑みました。
強い盾と魔法の剣を持つ王様に対し、若者は木の棒とボロボロのマントで戦うことを強いられました。
何度も魔法の剣で切られて、遂には若者が絶命しそうになった時、精霊が前に飛び出し若者を庇ったのです。
王様の魔法の剣で精霊は深く傷つきました。その魔法の剣は生命のあるありとあらゆるものを切り裂く魔法がかかっていたのです。
嘆く若者に精霊は「私が死んで魂だけになったら、いつかあなたが死んだときに必ず迎えに行くわ今度こそ幸せに暮らしましょう」と言いました。
王様はそれを聞くと、禁断の魔法を使いました。それはあらゆる魂を閉じ込めてしまう呪いの魔法です。たちまち無垢な精霊の魂は王様に捕らわれました。
「これで未来永劫、この精霊は生まれ変わることが出来ない!私のモノとなったのだ」
王様は高らかに笑いました。
若者は精霊のからっぽの器を抱きしめ泣きました。そして、精霊の器を魔力の玉に変えるとそれを飲みほしたのです。その魔力は強大で、みるみるうちに若者の傷は癒えていきました。
しかし、それは同時に王様の呪いを自分の身に受けることでもありました。
若者は苦しみに苦しい息を吐きながらも「いつかこの国と英雄の血を引くもの全てに復讐してやる」と言い残し、何処かへ消えていきました。
そして王様は捕らえた精霊の魂を自分にしか分からないところへ隠してしまいました。決して誰にも見つからないように。
精霊の魂に残された強大な力は国の礎となり、オールヴァンズの国は栄えたということです。〉
…読み終えた時、私にはライオス宰相の正体がうっすらと見えた気がしました。
もしかしたら、彼はこの時に呪いを受けた若者の生まれ変わりなのではないでしょうか…?
根拠はありませんが、彼の王族に対する強い憎しみはこの物語の若者の様に深く傷つけられた者にしか持ち続けることは出来ない気がします。
そうで無くては500年もの間、恨み続けることは出来ないのではないでしょうか。
私は国王様にそうお話ししました。
勿論憶測ですし、途方もない話です。でも、なぜでしょうか…そんな気がしてなりません。
私の話に国王様も頷かれました。だとしても、何度も生まれ変わった若者が今の王家にのみ恨みをぶつけた理由は分かりませんが。
「もしかしたら、【人心掌握の秘術】と【不老不死の秘術】をこの時代で手に入れてしまったことが記憶を呼び起こす引き金になったということは考えられないかな」
セオドア様が呟きました。たしかに、今までの事件は全て秘術が使われて行われています。
…確かに今までよりも王家に侵入し、恨みを晴らしやすくなった為に今回の犯行を起こした…というのも辻褄は合います。
ただ、今の段階では憶測しかできません。これ以上はライオス本人に聞かなくては判りません。
今もライオス宰相は見つかっていません。彼は今、どこで何を考えているのでしょうか…。
そんなことを考えていた時、ふと気になることを思い出しました。
100年前の国王様の時にも戦争で荒れた土地を肥沃の地にするために、精霊の御霊を封じ込めたと書いてありました。そして精霊王様の怒りをかったと。
あれは初代の英雄様が精霊の御霊を封じ込めた場所と同じ所なのでしょうか?
そうだとすればそこは王宮のどこにあたるのでしょうか?
それを訪ねた時、国王様の目に光が灯りました。もしかしたらご存じなのでしょうか?
「恐らく…ではあるが、王族の一族が眠る墓地…そこに英雄の墓がある。英雄の墓に設えられた石櫃に眠っている可能性がある」
そう仰ると「では確かめに参ろうか」と厳しい表情をなされました。
今からですか⁈…もはや怖いから行きたくないと言える雰囲気ではありません。私は無言のフェイをギュッと胸に抱きしめました。
ふと見ると、リアム王子様も青い顔でルーフィーを抱きしめています。私たちは顔を見合わせてどちらからともなく笑いました。
怖いんだから、誰かに縋りたい気持ちなんです‼ 私たちは国王様の後について歩き出しました。
後ろではセオドア様が「そんなに怖いなら私に抱き着いてくれれば良いのに」と独りごちていましたが、私の耳には届きませんでした。




