3 おや…?アメリアの姿が…
翌朝、すっかり気分の良くなったアメリアは大きく伸びをしながら目覚めた。
昨日の高熱もすっかり下がったようで、痛みもない。まあ、寝すぎか少し体の節々は痛むが、それ以外に異常は感じない。
むしろ、今までに感じたことのないような清々しさに、生まれ変わったような気持ちになる。
カーテンの隙間から差し込む光と、空から聞こえる小鳥のさえずりが朝を告げている。きっと良いお天気なのだろう。少し外が見たい… 。
アメリアはベッドから降りようとゆっくり体を起こした。
すると夜着の胸元から小さな赤い玉のようなものが羽毛布団の上で跳ねた。
慌てて掌で包むように掬い上げると、ほのかに温もりを感じる。
「これは… 卵かしら…? 」
見た目はたしかに卵のようだが、真っ赤に光るその形状は宝石のようにも見える。大体、なぜ私のベッドから卵が出てくるのか… 私が生んだわけでもあるまいし。
自分の考えにクスクスと忍び笑いをする。
きっと昨夜の病気の騒ぎの時に誰かが落としていったのだろう。
…後で聞いてみれば良いことだわ。
ベッド脇の小机にあるタオルの上に赤い卵のような物をそっと置くと、アメリアはソロソロと立ち上がった。
まだ体調が本調子ではないためか、具合は悪くないのに足に力が入らない。ゆっくり壁伝いに進むが、なかなか思うように歩けない。
今日は一日休んでいたほうがいいかもしれない… もつれる足で、ふと自分を映し出している鏡台に目をやる。
そこには夜着をまとい、おぼつかない足取りで歩く少女が写っていた。
こんな姿では淑女とは言えないわね。マナーの先生に怒られてしまうわ… 少し窶れたかしら… とぼんやり考えていたが、目の焦点がソコにあうと、驚きに一瞬固まったあとパニックが襲ってきた。
言いようのない不安と驚きが喉元まで到達したとき、アメリアは絶叫した。
「キャー!! 幽霊がいる! 私の髪が… 髪が… 誰か… 助けて! 」
アメリアの悲鳴を聞きつけ、イオナや執事長が部屋に飛び込んできた。
パニック状態で泣き叫ぶアメリアを抱き起しベッドへ運ぶと、執事長はお医者様を呼ぶために急ぎ部屋を出ていった。
入れ違いに部屋に入ってきたお母様に縋り付いてアメリアは泣き叫んだ。
「私の髪が幽霊みたいに真っ白になっている! きっと私、死んで幽霊になってしまったのだわ」
アメリアの髪色は一晩で銀髪から白髪へと変わっていたのだった。
パニックになっていたアメリアは気づいていなかったが、その後現れたお医者様により瞳の色もグレーから淡いゴールドに変わっていることを指摘された。
「これは昨夜の原因不明の病と何か関係があるのでしょうか」
お母様の質問には答えず、高齢のお医者様はアメリアの脈を測り、発熱や魔力の乱れが無いか等を調べていく。そして最後に大きなため息をつくと言った。
「こんな症例は初めてです。医師になってから数十年経ちますが、見たことも聞いたこともありません。ですから昨夜の病がお嬢様の外見の変化をもたらした可能性があるとしかお答えできませんな」
「アメリアの病状はどうなのでしょう。今は落ち着いて見えますけれど、また昨晩のような危険な状態になるなんてことは… 」
声を詰まらせながら涙声で訴えるお母様とは対極に、お医者様は冷静に答えた。
「いえ、理由は分かりませんが、アメリア様の病気は消えてしまったようです」
お医者様の言葉に喜びよりも驚きがその場を支配した。
「アメリア様は元々魔力を持たない方と伺っていますが、昨夜は全身に激しい魔力の渦ができ、体力を奪っている状態でした。私の治癒魔法程度では介入できないほどの激しさで、あのままでは確実にお命を落としていたことでしょう」
驚き、口々に話しはじめる一同に向かい深々と頭を下げると、お医者様はアメリアの頭をなでながら続けた。
「原因も解決した理由も分からず不甲斐ない老人ですが、現在のアメリア様は健康そのものだと断言できます。外見が少し変わろうともアメリア様の本質が変わったわけでは無い。これが大事なのではありませんかな? 熱も無く、脈拍も正常、そして… 」
その時アメリアのおなかがグーッと大きな音を立てた。
昨夜から何も食べていないことに体が不満の声を上げたようで、アメリアは恥ずかしさのあまりベッドにもぐりこんだ。
「食欲も正常ですな。あとはゆっくり休ませて体力の回復を図ってください」
お医者様は大笑いしながら帰っていった。
もうちょっと続けて投稿します




