表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/73

36 宰相ライオス・アーロ・テイラーと王妃様

「ライオス・アーロ・テイラーの過去…?」


セオドア様が怪訝な顔をしてオリバレス王妃様を見つめます。

公爵家育ちの箱入りお嬢様だったオリバレス王妃様と宰相にどんな接点があるというのでしょうか?

 オリバレス妃は皆に注目される中、苦しそうに、しかしはっきりと話し始めました。


「私はライオス・アーロ・テイラーと、結婚前に親密だったことがございました」


 親密…って、えーとお友達とか、そういう事ではないですよね?


「恋仲だったと申し上げた方が、よろしいかもしれません」


 やっぱりそうですか…国王様がお隣にいらっしゃるのに、そんなことをお話しされて良いのでしょうか…?他人事ながらハラハラしてしまいます。


「かつて、私はブラインズ公爵家の一人娘として、ゆくゆくは王妃になるようにと教育されておりました。勿論、蝶よ花よと育てられ、わがまま放題の娘でした」


 …そう仰られると、オリバレス王妃様は遠い目をされました。過去の自分を見つめているのでしょうか。それは悲しげで、慈しみの瞳でした。


 オリバレス・ミシェル・ブラインズは蝶よ花よと育てられ、欲しいものは何でも与えられて育った。美しく、気まぐれな彼女に心奪われた者は多く、様々な貴族から求婚されていたが、ブラインズ公爵はけっして首を縦に振ろうとはしなかった。

 そして『いつかお前がこの国の王妃になるんだ』と娘に繰り返し言い聞かせ続けた。

 その言葉が、親からの願いでは無く呪詛のようだと感じた頃、オリバレスは父から一人の男性を紹介される。

 彼の名前はライオス・アーロ・テイラー…その当時で40歳前後だろうか。

 彼はオリバレスにほほ笑むと、「これから、お世話になります」とだけ挨拶した。


 ライオスは非常に真面目な男だった。その仕事ぶりや、領民への誠実な態度に周りもライオスに好感を抱くようになっていた。…もちろんオリバレスも。

 オリバレスはライオスに様々な話を聞いた。

 彼はいつも『私は下賤の身ですから、お嬢さまにはこんな生活は想像できないでしょう』と自身が、市中でどのような生活をしていたのかも語ってくれた。スラムや、親からの暴行、食べるために何の仕事でもやったということまで包み隠さず話してくれたのだ。


 最初は【下賤で汚らしい生活】と思っていたオリバレスも次第に【自由で心躍る生活】と考えを変え始めた。…その時にはすでに、彼に恋をしていたのかもしれない…。

 父が、仕事で留守にした晩、オリバレスはライオスに心に秘めていた思いを伝えた。

 始めは戸惑っていた彼も、『私のような者でも貴女に愛して頂けるのですね…』とオリバレスに口づけした。…そして、二人はその晩結ばれたのだ。


 それからは、オリバレスにとって幸せな日々だった。

 既に実績が認められ、王宮で働いている彼と毎日会うことは出来ないが、折を見ては会いに来てくれる誠実なライオスはオリバレスだけを愛してくれている。

 …いつか彼が王宮で認められ家格を上げれば結婚できるかもしれない…そう思う日々は夢のような毎日だった。

 母も早くに他界し、父の『王妃にさせたい』という妄執に縛られ、オリバレスは孤独だった。

 だからこそ、父のような存在のライオスに愛を求めたのかもしれない…。

 しかし幸せの絶頂は長くは続かなかった。


 少し前から、父の様子がおかしくなり、挙動が不審だったため、コッソリと父を見張っていたオリバレスは、屋敷の裏口で父が見たことも無い男から小瓶を受け取る様子を目撃してしまったのだ。

 何度も辺りを見回し、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべるその様子はあからさまに不審で、オリバレスは恐怖のあまり部屋へと逃げ帰ってしまった。

 あの小瓶は何だったのだろう…?そう思ったが、口に出せないまま日にちだけが過ぎていった。


 そして、王妃様が殺害されたあの日、小瓶の毒薬が使われたことをオリバレスは知ったのだった。

 その晩、父が小躍りせんばかりに喜びながら「オリバレス喜べ。これでお前を次の王妃にしてやることができる」とうわごとの様に繰り返すのをどこか人ごとのように聞いていた。

 …あの時、父が手に入れていた小瓶と、今回使われた毒の小瓶が無関係とは思えない。

 その上、このままでは国王に嫁がされて愛の無い結婚をさせられてしまう…。


 オリバレスはライオスに相談してみようと心に誓った。


 その晩、コッソリとライオスの元に向かった彼女はライオスに父が何者かから小瓶を受け取っていたこと、その後にダリア王妃の毒殺事件が起き、偶然とは思えないことを一生懸命に伝えた。

 ライオスは彼女を抱き締め、ずっと頭を撫でてくれた。私だけを愛し、心から心配してくれる最愛の人…そう思っていた。


 しかし、話を聞き終わったライオスは突然笑い出した。そして、

「あーあ、ブラインズ公爵も大したことねぇな…娘に見られているなんて」と呟くと、オリバレスを激しく突き飛ばしたのだ。

 いきなりのことに驚き、痛みに声も出ないオリバレスを嘲るように見つめると、ライオスは言った。


「いいか?あんたをダリア王妃の後釜に据えるために俺が王妃とメイド長を殺したんだよ‼」


 そして、ライオスは続けた。あんたを愛している振りをするのは大変だった。これでやっと肩の荷が下りると…。

 愛されていると信じていたのに…オリバレスは自分の幸せな世界が崩壊していくのを感じた。彼との幸せな時間は自分だけの世界で、彼にとっては偽りと欺瞞に満ちていたのだ。


「嘘つき…このことを王宮に、国王様に告発するわ…」


 弱弱しく抵抗を見せるが、ライオスは馬鹿にした様子でこう告げた。


「俺が、なんでこんなことまで話したのか分かっていない様だな。教えてやるよ」


 そう言うと、オリバレスの顔を強くつかみ上を向かせる。


「俺は【人心掌握の秘術】を手に入れたんだ。もう、あんたは俺のことを忘れ、国王の元へ嫁ぐことしか考えられない高慢ちきな女になるんだよ」


 彼の瞳に映る涙に濡れ、心をボロボロにされた惨めな自分…それが最後の記憶だった。

 そして、記憶を操作され、ライオスの操り人形になった彼女は彼のことも、事件のことも忘れた。


 もしかしたら、何度か思い出すきっかけがあったのかもしれない。

 しかしライオスに近くで見張られ、その都度記憶を操作され続けたのだろう、何度か自分でも不審なほどにその日にあった出来事を忘れていることが度々あった。

 そして、その度にライオスに囁かれるのだ「王妃様、国王様がお待ちですよ」と。


 「…私は本当に愚かでした。私の記憶を消す際に最後にライオスが言った言葉が今ならはっきりと思い出せます。

  …彼は『俺は王族に恨みがある。何度生まれ変わってもオールヴァンズの英雄の子孫だけは許さない…心まで壊して全てを奪ってやるまでは…』そう言っていました。


 オリバレス王妃は全てを話し、悲し気にほほ笑まれました。


ユニークユーザーの方が多いことに驚いております。

沢山読んでいただけるのは作品を作る上でも、励みになります。

今しばらくお付き合いくださいますよう、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ