31 ムッツリ王子VS親バカ公爵
「アメリアが王宮で倒れ、現在も意識不明の状態」との知らせを受けたグレイソン公爵夫妻は直ちに王宮に駆け付けた。
「アメリア! 無事かっ‼」先導する使用人も驚くほどの大声で部屋へ駆け込むと、
「まだ、意識は戻っていません。お静かに願います」と、セオドア王子が唇に人差し指を当て、ほほ笑んだ。
「アメリアは大丈夫なのか⁈」
ベッドで眠る娘の姿に安堵したものの、やはり不安で、ルーカスは再度セオドアに確認する。
「はい。リアム王子の魔力暴走を止め、彼から魔力を吸い上げた影響で疲れたのでしょう。先ほど、王宮の医師の診断を受けましたが、体調に問題は無いと言っていました。」
ホッとするも、今度は別のことが気になり始めた。娘を夜着に着替えさせ、ベッドで休ませたのは誰なのだ⁈ 由々しき問題である。
「ここは…セオドア様の私室ではないですか?娘は夜着に着替えて休んでいるようですし …このベッドは王子様のお休みになる所では…?」
「はい、そうですけれど。勿論、着替えはメイドがさせましたし、何か問題でも?」
ニッコリとほほ笑むセオドア王子の笑顔には一点の曇りもない。
いやいや、問題しかないだろうが‼ 嫁入り前の娘を夜着で王子様のベッドに寝かせたい親が何処にいるというのか⁈
この爽やかな笑顔に騙されてはいけない!アメリアの貞操は親である私が守らなければ‼
「いやいや、王子様にご迷惑をお掛けするわけには参りません。今すぐに娘は我が家でゆっくりと休養させますので、お暇します」
グレイソン公爵も負けじとほほ笑む。
「お気になさらないでください。彼女を移動したら、せっかく眠っているのに起こしてしまうかもしれません。このままで大丈夫ですよ」
セオドアも言い負けるものかと更にほほ笑んだ。二人で『フフフ、アハハ』と笑顔ではいるが、親バカな父親VSムッツリ王子の無言の攻防に周りがハラハラしていたその時、「オーッス‼お待たせー‼」とフェイが空気も読まず室内に入ってきた。
とっさに「待っていない‼」と心で突っ込みを入れたセオドアだったが、フェイの抱えている物を見て驚愕した。
「フェイ‼ それって、まさか…」
エメラルドに輝くそれは紛れもなく精霊の卵だった。
「おっ⁈ セオドアにもこの卵は見えているのか?」フェイの言葉にセオドアは頷いた。勿論エステル夫人にも見えている。
「何の話なんだい…?仲間外れにしないでくれよー‼」と叫ぶのはルーカスただ一人だったが、周りから軽く無視された。
「アメリアが、リアムの魔力暴走を止めた後、リアムの魔力を吸収した…それでこの卵が産まれたとすれば …これは、風の精霊が生まれるってこと… かな?」
セオドアの言葉に頷くと、フェイはベッドによじ登り、アメリアの胸元で組んでいる手に卵を乗せた。
「世界樹の近くに置けば、多分もうすぐ生まれる。…風の精霊の誕生だ‼」
しばらく見ていたが、一向に生まれる気配はない。
「まだ、しばらくは掛かるの…かな?」曖昧にフェイが笑うと扉がノックされ、執事が入ってきた。
「ご歓談中のところ、失礼いたします。火急の用件がございまして」
「またか⁈」一同は一瞬そう思ったが、無言で続きを促した。
「リアム第2王子様がお目覚めになられました。今回の件をどうしても皆様に直接お詫びしたいとのお言葉です。ぜひこちらから出向きたいと仰せですが、いかがなさいますか?」
リアム第2王子様も無事にお目覚めになられたのか…良かった。
グレイソン公爵は臣下としては安堵すると同時に、愛娘のアメリアをこんな状況に追い込んだ彼を親としては苦々しく思う気持ちに揺れた。
セオドア王子も同じ気持ちなのだろう、躊躇っている様子が見て取れる。
「まだ…アメリアも目覚めていないし、彼女のこんな状況をあまり人目に触れさせたくないから…」
セオドア王子の言葉にグレイソン公爵夫妻も同意しようとしたその時、声がした。
「待って下さい…リアム王子様に…ぜひお目通りをと…お伝えください…」
「アメリア!目が覚めたのか⁈」
駆け寄る一同に、弱々しくも、はっきりとアメリアは自分の意思を伝えた。
「私ならもう大丈夫です。それより、リアム王子様は人から受け入れられない事を嘆かれて魔力を暴走させてしまったのです。…ここで拒絶などしたくありません…」
そうだったのか。魔力暴走させてしまった原因が人からの拒絶にあるとすれば、確かにここで面会を断ることは、リアム王子をより傷つけてしまう事にもなりかねない。
「分かった。それでは、リアムをこちらへ。」
セオドアの言葉に恭しく一礼すると執事は退出していった。
「「アメリア‼大丈夫なのかい⁈どこか体で痛い所とかは…?」」
父とセオドア王子が我先にとアメリアに駆け寄った。
「ええ… っつ…転んだ時に強く打ち付けた背中と腰が少々痛みます…」
「ああ、そこは医師が治療していったから。…魔法治療がアメリアの体にどんな影響を与えるか判らないからと、旧式ではあるけれど、痛み止めの薬を塗っていった。多分、明日には痛みが引くと思うよ」
セオドアの言葉に安堵したアメリアだったが、もう一つ気になる点がある。
「あの… 私の手の中にある…これはもしかして精霊の…卵ですよね?」
淡く光るエメラルドの輝きに驚きつつも、そっと両手で包み込むと、卵はほのかに暖かく、アメリアの金の瞳を照らした。
…今度は風の精霊の卵のようだが、どんな精霊が生まれて来るのだろうか…?
またフェイのような口の悪い精霊かもしれない…そう思うと、楽しみ半分、不安半分のアメリアなのだった。




