30 リアム第2王子の苦悩②
「…僕だけの魅力…?」
その後も、アメリア嬢の言葉が頭にちらついて勉強も剣術も身が入りませんでした。
誰も言ってくれない僕だけの魅力…それを彼女は数回しか会っていないのに判ってくれたんだ‼そう思うと胸が高鳴ります。
もう一度話したいと思い、彼女が王宮図書館から出てくる頃合いを見計らって、廊下をウロウロしていると、少し慌てた面持ちで、アメリア嬢とセオドアお兄様が出てきました。
何だか少し慌てている様子に、話しかけるのを躊躇っていると、向こうから国王とライオス宰相が現れて、二人に話しかけ始めました。
…僕はライオス宰相が苦手です。彼は普段仮面を被っていますが、そのせいで表情が見えないのも嫌な感じです。…でもすでに50、60歳以上のお爺さんなんだから顔を見られたくないのかもしれません。
彼らに見つからないようにコッソリと柱の陰から様子を伺っていた時、ライオス宰相がアメリア嬢の方へ身を乗り出しました。
その瞬間、アメリア嬢の顔が苦痛に歪んで、彼女が普通の状態では無いことを悟りましたが、兄が何か二言三言いうと、その場は収まり、二人は王宮から出て行きました。
…離れていたために、話の内容までは聞こえなかったこともあり、僕はその時の内容を知りたいと、ライオス宰相の後をコッソリつけたのです。
彼は国王と別れると、王宮の地下室へと向かいました。
てっきり自室に向かうと思っていましたので、驚く半面ここで何をするつもりなのかと好奇心に突き動かされていたことも事実です。
彼は全く人気のない地下室の一室に入ると静かにドアを閉めました。
…辺りは薄暗く、湿った匂いがします。無造作に置かれた箱や雑多な物の上には埃が積り、普段から人の出入りがあまりない場所なのだと思えました。
そこで引き返せば良かったのですが、好奇心に負けた僕はそっと、ライオス宰相の消えた地下室の扉を開きました。
扉は予想よりも軽く、音もなく開きました。中に入り、部屋を見回しましたが、誰もいません。その時『ガチャリ』と金属音が響き、僕は閉じ込められたと気づきました。
「ライオス宰相だろう⁈ ふざけていないで開けてくれ‼」と激しく扉を叩きましたが、返事はありません。地下のため、窓もなく、叫んでも誰にも気づかれない…‼
何度も扉に体当たりし、疲れた頃、外からライオス宰相の笑い声が聞こえました。
「リアム王子…あなたは本当に愚かな人だ」
何だ? 突然…?いきなり罵倒され、僕は驚きました。
「後をつけたことは悪かった。謝るからふざけていないでここから出してくれ」
繰り返し頼んでいる僕をあざ笑うようにライオス宰相は言いました。
「貴方なんて、セオドア王子に比べたら価値の無い存在ではないですか。ここで死んでしまっても誰も悲しまない」
一瞬、殴られたような衝撃に黙る僕に気を良くしたのか、ライオスはなおも続けます。
「本当は自分に価値が無いことは知っているのでしょう?オリバレス王妃も貴方が王位継承権を持っているから愛しているだけ。…セオドア王子さえいればこの国は安泰だし、貴方が興味を持っているあの令嬢も所詮セオドア王子のモノだ。貴方を求めるものは誰もおらず、貴方がいなければと思っている者もいる」
「嘘…だ」小さな声で反論するが、それが真実だと自分には思える。
アメリアが言った言葉も、所詮はお世辞で、自分には価値など無いのだと。
「もうここで終わりにしましょう。貴方が死ねばみんなが幸せになれるのですから‼」
宰相が歌うようにそう告げた瞬間、リアムの体から大きなうねりに似た力が飛び出した。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ…」
繰り返し自分を取り戻そうとするけれど、一度爆発した魔力は途轍もない破壊力となって、扉や階段を破壊していく。
このままでは王宮も壊してしまうかもしれない…そう思ったが、同時に自分を愛してくれないこんな国は破壊してしまっても良いのではないか…とも思う。
ギリギリの精神の中で、ライオス宰相にリアムは問いかけた。
「僕を苦しめて楽しいのか」と。
ライオス宰相はそれを聞くと大喜びし、手を打った。
「もう貴方はお終いだ。だから最後に教えてあげましょう。私はかつてこの国の王に愛する人を殺された。…彼女の復讐のために私はこの国を滅ぼしたいのです。
…特に彼女の魂を奪い、この国に縛り付けた王族が憎い…。だから貴方が苦しむのは私の喜びなのですよ」
そう告げると、ライオス宰相は姿を消した。きっと安全な場所へ避難したのだろう。
遠くなる意識の中で、リアムは自分が死んだらアメリア嬢は悲しんでくれるだろうかと考えた。
…魔力が暴走を続け、リアムの精神は既に擦り切れる寸前だった。自分が魔力暴走により起こした災害はどれだけの被害をもたらしているのだろう。
でも、どれだけ悩んでも自分はもうすぐ死ぬのだ。
真っ暗な世界に浮かぶ自分の自我が段々とぼやけてくる。あと少しで完全な闇と同化できる…そう考えていた時、光と共に、上から彼女が降ってきた。
アメリアが、どうしてここに⁈ 何が何だか分からず、風の力で彼女を受け止める。
幸い、アメリアはケガも無く無事なようだ。
「誰…?」声を聴きたくて、おずおずと声を掛ける。
「私はアメリア・エゼル・グレイソン、セオドア第1王子様の婚約者です」
凛と立ち答える彼女に見惚れる。こんなところまで、どうやってきたのだろう?
疑問ばかりが溢れるが生きることを諦めた僕はそれすら口に出来ない。
彼女はしきりに「帰ろう」と訴える。…僕は既に闇と同化してしまって、もう戻ることは出来ないのに。
『誰にも愛されない嫌われ者』だと言う自分に、彼女は『嘘つきに惑わされるな』と言ってくれた。
そして、全てが敵でも、アメリアだけは絶対に僕を嫌わない…とも。
その瞬間、心の中に渦巻いていた嫉妬や憎しみが霧散していくのを感じた。
ああ、自分は誰かに愛されたいと願うばかりに自分から寄り添う心を忘れていたのだと気が付いて…。
暗闇から抜け出した時、アメリアが駆け寄って僕の手を握ってくれた。
暖かい…僕は生きているんだ…そう感じ、僕は気を失った。
セオドアお兄様と比較されることも、愛されないと悩むこともこれから沢山あるだろう。
でも、僕にはいつでも信じていてくれる人がいる。たとえ、自分のモノにならなくても、生きて笑ってくれるだけで僕は強くなれる…そう願いながら。




