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28 直接対決のススメ

アメリアは強く吹き付ける熱風に帆を広げ、大空を舞い上がっていた。

フェイが精霊の力を使って熱い空気の流れを調整してくれているのか、アメリアの帆はゆっくりと 竜巻の中心へと近づいていた。


 下では、王宮警備隊が誰かとひと悶着しているのが見える。…あれは、オリバレス第2王妃様…?

 彼女は自分の息子が引き起こした竜巻により、疲弊していた。

 ドレスは風に切り裂かれたのかズタズタで、かまいたちか全身に傷と血がにじんでいる。彼女はリアムの名を叫びながら、必死に竜巻に向かおうとして、警備隊に止められていたのだ。

 いつもの傲慢な様子はなりを潜め、今はただ愛するわが子を取り戻そうとする母親にしか見えなかった。


 この竜巻は、風の魔力暴走で発生した竜巻のため、正確には竜巻とは呼べないものかもしれない。

 現に、上空から見下ろした竜巻の中心には細く空洞があり、台風の目のように、外に向かって強い風が吹いているのが見える。

 その空洞の中心にリアム王子の姿が見えた‼


『見つけた‼』と思ったとき、アメリアは行動を起こしていた。広げていた帆をたたみ、一気に中央へと落ちていったのだ。

 2階以上の高さから飛び降りたのだから、通常であれば怪我では済まない高さだろう。

 それにも関わらず、アメリアは大した衝撃も無く竜巻の中央へと吸い込まれていった。


『誰…?』


 ―どこか遠い所から聞こえるようなか細い声がする。

 少し、幼い舌っ足らずなしゃべりで子供の声だ。


「リアム第2王子様…ですか?」


 アメリアは声が聞こえた方へ声を掛けた。

 上空から見た時はリアム王子の姿がはっきりと見えたのに、今は薄暗い個室の中にいるようで、時折外から激しい風の唸り声に似た『ゴオーゴオー』という音が聞こえるだけだ。誰の姿も見ることは出来ない。


「私は、貴女のお兄様の婚約者、アメリア・エゼル・グレイソンと申します。…何処にいらっしゃるのですか?」


 薄暗い空洞に向かって話しかけると、反応があった。


「アメ…リア…。お兄様の婚約者…?」


「そうです。セオドア王子様が心配していらっしゃいました。お母様も外でご一緒にお待ちですよ。さぁ、早く帰りましょう」


 そう言ったアメリアの前で、いきなり強く突風が吹き上げた。その衝撃に、アメリアは後ろへ吹っ飛ぶ。


「嘘だ。お兄様は僕のことが嫌いだからいつも無視していたし、お母様もお兄様の出来はいいのに僕はダメな子だっていつも言っている‼ 心配なんかするものか‼」


 後ろへ吹っ飛んだ衝撃で強く地面に叩きつけられたアメリアは痛みに顔をゆがませながら、直も彼に声を掛けた。


「嘘なんか言いません。リアム王子様が魔力の暴走をして苦しんでいるのをセオドア様は必死に止めようと竜巻の外で待っていらっしゃいます。オリバレス第2王妃様も竜巻でケガをしながら、リアム王子様の名前を呼び続けているのですよ!」


「そんなの嘘だ。だって…僕のことを本当は皆嫌いだって、誰にも愛されない可哀そうな子だから、ここで死んだ方が良いんだって…あの人が言っていたし」


「それこそが、嘘です‼貴方を心配して、どれ程の人が心を痛めているのか考えたことはありますか? 国王様も、王妃様も、セオドア様も…私も‼皆リアム王子様が心配だから傍にいるんです!」


「嘘…だ…」


「貴方に偽りを言って、周りから孤立させ、命を奪おうとした人物は誰なのですか?

そんな噓つきは、このアメリアが、思いっきりひっぱたいて、噛みついてやります‼」


 リアム王子にとって、愛される資格など無いダメな自分という言葉は呪いの様に絡みついた。そして、最愛の母親からも見捨てられると思った時に魔力が暴走したのだろう。


「こんな所に閉じこもっていては、皆の本当の気持ちを知ることは出来ませんよ?」


「本当の…気持ち…?」


 そう、リアム王子様に今、必要なのはアメリアに代弁された言葉ではない。

 不安な思いは想像の中では膨らみ、不信感を募らせる。直接話すことが必要だ。


「 外に出たら『僕のことを本当はどう思っているの?』って直接聞いてみてください。たとえ喧嘩になって、泣くことになったって、本心をぶつけ合えば、きっと仲良くなれますよ。」


「でも、嫌われたら怖いよ…」


 リアム王子の声が震えるが、アメリアは迷うことなく言った。


「嫌われたら仲直りすれば良いんです。泣かれたら抱きしめれば良いんです。そうすれば、不安とこんな絶望からは抜け出すことが出来ますから‼」


 不安に負けて、人の不幸や絶望を自分の楽しみのための道具にするような人間に負けてはいけないとアメリアは思う。

 人の気持ちは変わるものだ。だからこそ、伝え合いお互いを支えあうことが必要なのだ。その努力を続ければ、いつかは分かり合えるはずだから。


「万が一にでも…リアム様が世界中から嫌われたと思っても、大丈夫です‼」


 少しずつ霧が晴れるように全体が明るくなってきた。その中にリアム王子を見つけるとアメリアは駆け寄って伝えた。


「私はリアム王子を嫌ったりしません。だから勇気を出して、ここから出ましょう‼」


 リアム王子の体が崩れ落ちるように倒れた。

 それを支えようと、アメリアがリアム王子の体に触れた時、胸の奥に熱い魔力が流れ込んで来るのを感じる。初めての時よりも弱いが、確かに強い魔力が流れ込んで来た。

 余りに激しい衝撃に、アメリアは立っていることが出来ず、リアム王子の傍で一緒に倒れこみ、そのまま気を失った。

 周りでは突如消えた竜巻に王宮警備隊や魔術師たちが驚きを隠せない様子で駆け寄り、騒然となっている。


「アメリア‼大丈夫なのか…⁈」


彼女の姿を見つけたセオドアは、慌てて駆け寄ると、アメリアの脈が正常に打っていることに安堵した。


「気を失っているだけ、みたいだね」


 ほっとして、アメリアを抱きかかえると、こっそり王宮の自室へ向かう。

 とりあえず、この惨状と事情説明は後にして、彼女を休ませようと考えて。


 急ぎ王宮に向かうセオドアは気が付かなかったが、フェイはアメリアが使っていた帆の下に見つけたソレを大事に胸に抱えた。

 そして、ソレを壊さないように静かにセオドアの後を追って王宮へと向かう。…エメラルドに光る精霊の卵はフェイの腕の中で光り輝いていた。


「…これで二人目…だな」


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