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37 時間を超えて芽生えるモノ

オリバレス王妃とライオス宰相との間に、そんな接点があったなんて…。

私たちは驚きを隠せず慌てふためいていましたが、オリバレス妃は国王に目を向け続けました。


「私は父であるブラインズ公爵とライオス宰相との企みの末に王妃になっただけの女です。愛の無いまま嫁いだ私もいわば咎人。どのような罰でもお受けいたします。

 …でもリアムに罪はありません。どうか、私の命と引き換えにリアムだけはお助け下さいませんか? 愚かな母親の最後のお願いでございます」


 そう言うと大粒の涙を一粒零したオリバレス妃は、今まで見たことも無いほど美しかった。


「…余にも隠し事があってな…」


 国王様の言葉にオリバレス妃はパッと顔を上げた。


「…ダリア王妃が嫁いでくる数年前になるか…、余は一人の女性と恋に落ちたことがあった…」


 その女性は城で働くメイドだったそうだ。

 市井の出でありながら、上品な身のこなしでいつでも献身的に働く若く美しい女性だった。

 そんな彼女に次第に国王も心を奪われるようになっていったのだ。

 勿論、身分の差があるため、メイドの方は本気で愛されていると思っていなかったのだろう。

 そんな態度にイライラし、国王は彼女の自分への気持ちを問い詰めた。

 メイドは『私が貴方様を愛しても、身分の違いは不幸の元となります』と決して首を縦に振ろうとはしなかったが、若気の至りで国王は彼女と一線を越えてしまった。


「しばらくして、彼女の姿が見えないことに気づき、城の使用人を問い詰めたが、『彼女は故郷へ帰ると言って王宮勤めを辞めた』としか分からなかった…」


 当然、国王は彼女の行方を捜したが、ついに彼女を見つけることは出来なかった。

 もう二度と愛する人など出来ないと国王は縁談を断り続け、王宮の重鎮を困らせた。


「余は本当に若く愚かであった…」


 そうして、数年の時が流れた頃、近隣諸国の王族であるダリア王妃との婚姻が持ち上がったのだ。

「余は、いつものように『余には思い人がいる。彼女を忘れない限りは誰とも婚姻を結ばない』と言って断ろうとした」


 そう言えば、大抵の王族や貴族令嬢は憤慨するか、『私の魅力で直ぐに忘れられますわ』と的外れなことを言うので破談にしやすいと判っていたからだ。

 しかしダリア王妃は違った。ニッコリほほ笑むと「なぜ、その想い人を忘れようとなさるのですか?」と逆に質問してきたのだ。

 当然、「忘れなければ次に愛する人など作れないからだ」と答えた余に彼女は言ったのだ。『人を愛する気持ちを持っている人が、それを忘れる必要はない』と。

 余にとっては衝撃だったが、彼女は余の反応が意外だったのかこう続けた。


「私たちの国には王家のみが口伝で引き継ぐ【人心掌握の秘術】と【不老不死の秘術】がございます。【人心掌握の秘術】は人の記憶や心を操り、全てを忘れさせることの出来る秘術。もう一つの【不老不死の秘術】は老化を止めるのではなく、自分の魂を別の器に移し替えることのできる秘術です…。

 どちらも恐ろしい秘術ですし、今の国王様に【人心掌握の秘術】を使えば、確かに愛された人を忘れることは容易いでしょう。…でも、それは愛した人との思い出も同時に奪う技でございます。本当にそれが、貴方の為になるとは私は思えません」


 彼女は余の手を両手で握りしめ、『過去を捨てるのではなく、全てを背負いながら新しい時を生きていく…それこそが、心の傷を癒す一番の方法ではないでしょうか?』と言ってくれた…。

 その時、余の心の中で、やっと新しい火が灯ったように感じられ、余はダリアと婚姻を結んだのだ。…その時に彼の国に伝わる秘術についても聞いてはいたのだ。

 ダリアと暮らす日々は楽しかった。セオドアも生まれ、余は公務や雑務に追われながらも妻や子供の成長を楽しみにすることが出来たのだから。


 …そして、ダリア王妃が殺害されてしまったあの事件が起きた。


 直ちにグレイソン公爵に命じ、犯人探しが始まった。

 毒入りの小瓶を持ったメイド長が捕縛され、解決をみたと思ったとき、グレイソン公爵から意外なことを告げられたのだ。

 『毒薬を売買した薬師からブラインズ公爵が事件に関与していると証言が取れた』と…。


 余は直ちにブラインズ公爵を呼び出し、事情を問い詰めた。しかし、その後の記憶は曖昧で、いつの間にかグレイソン公爵の妄言であったと、メイド長を裁くことで事件は解決したと言われていた。

 更に、ダリア妃の亡き後妻を娶るつもりのなかった国王にブラインズ公爵がしつこく娘を王妃の後釜にと進めてきたときにも、記憶の混濁の後、なし崩し的にオリバレスを娶るということで話は進んでいったのだ。


「愛の無い結婚だとオリバレスは言うが、余にとってもそれは同じことだった。…其方にはつらい思いをさせたな」


 オリバレス妃は静かに涙を流しながらうつむかれました。


「だが、リアムが生まれ、その成長を見守るうちに其方とも次第に心を寄せあえるようになったと思っていたのは余の勘違いか?

 確かに最初は愛の無い婚姻であったが、今では余にとって誰よりも愛する妃になった。其方はそれでも、余と離れたいと言うのだろうか?」


 国王様の言葉にオリバレス妃は何度も頷かれます。


「私も最初は愛の無い婚姻でございました。父やライオスに操られただけの愚かな女でございました。でも、リアムを胸に抱いたとき、私に愛する王子を与えてくれた国王様も私にとって最愛の方になっていたと気が付いたのです。…でも、咎人の私は罪を償わなくてはなりませんもの」


 オリバレス王妃の言葉を聞いた国王はそっと玉座から立ち上がるとオリバレス王妃を抱きしめました。


「確かにブラインズ公爵とライオスには罪を償ってもらわなくてはならん。それはいくら王妃の父であろうとも免れることのできない罪だ。だが、操られ傷つけられただけの其方が咎人だというのなら、余も同じ。二人で国を再建していくことがそなたに出来る贖罪だと思わぬか?」


「私で…よろしいのですか」オリバレス妃の言葉に国王様は頷かれ「そなたが良いのだ」と仰られました。


 そして、全てを見ていた私たちにバツの悪そうな顔をされると、

「とにかく、ライオスは偽名であることが発覚し、現在も逃走中だ。…ブラインズ公爵の捕縛も既に王宮警備隊に命じておるから心配せずとも良い‼

しかし今日はもう遅い…既に夜も更けたことだし、疲れたであろう。皆の者、今晩は王宮に泊っていくがよいぞ」


そう告げられ、謁見は終了したのでございました。


ご指摘ありがとうございます!

20年前←数年前に修正しました。設定ミス…恥ずかしい…

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